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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第597回:立ち小便は日本の伝統芸?

更新日2019/02/21



何度かこのコラムで触れていますが、うちのダンナさんは日本人です。というか、元日本人らしい仙人です。日本の文化伝統的な禅、茶の湯、神道などには全く見向きもしないのですが、時折、ヤオラこれが日本の伝統だと…、奇妙なところで、日本的習慣を披露することがあります。

その日本の伝統芸の最たるものが“立小便”なのです。まるで犬が自分の領域を誇示するためにあちらこちらそこいらじゅうにオシッコをかけるように、うちのダンナさんは所構わず“日本の伝統芸”を披露するのです。

私は若かりし頃、大阪郊外の吹田市に住んでいたことがあります。初めての外国、日本で生活を始め、カルチャーショックを受けたのが通勤電車内での居眠りと立小便です。当時の駅のトイレは、そこにそんな設備があるというだけのことで、目が潰れそうな臭気が漂い、まるで水鉄砲でオシッコのカケアイ戦争でもした後のようでした。また、すぐそこに、近くにそれなりの設備があるのに、公衆便所に入らず、入り口の柱や壁にかけている御仁が多いのにとても驚かされました。

街中でも、オフィス街を離れ、一歩繁華街に足を踏み入れるやいなや、人類皆兄弟ではなく、人類、皆立小便、男は黙って立小便の状態でした。まるで、電信柱は立小便をひっかけるためにあるかのようでした。まだうら若きオトメだった私は、大いにショックを受けたものです。

ウチのダンナさん、そんな伝統を生真面目に引き継いできてる上、オシッコはデッキから身を反り出し、風下でヨットを汚さずにするもんだという、長い水上生活を続けてきましたから、立小便の習慣が抜けなくなったのでしょうか、アメリカに移り住んでからも、一向に周囲の目を気にする風もなく日本の伝統芸を披露するのです。

おまけに、寄る年波のせいでしょうか、最近とみにオシッコが近くなっているので、頻度が増し、伝統芸に磨きがかかってきたのです。交通量の多いハイウェイで急停車、街中でもチョットした小路、田舎道ならどこでもという感じなのです。

結婚する前のことですが、私の家族と一緒に公園を散歩した時、未来のダンナになる人が誰はばかることなく立小便をしたのには、さすがに驚きました。私の両親、確かお婆さんも一緒だったと思いますが、なんという野蛮な男を連れてきたのだろうと思ったことは間違いありません。

アメリカのほとんどすべての町では立小便はもちろん禁止で、お巡りさんに逮捕され、罰金刑を喰らう軽犯罪です。日本にも猥褻物陳列罪というのがあるそうですが、立ち小便に対してはおよそ実定性のない法律のようです。ダンナさん、「俺のは、猥褻でないよ」と愚につかないことを言っていますが…。

どうも立小便は日本だけのことではなく、地中海の国々でもお盛んなようです。人間の(男だけですが)の習性で用を足す場所が自然に決まってくるようなのです。ちょっとした物陰、行き詰まりの小路などです。機転が効くうえ、本人も経験が十分あると思われるパリジャンがハイテック立小便ボックスを作りあげました。第一、発想が素晴らしいのです。立小便を禁止するのではなく、頻繁にオシッコがかけられる所定地に大いにしてもらいましょうというのです。

標的にされやすい、頻度の高い場所に“立小便ボックス”なるものを設置したのです。これが結構シャレていて、下半分はステンレスで、上半分が真っ赤に塗られた高さ1メートル半くらいの箱なのですが、その箱の上が花壇になっていて、きれいな草花が植えられているのです。

箱の赤い部分の一面にキンカクシというのかしら、上が開いたコの字型になっていて、それがかなり広いのでまずマトを外す心配はありません。優れているのは小便を有機肥料に変え、箱の上にある草花を豊かに育てていることです。そしてコンピューターのセンサーで、肥料が溜まり過ぎたら、コントロールセンターに通報が行き、肥料を回収する仕掛けです。もちろんその肥料は市販されています。いみじくも“野菜、果物用ではありません”と肥料パックに書かれていますが…。

このフランスはパリからのファッショナブル立小便ユニット、お値段の方ですが、ハイテック?のセンサー付きで一基55万円相当ですから、公衆トイレを作ったり、修理メインテナンスするよりはるかに安いかもしれません。

花のパリから、あの臭いがなくなったら、パリらしさがなくなると心配するムキもあるでしょうけど…。

女性用の方は今のところありません。第一、私たち女性は自己コントロールに優れ、礼儀、マナーも良いですからね…。

-…つづく

 

*参考ニュース(のらり編集部)
フランスが深刻な立ちション問題 
セルフ立ちションボックスを設置したところ非難殺到

(2018/08/17)

 

 

第598回:トランプ大統領の年頭教書(2019 The State of The Union)

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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