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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 
第421回:都市鉄道網の縦糸 - おおさか東線 -

更新日2012/05/10



大和路快速は関西本線に入った。私の乗車記録によると、前回のこの区間の乗車は1984年4月4日。今日は2012年の3月25日。28年ぶりの訪問であった。車窓は覚えていないけれど、同じ日の乗車記録を見ると阪神電鉄に乗っている。覚えていることがひとつ。この時の旅は高校の同級生のT君が一緒で、私たちは甲子園で野球を見た。


28年ぶりの関西本線の車窓

その日、私たちは大阪環状線弁天町駅近くの交通科学博物館に行くつもりだった。しかし前日夜のニュースで気持ちが変わった。東京代表の岩倉高校が初出場にもかかわらず決勝戦に進出するという。対戦相手はPL学園。甲子園の常連で優勝候補である。T君が「応援に行こう」と言った。私たちの同級生に硬式野球部員もいて、ともに神宮へ応援に行った。

私たちの高校は甲子園には届かなかったし、岩倉高校とは対戦もしておらず知り合いもいない。けれど、この学校は鉄道員を養成する学科がある。岩倉高校の岩倉は、明治新政府に参加し、日本初の私鉄、日本鉄道の創設に関わった岩倉具視に由来する。鉄道ファンとしては贔屓したいところだ。PL学園の大応援団に対して、初出場の岩倉応援団はきっと寂しいことだろう。

東京出身者としても、鉄道ファンとしても、岩倉高校を応援したい。私たちは甲子園球場ヘ行き、3塁側スタンドから声援を送った。そしてなんと、岩倉は勝った。初出場で優勝してくれた。この時の感動を覚えている。向かい側のPL学園の名物、人文字応援もよく見えた。「岩倉」「おめでとう」という文字が出た気がする。自分たちが負けた時の文字まで練習していたのかと、その潔さにも感動した。

この試合、PL学園には後の名選手、清原和博と桑田真澄がいた。私たちと彼らは同じ学年である。私は野球チームに贔屓はないけれど、あの二人の成功と挫折のニュースは、私の心にいつも響く。あの決勝戦を見ているから、同年代という以上の思いがある。


電車になにか言いたげなゴリラ

28年ぶりの関西本線、初めて乗るような気持ちではある。しかし都市近郊の路線はどこも似たようなもの。新鮮味がない……と、思ったら車窓にゴリラが見えて現実に引き戻された。雑居ビルの壁。ゴリラの実物大ほどの人形がこちらを向いていた。看板でもなさそうで、ただの飾りだろうか。

14時53分に久宝寺に着いた。18分遅れである。隣の線路におおさか東線の電車が停まっていた。急いで階段を登り、向かい側のホームに降りた。しかしあと一歩のところで扉が閉まり、放出行きが発車してしまう。運行頻度が高いから、接続待ちなどしてくれない。次の電車は15分後である。不便ではない。しかし、元の予定では4分の接続だった。それが15分になる。18分遅れに11分が加算され、29分遅れとなった。


おおさか東線は黄緑色の201系

15分間を漫然とホームで過ごす。良い天気である。15分もあったら、ちょっと改札の外に出てみてもよかったけれど、予定の時刻より遅れているとそんな心境にはならない。外でなにか興味深いものを見つけてしまったら、うっかり乗り遅れてしまうかもしれない。ホームの反対側には関西本線のJR難波行きが来た。それを見送ると、今度は奈良方面の大和路快速が来た。1本あとでも同じ電車だったか。いや、大和路快速も15分ごとだから、遅れを回復して運転間隔が詰まってきたらしい。

おおさか東線の電車が入線する。201系の黄緑色。初めて見る組み合わせだ。山手線に201系が入ったらこんな色だったのだろうなと思う。車内はリフォームされているようで、優先席のシートにカラフルな柄が入っている。そういえば窓も大きい。2連だった窓を繰り抜いて大きくし、上半分が開くようになっている。見晴らしと通風性の両方に配慮したアイデアが良い。


高架区間へ上っていく


先頭車両へ行き、運転席の後ろに立つ。こちらも景色は単調だろうから、前方の眺めを楽しもう。おおさか東線は9.2kmの短い路線で、所要時間は13分。立ちっぱなしでも疲れない。前方を見ると、おおさか東線は四つ並んだ線路の内側2本を使う。久宝寺を出発した電車は、隣の大和路快速に追い越され、勾配に乗って上昇した。高架線なら見晴らしがいい。こちらの景色は期待できる。

おおさか東線は2008年に開業した新しい路線である。しかしこの線路は貨物線として1939年に開業している。城東貨物線といって、単線非電化であった。それを複線電化に大改造して旅客線とした。城東貨物線は放出からさらに北に伸びており、新大阪に至る。こちらも2018年までに旅客線にする予定で、さらに梅田北ヤードへの延伸も決まった。完成すれば大阪近郊を半周する。関東で言えば武蔵野線と似た経緯となる。


生駒山地を遠望

改良を受けた線路は新線と同様で、コンクリートの色は新しく、路盤もしっかりして乗り心地が良い。もともと単線だったという名残は線路の形に現れている。島式ホームの駅に近づくと、こちらの上り線路は直線のままで、対向側の下り線路だけが膨らんでいる。そのひとつひとつの駅に停車しつつ、電車は立体交差を快走する。

期待していなかった景色も、乗ってみれば見晴らしがよい。家並みの向こうに生駒山地を望んでいる。晴天で良かったと思う。南北方向の路線だから、東西方向の線路と交差する。近鉄大阪線の線路が見えて、オレンジ色の特急が通過していった。こちらはやや高度を落として、そのガード下をくぐる。くぐった先がJR俊徳道駅だ。


近鉄特急が見えた


片側だけ線路が膨らむ

俊徳道はしゅんとくみちと読む。近鉄側にも俊徳道駅がある。その名前の由来は付近の俊徳街道だという。俊徳丸という盲目の法師の物語があり、彼が四天王寺へと通った道だという。難読駅にはそれなりの由来があるもので、ちょっと調べると興味深い話が出てくる。

次のJR河内永和駅も線路のガード下にある。こちらは近鉄奈良線だ。その次の高井田中央駅は高速道路の下。地下に大阪市営地下鉄の高井田駅がある。線路が交わるところには駅を作る。環状線の定石であろう。ただし構造的な問題か、既存駅付近の用地拡張は難しいようで、既存の駅とはちょっとズレている。そのあたりも武蔵野線に似ている。


第二寝屋川を超え、片町線上り線を潜る

電車は高架を降り、鉄橋を渡って片町線に合流した。片町線の上り線を潜って複線の間に入る。このほうが直通電車を走らせやすいからである。おおさか東線の電車のうち、いくつかは片町線、さらにJR東西線へ直通している。しかしこの電車は合流駅の放出が終点だ。直通構造のホーム配置だから、乗り換えは同じホームの向かい側。久宝寺では15分も待たされたけれど、放出ではすぐに片町線の電車が来た。


放出駅に到着

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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