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第482回:流行り歌に寄せて No.277 「女のみち」~昭和47年(1972年)5月10日リリース

更新日2024/07/11


ぴんからトリオの『女のみち』と、殿さまキングスの『なみだの操』を混同する人が、かなりの数いる。

お互いの大ヒット曲『女のみち』と『なみだの操』。後者は昭和48年(1973年)11月5日にリリースされているので、そこには1年半の差があるが、何十年と経ってしまえば、同じような時期になってしまう。

また、『なみだの操』という曲名を、歌詞に出てくる『女の操』と勘違いしている人も多く、混同しやすい。また、双方ともコミックバンド出身であり、ヴォーカルも宮史郎、宮地おさむと名前も似ているので、なおさらである。彼らは、当時「西のぴんから、東の殿キン」と並び称され。たいへんな人気グループであった。

さて、話を『女のみち』に絞っていこう。正式名称「宮史郎とぴんからトリオ』のメンバーは、宮史郎(本名:宮崎芳郎)、史郎の兄であるのに宮五郎(同:宮崎義正)、並木ひろしで、昭和38年に結成された。

昭和46年、ぴんからトリオの前身であった「スパローボーイズ」の結成から10年経ったのを記念してメンバーの作詞、作曲による『女のみち』を300枚だけ自主制作でプレスをしたそうである。それを有線放送に流したところ大きな反響があって、翌昭和47年に、彼らの所属する第一プロダクションの協力により、日本コロムビアからレコード発売すると、記録的な大ヒットとなった。

興味深いのは、このシングルレコードのジャケットである。これは営業先のクラブの店内で撮影されたものだが、赤いスーツを着た三人が、左から史郎、五郎、ひろしの順に立っている。

その前にカウンターに座ったスーツ姿の男性が二人。左でブランデーグラスを手にしているのが、史郎、五郎の従兄弟、右でワイングラスを手にしているのは、彼らの友人なのである。二人とも、自主制作の費用を出してくれた人とのこと。

二人が同席した時の記念写真を、そのままデビュー・シングルのジャケットに使ってしまうというのが大変珍しいというか、大胆である。パッと見た感じでは、ぴんからトリオが、座った二人のバックコーラスのような印象さえ受ける。

それだけ、トリオのメンバーが、お世話になった人に対して義理堅いということが言えるのかもわからない。



「女のみち」  宮史郎:作詞  並木ひろし:作曲  宮史郎とぴんからトリオ:歌


私がささげた その人に

あなただけよと すがって泣いた

うぶな私が いけないの

二度としないわ 恋なんか

これが女の みちならば

 

ぬれたひとみに またうかぶ

捨てたあなたの 面影が

どうしてこんなに いじめるの

二度と来ないで つらいから

これが女の みちならば

 

暗い坂道 一筋に

行けば心の 灯がともる

きっとつかむは 幸せを

二度とあかりを けさないで

これが女の みちならば

 

歌詞の内容は、まさに「The 演歌」という世界である。今の時代では、ほぼヒットできないものだと言えるだろう。

この1年半後に出てくる『なみだの操』もそうだが、あの時代、このような世界観を持った曲が、どうして爆発的に売れたのだろう。昭和40年台の後半には、もうすでに古風な男女の関係は崩れていたはずである。

むしろ、ニューミュージックの台頭などで、もっと自由で軽やかな恋愛観を多くの人が持つような時代だった気がする。けれども、前回の三善英史の項でも書いたが、この時代にもそうでない感性を持った人が、少なからずいたはずである。そういう人々が・・・。

しばし、考えてみた。いやいや、そういう捉え方ではなくて、ある種の「調子の良さ、気持ちの良さ」がヒットの要因だったのではないか。歌詞も、メロディーも聴いていて、何か楽に入ってくる。そして、酔っ払ったりすると、あの節回しで口ずさみたくなる。

加藤茶が『8時だョ 全員集合』の中でお巡りさん役を演じ、首を左右に振り、この『女のみち』を歌いながら登場するシーンがあったが、まさにあの感じが気持ちよかったのだ。それが大ヒットに繋がった一番大きな理由ではないだろうか。そういうことは、確かにあると思う。

ぴんからトリオは、昭和48年には並木ひろしが脱退し『ぴんから兄弟』となり、この年の第24回NHK紅白歌合戦に初出場した時には、二人で『女のみち』を歌った。

今では、このトリオのメンバーは、この世に一人も残っていない。五郎さんは平成6年(1994年)に58歳で、ひろしさんは平成10年に56歳で、中では最も長命だった史郎さんも平成24年に69歳で、それぞれ亡くなっている。

史郎さんには、亡くなった年の第54回日本レコード大賞で、特別功労賞が追贈された。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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