第596回:台頭するインド人移民
私が勤めている大学に外国人の教授がたくさんいます。語学でドイツ語の先生はドイツ人、スペイン語はコスタリカ人、キューバ人、スペイン人、中国語(北京語)は中国人なのは当たり前でしょうけど、他の分野でも優れた外国人教授が活躍しています。
自分の国を離れ、アメリカ人と競争して教授職に就くくらいですから、外国人教授はアメリカ人教授連(私を含めてかな)より、優秀な研究者、先生で、一般的にレベルが上だと言ってよいでしょう。そのうち、アメリカ文学の先生以外はすべて外国人になってしまうのではないか、そうなれば大学のレベルもグンと上がるのではないかとさえ思います。
日本人、韓国人、ロシア人、トルコ人、ウクライナ人、エルサルバドール、ネパール人、ペルー人、東ヨーロッパ人、イギリス人、台湾人など、学内で国連が開けそうなほど国際的で、入れ替わりがありますが、常に30人以上の外国人教授が教職に就いています。
去年から副学長に選任されたのはインド女性の生物学者のアパルナです。今まで、能力がないのに学長のヒキで職に就いた副学長とは大違いで、アパルナは事務能力も高く、学内の雑務をテキパキとこなす上、勝手なことばかり言いがちな古株の教授たちの言い分にも耳を傾け、説得し、私から見れば、彼女ほど良い副学長はあり得ません。
副学長は生徒、先生の両方に係わる大変な仕事です。彼女の下で、秘書や事務員が6、7人働いていますが、今までのお役所じみた雰囲気とは打って変わって、ニコヤカ、テキパキと対応し、上の人が違うだけで事務所、仕事場がこれほど変わるものかと唖然とするほどです。それでいて、自分の専門分野(クラゲのスペシャリストです)でも業績を上げ、専門雑誌に彼女の名前を見つけることは珍しくありません。他にインド人の先生が二人いますが、どちらもとても優れた学者です。
“アメリカのアジア人”という特集記事が雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』(National Geographic;2018年9月号、英米版)に載りました。多分にその特集号を受け売りし、私観を付け足しますと、アメリカに現在住んでいる、インドからやってきた移民の平均収入は断トツに他の国からの移民より高く、また学歴も大卒以上、修士、博士号を持っているインド人が40%以上になります。おまけに90%以上のアメリカ生まれのインド人の両親はどちらかが大学を出ているのです。
これには驚きました。ですが、ちょっと考えてみれば、アメリカにやってくるインド人は食うや食わずの人たちではなく、インドで相当上のクラス、お金持ちで、すでに大学教育を受けた人たちが多いですから、彼らの子供たちも自然、大学に行くのでしょうね。中国人はハイテック関係の大金持ちがアメリカに移住しますが、80-90%の人は貧しい生活から逃れるために、親戚一同がなけなしのお金を出し合い、見所のある子供を送り出している移民です。
それは大量に渡ってくるメキシコ、中南米の人たちにも言えることです。フィリピン、パキスタン、スリランカ、インドネシア、カンボジア、タイ、ベトナムからの移民が母国で高い教育を受けている比率はインド人とは比較にならないくらい低く、スタート時点で大きな差がついている…と言えそうです。
おまけにインド人は教育にとても熱心で、子供の教育にお金を惜しまないということも、将来、高い収入に結びつく要素でしょう。
スペリング・ビー(spelling bee;全米子供の英語スペルのコンテスト)でも上位はインド系の子供たちが圧倒的多数を占め、インド人がいなければ全米スペリング・チャンピオン大会を開催できないかのようにさえ見受けられます。2018年の優勝者、14歳のカーティク・ネマーニ(Karthik Nemmani)君もインド人でした。
いったいコーカソイド(白人系)はどこに消えてしまったのかと思いたくなります。インド系のお医者さんが働いていない病院があり得ないのと同じかもしれません。とりわけ先端医療技術の分野ではインド人がたくさん働いています。シリコンヴァレーでもソーシャルメディアNexdoorの創設者ニラヴ・トーラもたくさんいる成功組の一人です。
中国系の500万人に続き、アジア系ではインド系アメリカ人(アメリカ市民権を持つインド人)は2番目に多く400万人います(ちなみに、日系人は140万人、もちろん一番多いのはラテン系の中でも群を抜いているメキシコ系で3,600万人、次に多いプエルトリコ人は550万人います)。勤勉で教育レベルが高いとなると、自然、政治的な力も付いてきます。
あのターバンを決して取らないシーク教徒の市長さんも生まれましたし(ニュージャージー州、ホボーケン市)、ルイジアナ州知事で大統領候補にも挙げられたプリュシュ”ボビー”ジンダイは、アメリカで初めてのインド系知事でしたし、オハイオ州の下議会員ナイラジ・アントンなどなど、ざっと数えてみたところ、市長、上院、下院の両国会議員、州知事だけでも26人もインド人がいました。法曹界でも、各州の法務長官、判事、裁判官になっているインド人は珍しくありません。
インド人は一般的に、もちろん同族意識はあるのでしょうけど、自国でも多彩な人種、民族、宗教、階層で揉まれてきているので、同属だけで固くまとまってしまう傾向が少なく、広い対象から信頼される趨向が強いと言えるかも知れません。 そんなところが、政界で他の民族、宗教の人たちから広く支持される理由なのでしょう。
ロンドンでモスレムの市長さんが誕生したように、アメリカの大都会でヒンズー教徒の市長が生まれるまでにはなっていませんが、そんな日も間近いでしょう。そうなれば、アメリカ本来の清教徒的な価値観とは違った多様性のある視点をもたらしてくれることでしょう。
十数年前まで、黒人が大統領になるとは誰も思っていませんでしたから、いつインド系の大統領が生まれても不思議でないバックグラウンドはすでにあるように思います。
-…つづく
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