原園 綾
(はらぞの・あや)

1967年生まれ。世田谷区立赤堤小卒。ニューヨーク在住。大きくなったら何になろうかな?

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第13回:君の名はマントホエザル~その2

林の中、遠くでゴーッ、ゴーッと鳴き声が聞こえる。その声を頼りに木立を分け入ってゆくと、木の上にポツン、ポツンと黒い丸まったマントホエザルが見つかるの。私達が観察したグループは、2,30匹の構成。グループ内でもいくつかの小グループに別れて行動することもあるようで、数十匹まとまっていることもあれば、そのうちの数匹だけがいることも。大グループが移動しながら幾つかの小グループになる過程を追うこともあった。

鳴き声はよそのグループに対して領域を主張するためとか、雨風など大きな音に対しての反応という説明もある。でも3週間観察した限りでは、オメテペ島のホエザル達はよそのグループと接する機会が少ないのか、領域をめぐる対立は確認できなかったし、風が強く吹いて木々が音を立てても鳴き声は起きなかった。むしろ、互いに離れた小グループ間で鳴き声を交換して「コッチにおるぞー」「わしゃ、コッチじゃー」と位置を確認するコミュニケーションをしているような印象を受ける。もちろんその声には聞き耳情報が満載かもしれないけど。「西部戦線異常ナシでありますっ」、「うまい葉っぱみっけー」、「そろそろ雨が降るかもしれんな」、「こっちのメスは色っぽくなってきたぞー」とかさ。オスが「ゴーッ、ゴーッ」と大きな声(数キロ先まで聞こえる)で鳴くのに対し、メスは「ククッ」と口先で小さな音をたてる。合宿のレベッカ先生いわく、ククッは警戒している時の声らしい。子供は遊んでいる時に「キィ」と高い声を立てたりすることもあったね。

樹上で生活しているサルなので、木の上で寝て、食べて、遊んで、ケンカして、交尾して、木から木に移動します。ニホンザルみたいに地べたに座ることはありません。そのかわり木の上に適した手と足、そして自慢のしっぽがあるんじゃ! 毛皮にカバーされてるしっぽと思ったら大間違いよ。だって、しっかりとグリップできるように滑り止め付きなんですもの。毛のない、まるで手のひらのような皮(指紋のようにみぞもついてる)がしっぽの裏側にあるの。だから、しっぽでブーラブラしたって落こったりしないんだ。手足を伸ばして次の木に移動したり、ジャンプもするけど、木の上では、しっぽは5番目の手足となっている大切なものなの。くるんとした先っぽはルックスにも貢献、かわいいのだ。いろんなサルがシッポつけてるけど、これはアメリカ大陸のサル特有の巻き付きシッポなんだよ。

アフリカ、ヨーロッパ、アジア大陸のサル(例えばニホンザル)が「旧世界ザル」と呼ばれるのに対し、アメリカ大陸(中南米)、つまり西洋史上の新大陸のサルは「新世界ザル」と呼ばれる。化石上、突如としてサルが南米に出現することから、サルの進化から見ると大陸移動でアフリカ大陸とアメリカ大陸が切り離された後、アフリカにいたサルの祖先が何らかの方法でアメリカ大陸に辿り着いたとか。大陸間の距離が今ほど離れていないとき流木に乗って流れて来た、当時海に点在していた火山の小島を渡って来た、などの説がある。そして新世界と旧世界で、別々の環境とインターアクションしながらいろんな種類に進化していった。という流れなんだ。だから新世界ザルと旧世界ザルは古い共通祖先の特徴を共有しつつ、各々の土地で独自に新たに進化した特徴もある。

例えば、咽にある骨が音を反響させる構造のため大きく吠えることができるという特徴は、旧世界ザルにはなく、新世界ザルでもホエザルだけ。つまり新しい特徴で、シッポの皮についても同じだ。シッポがあること自体はどちらにも見られる共通祖先からの古い特徴だけど、旧大陸ザルは皮がいないからシッポでぶら下がったりず、体重のバランスや方向性のために使用する程度。新世界では森の下が水浸しになることもあって樹上に特化したけれど、旧世界では地面にも活動の場を広げたので、そこまでシッポに頼る必要がなかった。それどころか、旧世界の、ゴリラやチンパンジーに至ってはシッポを失いました。私達のオシリにもちょこんとしっぽの名残りがあるでしょ。

このように、実はホエザルさんたち、アフリカのサルの祖先から枝別れした進化を証明してくれる、興味深いおサルさんでもあるのです。

 

→ 第14回:君の名はマントホエザル~その3

  

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