■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)




中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。



第1回:男日照り、女日照り
第2回:アメリカデブ事情
第3回:日系人の新年会
第4回:若い女性と成熟した女性
第5回:人気の日本アニメ
第6回:ビル・ゲイツと私の健康保険
第7回:再びアメリカデブ談議
第8回:あまりにアメリカ的な!
第9回:リメイクとコピー
第10回:現代学生気質(カタギ)
第11回:刺 青


■更新予定日:毎週木曜日

第12回:春とホームレス その1

更新日2007/05/24


私が住んでいるロッキー山脈の裾野にある町には、春が急激にやってきます。

北アメリカ大陸の真ん中ですから、大陸性気候とでもいうのでしょうか、夏と冬、夜と昼の気温の差が激しく、季節の移り変わりが線を引いたように明確です。先週まで氷点下だったのが、今週から最高気温が30度を越すようになりました。草花も待ってました、ソーレッといった感じでパーッと咲き始めます。

町中にある小さな公園の芝も色濃くなり、日中は日陰を探さなければならない暑さになりました。春の訪れと同時に、いままでどこに隠れていたのでしょうか、ホームレスの姿が目に付きはじめました。その公園で、お昼にホームレスのための昼食サービスがあるので、自然にそこが溜まり場になってしまうのでしょう。食事は教会のボランティアの人々がチャリティーで集めた材料で作っていますが、近くのファーストフードレストランよりズーッとおいしそうです。

日本にいたとき、上野のブルーテント村や隅田川沿いのテント村には驚きました。両方とも風光明媚な一等地だし、テントと言ってもなかなか立派ものも多く、玄関先に靴を脱ぐタタキなどがあり、通りすがりに中を覗くと、テレビや本棚、家具などを揃えているブルーテント小屋もありました。

自転車、ショッピングカート、リアカーなどを持っているのは当たり前のようで、日当たりのよいところでは盆栽や植木鉢を並べたりして、高くて狭い日本のホテルに泊まるより、次に日本行くときは大きなテントを担いできて、彼らの仲間に入ろうかな…と思わせるほどでした。なんといっても上野公園なんかは、地の利が抜群に良いですから。わたしのダンナなどは、「明日は我が身だなー」と、まんざらそれも悪くはないという顔です。

幾つかの青いテント住居にロープとガムテープで封印してあり、張り紙がしてありました。ここの住人はどこそこの病院に入院中である、よつてこの場所の居住権を侵したり、所有物を移動しないこと、などと東京都のお役所のからの通達なのです。お役所がホームレスの公園内での居住権を守ってあげるとはなんと素晴らしいことかと感動したほどです。

アメリカだけではありませんが、西欧では公園は公共のものと考えられ(当たり前のことですが)、一部の人がどんな小さな面積であっても占有することができません。すぐに強制的に取り払われるでしょう。公園で夜間寝ることも、一種の不法行為になるのでしょうか、逮捕の理由になります。昼間はユッタリとくつろいでいるようですが。

フロリダ州のディズニーランドがあるオーランド市でホームレスに関連して奇妙な事件がありました。ホームレスに食事を与えていたボランティアが逮捕されたのです。普通なら、長年ホームレスに食事を与え、貧しい人々を飢えから救った功績で、名誉市民として表彰されてもおかしくないはずですが、反対に逮捕されたのです。その団体は30年近くもホームレス救済を地道に続けている息の長い活動をしているところです。食中毒を出したというわけでもないし、ドウシテ? と理解に苦みました。

新聞やインターネットでかき集めた情報によると、オーランド市では市役所から2マイル以内で25人以上に食事を与えることができない法律があり、その団体が食事を与えていた場所が2マイル以内にあり、隠しビデオカメラを設置し、26人目になった時に、逮捕に乗り出したというのです。

観光が主な産業である町が同様の法律を作り規制しているようです。このようにホームレスを一掃しようという町がアメリカに20余りあることを見つけました。ラスベガス、サンフランシスコも同じような条例を設けています。

このような市、町のお役人の考えでは、目障りなホームレスは町の印象を汚し、観光客が逃げてしまう。おいしい食事などを提供して、評判になり、ミシュランのレスラン評価の星が2個3個と付き、全米ホームレスがここに全員集合のような事態になっては困る。何でもいいから、ともかく私たちの町から出て行ってくれればそれでよい。まかり間違ってもホームレスにとって魅力的なパラダイスにはしたくない、ということなんでしょうけど、ホームレスや食事を作るボランティアの人たちも、町にお金を落としてくれる観光客同様の人間だということを忘れているように思うのは私だけかしら。

そして、私はまだ今のところホームレスにはなっていないことだし、そんな条例のある町オーランドやラスベガスなんかに観光客として絶対に行かないゾ、と密かに決心をしたのです。

 

 

第13回:春とホームレス その2