■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川 カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


番外編:もろモロッコ!(1)

番外編:もろモロッコ!(2)
番外編:もろモロッコ!(3)
番外編:もろモロッコ!(4)
番外編:もろモロッコ!(5)

 

■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻(連載完了分)

■更新予定日:毎週木曜日

番外編:もろモロッコ!(6)

更新日2004/03/25

12月30日

今日も移動の日。砂漠の入り口であり、加藤茶ゆかりの町でもあったワルザザードからティネリールという町まで、通称「カスバ街道」をひたすら東へ進むルート。でもその前に、マラケシュ方面に30kmほど戻った地点にある世界遺産の町を見に行くことにする。我らがプジョー206(エアコン、カーステなし)よ、今日も軽快に、乾いたモロッコの大地を突っ走っておくれ!


というわけで世界遺産の町アイト・ベン・ハッドゥを目指し、標識に従って、はじめて幹線道路を外れる。いきなり、センターラインもない一本道。行き違う車でもっとも多いのは、観光にも市民の足にも大活躍の6人乗りグラン・タクシーだ。クリーム色のベンツ、なのだろうが、砂漠の埃でだろうすっかりカスタードクリーム色になっている。これが派手に砂埃を上げながら猛然と突っ走ってくるので、怖いったらありゃしない。

こちらと同じプジョー206も、よく見かける。どうやら外国人向けレンタカーでいちばんお手軽なのがこの車種らしい。キャリーとコータローによると、とても運転しやすいとか。腰痛持ちの私はコルセットをして座っていたのだが、たしかにしんどくなかった。弱点といえば、すわ観光客だと物売りが大挙して押しかけてくることくらいか。

アイト・ベン・ハッドゥは、ひと呼んで「モロッコのハリウッド」、『アラビアのロレンス』『グラディエーター』などが撮影されている。西部劇の背景だか月面だかのような殺伐とした景色の中に突然、土と同じ色の建物が複雑に折り重なってひとつの要塞となった町が現れる。まるで赤土色のレゴか、あるいはSimCityで作った町のような雰囲気だ。……そっか、まったく人の気配、町の気配がないんだ。たしかに、映画のセットがそのまま放置されちゃったようなかんじだ。

空は青く、オアシスを示すナツメヤシの緑が涼やかで、赤い大地はあくまでも広く、遥か北には雪を頂くアトラス山脈。それらを背景に、これ以上絵にならないような町がある。町を見晴らすポイントでしばし撮影したが、現像した写真の中でいちばん好きだったのは、「俺がモデルになるけん、1DH!」としつこくつきまとう子どもをヘイヘイと1DH(約10円と計算)払ってパチクリと撮ったものだった。モデルの腕、なのかもしれない。


ここから車は東へ、いよいよカスバ街道をゆく。カスバというのはもともとアラビア語で「砦」を意味する単語で、城塞に囲まれた居住区域のことをこう呼ぶのだという。たしかに、なんもねぇ景色の中をアクセル踏んでGO! GO! GO!なんて進んでいると、ゆらーりとカスバが現れては、視界の後ろへと過ぎ去っていく。カスバ、ばっかす。……なんて、しょうもないオイヤン駄洒落も炸裂しはじめる午後1時。

通りすがったエル・ケラア・ムグナという町でお昼休憩。着いてから知ったのだが、ローズ・ウォーターで有名な町らしい。街道沿いのレストランのうち、地元客もいるが観光客もウェルカム風の店を探して往復し、車を停める。頼んだのは定番のモロッコサラダ、それにチキンのブロシェットと、こちらは初登場のベルベル・オムレツ・タジン。

これは山盛りのゆで卵を野菜などのコクのあるソースで蒸し煮にしたものだったのだが、なんだかやたらと美味い。コータローがしきりに「パンに挟んで食べてみろ、なんか思い出すけんが」と言うので従うと、あ、たしかに。こ、これは……、カレーパンの味だー! かくして海外在住のデブふたり、日本の思い出に涙しながらゆで卵パンにかぶりついたね昼下がりのカスバ街道。


休憩ついでに、ベルベル・スカーフを買うことに。キャリーの目当ては黒い布に金や赤の糸で可愛らしい刺繍がしてあるもの、私は青地に端の方が黒く染められた布。街中で1枚200DHと言われたのだが、街道沿いの店ではスタートの時点で70DH。キャリーのは150DH。交渉したら、ふたつで140DHになった。おいおい、値段って、なんだい? キャリーが黒いワンピースに合わせよっかなと言っている隣で、私は店のひとに頼んで、布をさっそく頭にベルベル風に巻きつけてもらった。キャリーとコータロー、大爆笑。

鏡がないので自分ではどういう姿かよくわからないが、車中にも容赦なく降り注ぐ強烈な陽射しが避けられるのはうれしい。鼻から下を覆えば、埃っぽい道でマスクがわりにもなる。なるほどこりゃ便利だと、大満足。見た目がわからないのだけが心配だが。

と、寄り道したダデス峡谷というところの村で、世間話をしていた三人娘が、私を指差してきゃあきゃあ大騒ぎしながら笑いこけた。箸が転がってもおかしい年頃なのだから、モロッコの山奥の村に日本人がベルベル人風ターバン巻いて現れた日にゃそりゃたまらんだろうけどさぁ。ジェスチャーで「似合う?」と聞いたら、「ウィ、セ・ボン!」と可愛く頷いて、また涙を流さんばかりに笑っていた。……ゆるす。


夕刻、ティネリールに到着。ホテルはカスバを改装したというもので、雰囲気満点。レストランもベルベル風のテントと凝っている。セットメニューで、前菜はホワイトアスパラのポタージュかモロッコサラダ、メインはチキンソテーかカリア。カリアというのは砂漠地方の郷土料理で、やっぱりタジンの一種らしいのだが、濃いめに味付けされたひき肉を卵でとじたもので、素晴らしく美味い。うめー!と発情期のヤギさながらに叫びつつ、持ち込んだワインで乾杯。でも、隣のイタリア人団体はもっとうるさかった。

食事を終えると9時くらいで、レストランの外は寒風が吹きすさんでいる。早足で部屋へ帰ろうとすると、テントの外のテーブルで、いまから食事をはじめようとするグループが。会話に耳を澄ますと、あらスペイン語。話すと、セゴビアから来たグループだという。「スペイン人はやっぱりどこでもテラス席が好きで、9時過ぎにならないと晩飯が始められないんだ」と、いたく感心。バカだね人間って、そういうの大好き。


さてさてホテルは雰囲気満点なのだが、暖房が小さなヒーターしかなく、わりと寒い。今日もトリプルルームだったのだが、それぞれおやすみとベッドに横になったところで、ふとお互いの格好に気づいて大爆笑。

アメリカ・チームは、上半身は半袖Tシャツで、下半身は下着だけ。一方の私は、上半身は半袖Tシャツ、長袖Tシャツ2枚、トレーナー、フリース、それに下半身はジャージ、さらにその上からダウンのフード付きロングコートを着込んで、極めつけには持参のタオルを首に巻いている。「毛布を剥いでも風邪ひかない」が合言葉だ。って、なんの?

んで、そんな着ぐるみ状態の私が、「んー、やっぱり靴下はいとったら寝れんばい」と靴下を脱いでいると、チーム・アメリカが悶絶している。なになになに? と訊くと、彼らは今日は寒いので、いつもの格好に加えて特別に靴下をはいているのだという。「そんだけ着てから、肝心の靴下ば脱いでどうする!」とコータローがヒィヒィ言いながら叫ぶので、「えぇいそんな薄着野郎に笑われる覚えはないぜ、あんたらはカリフォルニアずれして冬の寒さを忘れとる!」と反撃。

それにしても、同じ部屋に枕を並べて寝るとは思えない両者の格好の違い。見れば見るほどおかしく、その夜はしばらくみんなで、モロッコ三人娘のようにヒャアヒャア笑い続けた。たぶん、スペイン人グループは前菜のモロッコサラダにオリーブオイルをかけて食べ終えた頃だったのだろうなぁ。


HOTEL DATA
 HOTEL TOMBOCTOU
 126 AVE.BIN ANZANONE
 TRIPLE WITH DINNER & BREAKFAST : 714DH

 

 

番外編:もろモロッコ!(7)

 


 
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