第167回:私の蘇格蘭紀行(28)
■スコットランド、スコットランド
4月23日(金)、オーバンは雨。重度の二日酔いを抱えながら、ようやくのことオーバン駅に辿り着いて、08.40発グラスゴー行きの電車に乗ることができた。車中では車窓を眺めているうちにすぐに眠りに就き、およそ3時間半の列車の旅をひたすら睡眠補給に当ててしまった。
お昼過ぎ頃にグラスゴー・クイーンズ・ストリート駅に到着。車外に出ると、青空が広がっていた。ちょうど2週間ぶりにRenfrew
Street のMclays Guest Houseに入る。前回応対してくれたフロントの老紳士が出てきて、「お帰りなさいませ」と挨拶してくださる。
前回の予約の段階ではシングルルームしか空いていなかったが、キャンセルが入ったので2週間前のオン・スイートの部屋が確保できたとのこと。バス、トイレの順番待ちなどで煩わされるストレスがなくなったため、素直にうれしかった。
スコットランドで滞在できるのも、今日と明日のあと二泊のみ。明日は一日土産物の買い物でつぶれてしまう。それでは今日は短時間で行ける近場の街を訪ねようと、『地球の歩き方』と時刻表を見比べてAyr(エア)に行くことにする。
この街はグラスゴー・セントラル駅から電車で小一時間のところにあった。スコットランドでは最も有名な詩人Robert
Burns(ロバート・バーンズ)ゆかりの地である。エアまでの鉄道の旅は、いかにも詩人が愛したであろう、美しい風景が続いていた。
久し振りに晴れた、静かな街並みを歩くのはとても気持ちよかったが、心の狭さゆえ、明日買わなければならない夥しい数の土産のことがずっと気に掛かる。結局、エアには2時間弱いただけでグラスゴーの宿に戻ってきてしまった。
早々に夕食も済ませて、部屋で買い物リスト作成。何と40人を超える人々の名前が挙がる。一日で購入できるか不安になりながら、とにかく眠ることに。
4月24日(土)朝の10時半から夕方6時半まで、何も食べず最後にコーラを飲んだだけ、ただひたすら買い物をしていた。街中の
"Drooko"という巨大な土産物屋(多くの買い物をしたということも少しはあったろうが、この店の二人の女性は実に親身になって応対してくださった)を中心に一心不乱にお店屋さんを廻った。
徐々に嵩を増す荷物を、肩に背負い両手に抱え、終いには引きずるようにして歩いた。日本人の哀しい習性と言うことか、お世話になった人々に何か小さい物でもよいからと買い漁ったのである。最後に郵便局で船便の手続きを済ませた後、しばらくは放心状態で椅子にへたり込んでしまった。
今まで、ずっと一生懸命節約をしていたつもりなので、お金がどんどんなくなっていくのは正直辛い思いがした。(小さい、小さい)
散財のことで気をとられていたが、今日はスコットランド最後の日である。
Edinburgh 5、Glasgow 3+2、Aberdeen 3、Inverness 2+2、Wick 3、Oban
4、合計24泊。
いろいろな物を見、多くの人に接することができた。どの土地のどの人の顔も、今思い出すことができる。
エディンバラでは、宿のお兄さん、アル中のおじさん、床屋のお姉さん、薬屋のお姉さん、雑貨屋のおじさん、マレーフィールドの女性、スーパーの店の人たち、そうそう宿を見つけてくれたThomas
Cookの私にとって元祖 "Just a 2 minutes"のおじさんとその奥さんと赤ん坊、コインランドリーのおばあちゃんと男の子、教会の老婦人、牧師先生、ジャズ・バンドのおじいさんたち、その演奏で唄ったおばあさん、ホンダのおじさん、スポーツ店のお兄さん、バスの中の悪ガキたち。
グラスゴーでは、宿のおじさんたち、駅遺失物預かり所のおじさん、ハミルトンのパブのおじさん、映画館のお兄さんとお客のおじさん、おばさんたち、グラスゴー訛りの、きれいなお姉さん。
アバディーンでは、まずMrs.Main、そうラグビーの元プレーヤーのおじいさん、Quinnn'sのマスター、Mrs.Mainのお嬢さん、気持ちの優しいタクシーの運転手さん。
インヴァネスでは、もちろんMrs.Gir、私がチップを渡すのを間違えたスパゲティー屋のお姉さん、ネス湖への行き帰りのバスでの日本人女性、ネス湖案内人のダンディーなおじさんと若いカップル、カレー屋のお兄さん。
ウイックでは、宿のおばあさん、Fish & Chipsの若夫婦、ジョン・オ・グローツのお店の人、パブの渋めのマスター。
オーバンでは、気の良い宿のおばさん、蒸留所を案内してくれた女性、パブの父子経営者、そして実に楽しかった元国鉄のおじいさんたち。
そして、どの地でも親切で優しかった「i」(ツーリスト・インフォメーション・センター)のLadies & Gentleman、タクシーの運転手さん、パブの従業員のお兄さん、お姉さん、道を教えてくれた多くの人々、コインランドリーの店員の人たち、宿の従業員の人たち、往来であいさつを交わしてくれた人たち、駅員さん、バスの運転手さん・・・。
人々ではないが、羊たち、牛たち、犬たち、鶏たち。
「みんな歓迎してくださってありがとうございました。心から感謝しています」。
スコットランド最後の夜、グラスゴーの古い宿の部屋で、そう思いながら私は眠りに就いた。
-…つづく
第168回:私の蘇格蘭紀行(29)
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