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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第483回:流行り歌に寄せて No.278 「学生街の喫茶店」~昭和47年(1972年)6月20日リリース

更新日2024/07/25


ガロと聞いて最初に思い出すのが、クロスビー、スティルス&ナッシュ(以下:CS&N)の『組曲:青い眼のジュディ』を、彼らがコピーした演奏である。

『組曲:青い眼のジュディ』は、 CS&Nのメンバー、スティーヴン・スティルスが、ジュディー・コリンズとの恋を失った苦しみを曲にしたものというのは、有名な話。

彼らは、 CS&Nのサウンドの完全コピー(この曲の他にも『ティーチ・ユア・チルドレン』など)を試み、見事に成功している。細部に渡り原曲を聴き込み、自分たちの中に深く浸透させていったのだろう。

このコピー演奏を聴いたのは、ここ十数年前の最近のことだったが、ガロが、今回の『学生街の喫茶店』から始まる、いわゆる歌謡曲路線に入る前の彼らの姿を、垣間見た思いがした。

そして、高校時代、洋楽好きだった友人が「ガロは、あっちに行ってしまう前に、本当にいい演奏をしていたグループだった」と言って、がっかりしていたのを思い出した。(この友人は、上京後、最初に私をジャズ・コンサートに連れて行ってくれるなど、いろいろと音楽を教えてくれた人だった)

ガロのメンバーは、堀内護(MARK;マーク)昭和24年2月2日〜平成26年12月9日)、日高富明(TOMMY;トミー)昭和25年2月22日〜昭和61年9月20日)、大野真澄(VOCAL;ボーカル)昭和24年10月23日〜)の3人。

彼らは、Crosby,Stills&Nashに倣ってMark,Tommy&Vocalと記されたこともあったようだ。

ガロの1枚目のアルバム『GAROファースト』では、全10曲のうち、作詞で山上路夫が2曲、編曲で東海林修が3曲関わっているが、あとはすべてメンバーによって作られた曲だった。

今までのグループにはなかった、美しいコーラスから紡ぎ出されたファンタジックな音の世界が、歌謡曲の路線に変容していったのには、理由があった。それは、所属していたマッシュルーム・レコードは、当時売上げの不振により窮地に追い込まれていた。

それを打開するために、レーベル内で最も売れていたガロに、メンバー以外のプロの作家作品を歌わせてヒット曲を出させようとしたためである。

彼らは、2枚目のアルバム『GARO2』を昭和47年6月25日に発売したが、それに先行販売する形で、その中から『美しすぎて』をA面、『学生街の喫茶店』をB面としてシングルカットして5日前の6月20日にリリースした。

最初はあまり売れ行きは良くなかったが、徐々にラジオや有線放送で、B面の『学生街の喫茶店』がリクエストされるようになり、A面とB面を交換。

同年12月10日に3枚目のアルバム『GARO3』が出たことも後押しした形となり、そして、発売後8ヵ月経過した昭和48年2月19日に、ついにオリコンのシングルチャートで1位まで上り詰め、その後7週連続トップという、大ヒットとなった。

 

「学生街の喫茶店」  山上路夫:作詞  すぎやまこういち:作曲  大野克夫:編曲  GARO:歌

君とよくこの店に 来たものさ

訳もなくお茶を飲み 話したよ

学生でにぎやかな この店の

片隅で 聴いていた ボブ・ディラン

あの時の歌は聴こえない 

人の姿も変わったよ

時は流れた

あの頃は愛だとは 知らないで

サヨナラも言わないで

別れたよ 君と

 

君とよくこの店に 来たものさ

訳もなくお茶を飲み 話したよ

窓の外 街路樹が美しい

ドアを開け 君が来る気がするよ

あの時は道に枯れ葉が

音も立てずに舞っていた

時は流れた

あの頃は愛だとは 知らないで

サヨナラも言わないで

別れたよ 君と・・・

 

このシングルレコードの『美しすぎて』の方はマークこと堀内護がリード・ヴォーカルをとっているが、『学生街の喫茶店』ではボーカルこと大野真澄が担当している。マークの高く柔らかい声と、ボーカルの渋めの声は、まさに対照的である。(それがコーラスになると、トミーと相まって実に美しいハーモニーを作り出す)

『学生街の喫茶店』では、大野克夫が編曲家として、間奏にコール・アングレ(イングリッシュ・ホルン)を使って独特の効果を出している。ジャズ・マンである村岡健による演奏で、リズム・セッション(大野克夫:ピアノ、宇野もんど、こと細野晴臣:ベース、原田祐臣:ドラムス)とのアンサンブルが実に良い。

次に出したシングル『涙はいらない』(堀内護:作詞・作曲 宮本光雄:編曲)は、『学生街の喫茶店』が遅れて大ヒットしていたためにほとんど話題にならなかったが、ファンの間では親しまれている曲で、私もたいへん好きな曲である。

そして、その次の『君の誕生日』(山上路夫:作詞 すぎやまこういち:作・編曲)もたいへんなヒットとなった。この曲の間奏には『学生街の喫茶店』のメロディーが使われ、すぎやまこういちという人の「遊びごころ」を感じるのである。

その後、『ロマンス』『一枚の楽譜』『姫鏡台』とヒットは続いて行った。

けれども、自分たちが、最初目指してきた音楽とは外れた路線を歩んだことに悩み、またそれぞれの音楽性の違いもあって昭和51年に、ガロは解散をする。

そして、昭和61年に日高冨明は、自宅近くのマンションから転落死、36歳の若さだった。堀内護も10年前の平成26年(2014年)に65歳で、胃がんのために亡くなっている。

今残っているメンバーは大野真澄だけだが、今でも元気に音楽活動を続けているようだ。あの渋い声は、さらに磨きがかけられていることだろう。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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