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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第362回:流行り歌に寄せて No.167 「花と小父さん」~昭和42年(1967年)

更新日2018/11/15


不思議なテイストの作品である。私の中では、ハマクラ先生の作品の中で、最も難解な曲という気がしている。

タイトルからして、何か妙である。「花」と、「小父さん」(この表記も、最近ではほとんど見かけない)というのが、どうも結びつかない。多くの解説を読むと『バラが咲いた』の姉妹曲であるフォーク調の作品と位置付けられたりしているが、その詞の内容には、猟奇的なエロスさえ感じる曲だと私には思える。

1番の最初の2行と2番については、小父さんの語りになっているが、1番の3行目以降は、ずっと花が語っている形になっているのも、型破りな作り方だと思う。

最初は、植木等の初ソロアルバム『ハイおよびです!!』のために、ハマクラ先生がもう1曲の『笑えピエロ』とともに提供した曲であるという。植木はこの頃、コミカルな歌を歌い、そのような役の映画に数多く出演し、大変な人気者になっていたが、そのあり方に疑問を感じていたという。

そこで、六輔・八大コンビやハマクラ先生など、著名な作家たちが手掛け、コミカルなものとは距離を置いた曲を提供して、このアルバムが作られたという。

植木等はこの時、不惑40歳で、当時としては立派に小父さんと呼ばれる年齢になっていたが、のびやかに、また丁寧に歌唱しており、大変に好感の持てる歌い方で、私の頭でっかちな曲の解釈など、撥ね退けられてしまうようだ。

「花と小父さん」  浜口庫之助:作詞・作曲  中村五郎:編曲  伊東きよ子:歌 

小さい花に くちづけをしたら

小さい声で 僕に言ったよ

小父さんあなたは 優しい人ね

私を摘んで お家につれてって

私はあなたの お部屋の中で

一生懸命咲いて 慰めてあげるわ

どうせ短い 私の命

小父さん見てて 終るまで


可愛い花を 僕は摘んで

部屋の机に 飾っておいた

毎日僕は 急いで家に

帰って花と お話をした

小さいままで 可愛いままで

或る朝花は 散っていったよ

約束通り 僕は見ていた

花の生命の 終るまで


約束通り 僕は見ていた

花の生命の 終るまで


編曲家の中村五郎は、ハマクラ先生との仕事の他にも、多くの人と組み編曲をしている。また、作詞を手掛けたり、海外の曲の訳詞などもこなす多才な人でもある。

伊東きよ子は、私は不勉強ながらデビュー曲であるこの『花と小父さん』だけでしかその名を記憶していないが、この後も9枚のシングルを出し続け、70年代の前半まで活動していた。

発売されたシングルも、ハマクラ先生の他にも、作詞家では、橋本淳、山上路夫、寺山修司、安井かずみ、岩谷時子、千家和也、作曲・編曲家では、すぎやまこういち、筒美京平、村井邦彦、宮川泰、平尾昌晃、森岡賢一郎、クニ河内、馬飼野俊一、馬飼野康二、小谷充、渋谷毅など、歌謡界を代表する錚々たるメンバーによって作られており、所属の渡辺プロダクションの力の入れ方が、ひしひしと伝わってくるようである。

目鼻立ちがくっきりとした、相当な美貌の持ち主である。昭和22年1月24日、北海道札幌市出身。宝塚音楽学校に入学し、東宝のインターナショナル・ダンシング・チームのオーディションにも合格してダンスの世界に踏み出すが、まもなくアキレス腱を痛め、その世界を断念して宝塚も退学した。

その後、アメリカのフォークグループ “The New Christy Minstrels”への加入を経て、渡辺プロダクションと契約し、踊りから歌の世界への転身を見事に果たして、『花と小父さん』でデビューをしたということである。このデビュー・シングル盤のB面『愛のかけら』は伊東きよ子本人の作詞作曲による曲であった。

『花と小父さん』はその後、同じナベプロの天地真理がカバーし、藤圭子、畠田理恵がそれに続いている。そして、みのもんたが還暦の年、里見浩太朗が76歳の年になってカバーをし、今や小父さんを超えた、おじいさんたちによる愛唱歌の体をなしているようである。

-…つづく

 

 

第363回:流行り歌に寄せて No.168 「真赤な太陽」~昭和42年(1967年)


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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