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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第626回:国鉄型車両の旅 − 特急つがる2号 2 −

更新日2017/04/20


特急“つがる2号”は奥羽本線を南下している。白神山地と奥羽山脈に挟まれ、弘前と大館を結ぶ山の中。難所の矢立峠を全長3kmのトンネルでくぐり抜ける。大雨や大雪で運休しやすい区間だ。私は今までに2度、寝台特急“あけぼの”の運休に遭遇している。あけぼのではなく“まけぼの”であった。


矢立峠越え

しかし今日は晴れている。オレンジ色の朝の空から力強い光。車窓は雪景色。どのくらい積もっているだろうか。駅を通過するとき、ホームの端のほうは除雪されていなかった。線路からプラットホームまでの高さと、プラットホームに積もる雪の厚みがほぼ同じ。1メートルくらいだろうか。雪には吸音効果があるようで、列車の走行音以外は聞こえない。晴れて、静かな車窓。ちょっとした異空間だ。


朝の太陽が窓から刺さる

大館に着いた。向かい側のホームが見える。乗降客の姿はなし。峠に向かう方向に通勤や通学の客はない。駅名標のそばに犬の絵がある。花輪線終着駅という看板が添えられている。記念写真用だろうか。


秋田犬は大館犬と呼ばれた時期もあるそうで

列車が走り出す。景色は雪原。遠くに低い山並み。景色の流れが速い。平野部の走行で、いままでの遅れを取り戻そうとしているようだ。吹きだまりか、線路際の雪が車窓の半分ほどの高さまで舞い上がった。モーター音も聞こえてくる。

そういえば、この電車は国鉄時代に作られた485系だ。特急つがるは新型のE751系を使っているはずだ。新型のほうが快適なはずだけど、今日は故障か検査の都合で旧型の485系。もう引退が近いはずだから、むしろ幸運だったかもしれない。“北斗星”、“はまなす”、485系。今回の旅は、国鉄時代の車両へ別れを告げるというテーマかもしれない。


スピードを上げると雪が舞い上がる

西へ向きを変えて、平野部から日本海へ進むにつれて、積雪が減っていく。日当たりの良い畑は地面が見えている。一瞬、貨車が横切った。あぜ道の横に有蓋貨車がひとつ。農機具の倉庫として使われているようだ。払い下げて貰ったか。いいなあ。そういえば昔、有蓋貨車を再利用したワンルームタイプの家があった。貨車の記号にちなんで、ワムハウスと呼ばれていた。いまも使っている人はいるだろうか。スマートホンで画像検索をしてみたけれど、出てこない。実際には売れなかったかもしれない。

線路がどんどん枝分かれして、東能代駅に到着した。広大なヤード。ホームには五能線の観光列車「リゾートしらかみ」の顔をつけた待合室。健在である。そのホームの先に、五能線の普通列車が停まっていた。弘前行き。奥羽本線は矢立峠越えだけど、五能線は日本海の海岸沿いに迂回していく。五能線も一度、不通で足止めされたことがある。豪雨で冠水したためだった。東能代から五所川原に行こうとしたら、深浦から先が不通。バス代行となった。


東能代、五能線が発車を待つ

海から行こうと山から行こうと、秋田と青森の県境は難所である。ところで、海岸ルートと山の中のトンネルルートがある場合、先に山を迂回する本線ができて、後に技術の進歩でトンネルの新線が開通すると、本線と支線が交代するというパターンがある。たとえば御殿場線がそうだ。しかし、奥羽本線と五能線では、奥羽本線が先にできた。重量級の貨物列車を海沿いに走らせるためかもしれない。分岐の方向を見ると、奥羽本線の南北の列車が、矢立峠を迂回して海沿いを行くように思える。

東能代から二つめの駅、森岳駅で停車。下りホームに特急“つがる1号”が待っていた。あちらはE751系だ。いいなあ、新車。あのE751系は、八戸から青森まで乗った。2010年の2月。ちょうど5年前だ。当時の特急つがるは東北本線の列車だった。東北新幹線の終点が八戸で、そこから青森へ連絡する役目だった。そういえばあのときは、“つがる”から“はまなす”に乗り継いだ。今回と逆だ。


黒岳で新型とすれ違い

東北新幹線が開業すると“つがる”はE751系と共に奥羽本線に転勤し、列車名も一緒に引っ越して青森〜秋田間の列車になった。この区間には特急“かもしか”が走っていたけれど、“かもしか”は消えて“つがる”に上書きされた。“かもしか”の絵入りのマークが、じつはエゾシカではないかという疑惑があり、体裁が悪くなったという噂だ。本当かどうかはわからない。

森岳駅で“つがる1号”がこちらを待っていた。その理由は単線区間の入り口だからだ。秋田駅と青森駅の間は、複線区間と単線区間が何度も入れ替わる。列車の運行本数の増大に伴って、昭和30年代から少しずつ福線区間を増やしてきた。とくに昭和40年代は複線区間を増やした。国鉄の赤字の累積が始まり、一方で列車は増える。限られた予算の中でダイヤを工夫しながら、少しずつ改良してきた。列車ダイヤの職人にとって、アタマが痛くなる区間だろう。私のような素人にはパズルのようでおもしろいけれども。


雪解けの八郎潟

車窓に八郎潟が広がっている。秋田平野の雪は少ない。日当たりの良さは米どころの証しかもしれない。八郎潟駅のホーム、付近の路上に残雪があるくらいだ。ここを出ると次は秋田。雪のない田畑。建物が増えていく。街の景色だけど気を抜いてはいけない。左手には秋田総合車両センター、続いて右手には貨物駅。鉄道ファンとしてはしっかり見届けて、後悔することなく秋田駅に到着できる。


貨物駅を見逃すな……

秋田駅はオールスターのそろい踏みだ。男鹿線の気動車、リゾートしらかみのハイブリッド車、奥羽本線の電車、そして私が乗ってきた485系。青森では時間がなくて顔を見られなかった。やっと正面の写真を撮れた。国鉄車両三昧の旅はここで終わる。次の秋田新幹線はE6系。一気に時代が進む。秋田駅、まるでタイムマシーンである。


秋田駅に到着

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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