第151回:私の蘇格蘭紀行(12)
更新日2009/09/24
■アバディーンへ
4月9日(金)、グラスゴーにひとまず別れを告げる。スコットランド旅行の最後にもう一度立ち寄る予定だ。短い滞在だったが、この街の印象は新しい商工業都市というもの。これは古都とも言えるエディンバラとは大きく違っている。
若い人が多く、活気を感じる。ただ一つ困ったのはグラスゴー訛り。どう言ったらいいのか、ゴチャゴチャゴチャと喋ってから語尾が上がる。ちょっと茨城弁に近い感じ。通常の英語さえあまり聞き取れないのに、ここの訛りには手を焼いた。
宿の前のRenfrew Streetを歩き、スポーツ用品店を探そうと地図とにらめっこをしていたときのこと。突然、ブロンドでとても清楚な感じ、20歳そこそこの、それは美しいお嬢さん(本当きれいだったな)が話しかけてきてくれた。"メアイヘオピュ?"という感じで。
これが"May I help you?"と言っていると分るのに少し時間がかかった。私はドキドキ心を抑え、勇気を出して、「スポーツ用品店はどこですか?」と訊ねた。彼女は実に素敵な笑顔で、そして実に素敵なグラスゴー訛りでていねいに道順を教えてくれた。
大変にうれしかったが、私には彼女の言葉がまったく理解できなかった。けれども私は丁寧に礼を述べて、頭を下げた。彼女は、また素敵な笑顔で"ヨエオカッ"と答えてくれた。"You
are welcome"だろう、たぶん。
さて、次の目的地アバディーン(Aberdeen)へ向かう。
こちらに来て初めて鉄道パス"Freedom of Scotland"を使うことになった。これはスコットランド全域の(二等車の)鉄道、フェリー、長距離バスに、期間内では乗り放題の便利なパスである。いくつかタイプがあって、私のは「連続15日のうちの8日間乗り放題」というもの。
日本の旅行代理店で購入したものだが、価格が12,000円くらいで、使い方によってはとても割安ということになる。今日から4月23日までの間に8日間思い切り利用しようと思う。
グラスゴーのQueen Street駅10.25AM発の4両編成。(因みに時刻を表すとき、私たちは10:25というふうに書くが、英国では10.25が一般的。最初は少数を表すものかと、少し戸惑った)。いわゆる「前2両がアバディーン行き、後ろ2両がパース(Perth)行きという、日本にもよくあるパターンだ。
車輌をよく見るとパンダグラフがない。電車ではなくディーゼル機関車である。しかも、走り出して気付いたが、アバディーン行きの方は途中単線になっていて、対向列車の通過待ちもある。私の大好きなタブレット(通票)なども使われているのだろうか。
途中何回も居眠りを繰り返し、アバディーンに到着する。港町であった。
i(Tourist Information )がかなり分りにくい場所にあったので、少し苦労した。1泊£28.00のEn
suiteを3泊予約。どうもグラスゴーの宿から、きれいで楽なところに味を占め、経済性を度外視している傾向にある。自戒のこと。
何気なく入ったパブで昼食をとり、その店のバーテンダーに、明日のラグビー5ヵ国対抗、パリで行なわれるフランス対スコットランド戦のキック・オフの時刻を訊ねていたときのことだ。片足と左手を負傷して杖をついた、身体の大きな初老の紳士が、「あんたもラグビー好きなのか?」というように話しかけてきた。
彼は25年ほど前、スコットランド国内でどちらかの(残念ながら聞き取れなかった)州代表になり、Loose Head
Prop(左のプロップ・背番号は1)としてマレイフィールドでも二度プレーしたことがあるそうだ。見るからにプロップという、逞しい体躯である。
「明日の対フランスとのテストマッチは、2時半からこのパブの程近くにあるQuinn's Barrという店で、みんなで観戦しているから、よかったら君も来たらどうか」と、思いもよらぬ誘いを受ける。私は一も二もなく行くことにした。その店はいわゆるスポーツバーらしい。地元スコティッシュとともに、5ヵ国対抗を応援できるなんて、とんでもなく幸運なことだ。
タクシーに乗り宿に向かう。そのタクシーの運転手さんが親切な方で、こちらに来てくれたのだから、ぜひバスでBraemarというところにいってらっしゃい、よいところですよ、と勧めてくださった。そこには明後日の日曜日に行ってくることにしよう。
彼に言わせると"Scottish is warmer and friendly"ということだが、まったく同感だ。
宿は、郊外の美しい住宅街にあった。先客があり少し待ったが(どうやらご近所の紳士が、この家から借りた聖書の解釈本を返しに来ているようで、話の内容から宿の女主人は敬虔なクリスチャンであることが伺えた)、女主人に実ににこやかに部屋に通していただく。
新しく清潔で、きちんと整理されている部屋で、私は一瞬で気に入ってしまった。窓辺には美しい色をした花がシンプルに活けられている。お金を使ったのではなく、隅々まで気を配って整えられた調度品。実に居心地がよいのだ。
バス、トイレもこの上なく清潔で、寝泊まりさえできそうだ。おそらく、今まで私が経験したどの宿よりもcomfortableな部屋だった。
-…つづく
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