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第455回:流行り歌に寄せて No.255 「17才」~昭和46年(1971年)6月1日リリース

更新日2023/04/06


もう、スコーンと抜けるように明るい曲である。
その当時までにも、多くの女性歌手が出てきたが、これほど太陽の下が似合う歌手はいなかったと思う。その容姿も、歌声も眩しいほどだった。

このデビュー・シングルのジャケットを見ると、彼女はカニのイラストがプリントされたTシャツ姿である。それは彼女が昭和29年(1954年)7月2日の蟹座生まれに由来しているようだ。だから。厳密に言えば16歳の時点で、この『17才』を吹き込んだことになる。

沖縄県中頭郡嘉手納町生まれ、宜野湾市育ち。思い返してみると、沖縄返還が昭和47年(1972年)の5月15日の出来事だから、それより、ほぼ1年前にこの曲がリリースされたことになる。まだアメリカ合衆国施政権下時代の沖縄から、彼女は母親と二人で上京している。

もともとは、沖縄の琉球放送のテレビ番組でアシスタントのアルバイトをしていたようだ。ある日のテレビ番組で、ヒデとロザンナがゲストとして呼ばれ、その模様を写した写真を、彼らのマネージャーが東京に持ち帰った。そこにたまたま彼女の姿が写っていて、それがデビューさせる新人を探していたCBS・ソニー関係者の目に留まり、呼ばれたとのことである。

サクセス・ストーリーには、偶然が重なることよくあるようだが、南沙織もその典型だろう。そして、上京後3ヵ月余りで『17才』レコードデビューを果たした。


「17才」  有馬美恵子:作詞  筒美京平:作・編曲  南沙織:歌

誰もいない海

二人の愛を 確かめたくて

あなたの腕を すりぬけてみたの

走る 水辺のまぶしさ

息もできないくらい

早く 強く つかまえに来て

好きなんだもの

私は今 生きている

 

青い空の下

二人の愛を 抱きしめたくて

光の中へ 溶けこんでみたの

ふたり 鴎になるのよ

風は大きいけれど

動かないで おねがいだから

好きなんだもの

私は今 生きている

 

あつい 生命にまかせて

そっとキスしていい

空も海も みつめる中で

好きなんだもの

私は今 生きている

私は今 生きている

…………


新しいスターを生み出すには、やはり凄腕のプロの人々の仕事が集積されている。
CBS・ソニーの音楽プロデューサー、酒井正利が先導してこの新人のデビューのプロジェクトが行なわれた。酒井は、ご存知の通り、フォーリーブスやキャンディーズ、そして山口百恵など数多くのタレントを世に送り出した著名なプロデューサーである。

本名が内間明美という彼女の芸名。最初、CBS・ソニーの社内公募では、「南陽子」というのが一番人気だったが、「彼女は陽子というより、沙織というイメージじゃないかしら」と言ったのが、作詞の有馬美恵子。有馬は、この時35歳を過ぎていたが、眩しいほど青春ど真ん中という詞を綴った。

まず、南沙織に「何が歌えるの?」と質問したのが、作曲の筒美京平。「リン・アンダーソンの『ローズ・ガーデン』だったら歌えます」と答えた南にプレゼントされたのが、この曲だった。確かに、この2曲のイントロの雰囲気と歌い出しは、よく似ている。

そして、歌詞のどこにも書かれていない『17才』という題名を決定したのが酒井正利だった。歌っているタレントの実年齢をタイトルに持ってこようというセンスは、実に秀逸だと思う。そして、何回聴いても、この曲は『17才』というタイトル以外は考えられないような気分にさせられる。

この曲により、南沙織はこの年昭和46年(1971年)年末の『第13回日本レコード大賞新人賞』『第2回日本歌謡大賞優秀放送音楽新人賞』など、多くの賞を獲得する。そして、『第22回NHK紅白歌合戦』で紅組のトップバッターとしての出場を果たした。

歌手になるために、母親と二人沖縄から上京して、わずか9ヵ月後のことだった。まさにシンデレラ・ストーリーと言えるだろう。

この後も、彼女のために、有馬美恵子、筒美京平コンビは、素晴らしい曲を作り続けた。私自身、南沙織ファンとは言えないが、コンビによって作られた、彼女の曲の中に本当に素敵だなあと思える曲がいくつもある。

『17才』は、後に森高千里によってカヴァーされているが、何か洗練されたお洒落な雰囲気を持っていて、剥き出しの青春というイメージからはほど遠く、私にはピンと来ない。

もちろん、それは世代の違いであるが、その森高がカヴァーしてから34年が過ぎているのだから、その間にも何層もの世代が重ねられているのだろう。あまりにも長い時間の経過に、目眩がしてきそうである。

 


第456回:流行り歌に寄せて No.256 「悪魔がにくい」~昭和46年(1971年)8月10日リリ-ス


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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