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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第448回:流行り歌に寄せて No.248 「傷だらけの人生」~昭和45年(1970年)12月25日リリース

更新日2022/12/01


この台詞は、本当によく流行った。当時、中学3年生だった私の同級生の、何人かのお調子者はよく真似ていたものである。
左手を左耳に当て「古い奴だと…」と始める。実際の鶴田浩二は、台詞の部分では両手はマイクを包むように重ねていて、歌い出すときだけ耳に当てているのだが…。

それよりずっと後年、鶴田の歌声のナチュラル・ビブラートが私のそれによく似ているとある人に言われ、私もカラオケで何回か歌ったことがある。歌の部分になると、大変気持ちの良いこともあって、下手なりに歌えるのだが、台詞の部分は、からきしダメである。

あの鶴田の深みのある声色と、私の声質とはまったく違っていて、しかも、あの台詞を静かな感情を込めて発していく技術が、私にはまるでないのだ。だから、カラオケでは台詞抜きで歌いたい思いがするが、それではこの曲は成り立たない。大変歌いたい曲だけに、本当に残念である。但し、お風呂場など、人のいないところで歌の部分だけを歌うことは、時々したりしている。

さて、この曲の詞を書いたのは、藤田まさと。鶴田浩二の映画での姿を見て、そのイメージで作り上げたものだという。藤田は、鶴田の師匠である高田浩吉とは、道中物の詞を提供するなど、昭和10年代からの長い親交があった。その弟子の鶴田のこともとても可愛がっていたようである。歌手デビュー曲である『男の夜曲』(作曲は舟尾勇雄)をはじめ、多くの詞を提供している。

作曲は、巨匠の吉田正。こちらも鶴田との繋がりは深く、『街のサンドイッチマン』『赤と黒のブルース』『好きだった』(いずれも作詞は宮川哲夫)など、彼の代表曲を手掛けている。

『傷だらけの人生』の魅力は、何と言っても、台詞とそれに対応する歌唱の妙味にある。任侠映画などを彷彿させる雰囲気の、やや自嘲気味の語りを受けて、情感を込めて、歌が歌われる。それが繰り返されていくうちに、聴き手はその世界に徐々に浸っていく。


「傷だらけの人生」  藤田まさと:作詞  吉田正:作・編曲  鶴田浩二:歌


「古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ

新しいものを欲しがるもんでございます。

どこに新しいものがございましょう。

生まれた土地は荒れ放題、今の世の中、

右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。」

 

何から何まで 真っ暗闇よ

すじの通らぬ ことばかり

右を向いても 左を見ても

ばかと阿呆の からみあい

どこに男の 夢がある

 

「好いた惚れたとけだものごっこが

まかり通る世の中でございます。

好いた惚れたは もともと心が決めるもの...

こんなことを申し上げる私も

やっぱり古い人間でございましょうかね。」

 

ひとつの心に 重なる心

それが恋なら それもよし

しょせんこの世は 男と女

意地に裂かれる 恋もあり

夢に消される 意地もある

 

「なんだかんだとお説教じみたことを申して参りましたが

そういう私も日陰育ちのひねくれ者、

お天道様に背中を向けて歩く...馬鹿な人間でございます。」

 

真平ご免と 大手を振って

歩きたいけど 歩けない

嫌だ嫌です お天道様よ

日陰育ちの 泣きどころ

明るすぎます 俺らには

 

以前にも書いたことがあるが、『人生劇場』『柔』『兄弟仁義』の3曲は、いわゆる侠気の世界を歌ったものだが、2番の歌詞には必ず「恋」が描かれている。まるで、申し合わせた決まり事のように、それは現れるのである。

そして、今回の『傷だらけの人生』も、また同様であった。それにしても、この2番の歌詞は、実に秀逸だと思う。作詞家の藤田まさとという人の、恋愛観のようなものが反映されているのではないか。

「意地に裂かれる恋もあり 夢に消される意地もある」の件りは、数多ある歌謡曲のフレーズの中でも、私が最も好きなものの一つである。自分で歌っていても、この箇所はグッと来て、言葉が震えてしまうのだ。

ところで、鶴田浩二がこの歌を歌ったのは、かなり高年になってからだと記憶していたが、今回調べたところ、47歳になってばかりの頃だった。今の私より20歳も若いのである。渋過ぎる。

まあ、人生の来し方があまりに違うので較べてみるのは詮ないことだが、同じ男であっても、こうも器量に差があるのは…やはり辛いものである。

-…つづく

 


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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