第515回:流行り歌に寄せて No.310「同棲時代」~昭和48年(1973年)2月21日リリース
リリースの日付では、前回よりもさらに前に戻ってしまった。実は、この曲については候補には上がっていたのだったが、書こうかどうか躊躇していた。
この曲の元となった、上村一夫の漫画『同棲時代』を、以前からずっと読もうと思っていたが、未だ実行できていない。曲の背景を知らずに書くことはどんなものだろうと考えていたのだ。
けれども、これを書かない限り、大信田礼子という人の作品はこの後出て来ないだろうし、もう一つ、この曲のナレーションに何か惹かれるところがあって、やはり書いてみたいと思ったのである。
大信田礼子にとっては、これが6枚目のシングル曲である。昭和45年(1970年)の8月に『女の学校』でデビュー。その後も『女はそれをがまんできない』『ノックは無用』『何がどうしてこうなった』など、なかにし礼、阿久悠らによる色気のある詞の曲が続く。
それは、同時期に女優として「不良番長シリーズ」「ずべ公番長シリーズ(主演)」などの東映映画に出演して、セクシー路線で活躍していたため、歌手としても同じ傾向の作品が与えられたのだろう。
私は、それらの映画は観ていないが、テレビドラマの『旅がらすくれないお仙』の「かみなりお銀」の印象は強く残っている。このドラマは昭和43年10月から翌年の9月までの1年間、NETテレビで放映された、かなり人気のあった時代劇だった。
松山容子演ずる、主人公の女渡世人・お仙の相棒役。蓮っ葉なイメージの女スリ・お銀は時代劇なのに大胆な出で立ちで登場し、奔放に動き回っていた。今考えると、あのような際どいテレビ番組を、四人家族みんなで観ていたことは、とても不思議な思いがする。
さて、今までの歌の路線とは少し違った、6枚目のシングル『同棲時代』は、漫画家本人の上村一夫の作詞、都倉俊一の作曲ということで、大信田にとっては初の仕事相手である。
彼女は、出会った当初、都倉とはソリが合わないと感じ「あかん」と思っていたようだが、それを知った、担当の名プロデューサー酒井政利は「これは却ってヒットするのでは」と考えていたらしい。達人の持つ予感というものだろうか。
その大信田と都倉が、このレコーディングの翌年の昭和49年から昭和53年までの間ではあるが「結婚時代」を過ごすことになるのだから、第一印象というものは、あまり当てにならない。
私が惹かれたこの曲のナレーションは、阿井喬子(あいたかこ)という人が担当された。魅力的な落ち着いた低音で、どこかミステリアスな雰囲気を纏(まと)った声である。
実はこの方、昭和28年(1953年)に開局した日本テレビの、同年入社の女性アナウンサー第1期生であった。
今回ネットで調べてみたが、昭和32年の北原三枝、石原裕次郎主演の日活映画『嵐を呼ぶ男』の中にテレビのアナウンサーとして登場する、昭和50年台のFM東京の丸井“ミュージックアンドモア『夜と呼ぶには早すぎて』”のDJを担当するなどの断片的な情報はあったものの、詳しい人となりも、現在ご存命であるかどうかもわからなかった。大変残念である。
昭和28年に入局ということで、生きていらっしゃれば90歳は超えているはずである。機会を作ってしっかり調べてみたい。
「同棲時代」 上村一夫:作詞 都倉俊一:作曲 高田弘:編曲 大信田礼子:歌
〈ナレーション〉(以下:NA)
愛はいつも いくつかの 過ちに
満たされている・・・
ふたりは いつも
傷つけあって くらした
それが ふたりの
愛のかたちだと 信じた
できることなら あなたを殺して
あたしも死のうと思った
それが 愛することだと信じ
よろこびに ふるえた
愛のくらし 同棲時代
寒い部屋で
まぼろしを見て くらした
それが ふたりの
愛のかたちだと 信じた
泣いて狂った あたしを抱いて
あなたも静かに 泣いてた
それが 愛することだと信じ
よろこびに ふるえた
愛のくらし 同棲時代
(NA)
もし 愛が 美しいものなら
それは 男と女が犯す
この過ちの美しさに ほかならぬであろう
それが 愛することだと信じ
よろこびに ふるえた
愛のくらし 同棲時代
(NA)
そして 愛がいつも
涙で 終るものなら・・・
それは 愛がもともと
涙の棲家だからだ・・・
この曲は、もともと上村漫画のイメージ・アルバム『同棲時代 春・夏・秋・冬~上村一夫の世界』の収録曲の一つだったという。
それが、山根成之監督の松竹映画『同棲時代~今日子と次郎』(昭和48年4月14日公開)の主題歌として使われた。今日子役の由美かおるが、初ヌードを披露したことも話題を呼び(次郎役は仲雅美)映画も曲も大きなヒットとなった。
気を良くした松竹の経営陣は、同監督にすぐに第2作『新・同棲時代ー愛のくらしー』(公開は第1作からわずか2ヵ月半後の6月30日)を作らせたが、話題性はあったものの映画はヒットしなかった。役名も、夕雨子と武雄と変え、高沢順子と本郷直樹が演じている。
実は映画に先駆けて、TBSはテレビドラマで『同棲時代』(竜至雅美監督、山田太一脚本)を作っているが、この放映日は同年2月18日で、大信田のレコードリリースより3日早い。
こちらの今日子と次郎は、梶芽衣子と沢田研二である。ちょっと美し過ぎる感じがする。
さて、今回の曲の最後の「どうせいじだい」のフレーズ、あの転調する部分の大信田礼子の声が、ずっと耳に残ってリフレインしている。何だか都倉俊一にしてやられた感じで嫌なのであるが、それがプロの技ということなのか。彼女の声を、本当に上手に生かして作られていると感じた。
-…つづく
バックナンバー
|