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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第856回:アメリカの海外ニュースから

更新日2024/06/27


他の国のことを知らない、無視するのがアメリカ人の特徴です。アメリカ人で日本の総理大臣の名前、イギリスの首相の名前、フランスの大統領の名前をスラスラと言える人はよほど限られた国際情勢の通だけでしょう。さすがに、すっかり時の人になったロシアの大統領プーチン、イスラエルの首相ネタニヤフ、ウクライナの大統領ゼレンスキーの名前は知っているでしょうけど…。

アメリカ人にとって、外国とはエキゾチックな観光旅行をする対象でしかないのです。
従って、海外の国のあり方から、アメリカを観る、学ぶということはありません。 
 
最近、マスコミで大々的に取り上げられている海外のニュースは、タークス・アンド・カイコスというカリブに浮かぶ島国で4人のアメリカ人がそれぞれ別に逮捕拘束されたことです。

タークス・アンド・カイコス諸島は、カリブ海最後の楽園とまで言われている、旧イギリス植民地だったところで、ハイチとドミニカ共和国がある大きな島の北西約150マイルに広がっている群島です。

ヨットでカリビアンセーリングを終えフロリダに帰るとき、バハマ諸島に取り付く前に骨休めをする格好の島々です。浅い海域が広がっているので、どこにでもアンカーを入れることができるという役得があります。浅い海のおかげで大きなクルーズシップの侵入を免れている、訪れる人の少ない島々です。海の水がこんな透明度を持ちうるものなのかと、信じられないくらい綺麗な海が広がっています。
 
島には漁業以外、これといった産業はありませんでしたが、近年になって、トローリング、ダイビングのマニアが目を付け始め、この美しいけれど貧しい島国にやってくるようになり、島の人々も観光がイージーマネーを落としてくれることに遅ればせながら気づき、今では観光、海でアクティブに遊ぶタイプの休暇を売り出しています。難点はヨーロッパからもアメリカからも遠いことでしょうか。

それでも、もうバハマ、カリブ、オーストラリアのグレートバーリアリーフにはすでに行ったことだし、次はタークス・アンド・カイコスしかないというお金持ちが相当数いるのでしょう、観光が島の経済を支えるまでになっています。実際、この国の経済の95%は観光に頼っています。

タークス・アンド・カイコスは他の旧英領と同じように、銃火器の持ち込み規制が厳しい国です。タークス・アンド・カイコス政府はさらに厳しく、如何なる理由があろうと、ピストル、ライフル、そして弾丸の持ち込みを禁止し、違反者は5年から15年の禁固刑に処すと法律を整えました。

逮捕された4人のアメリカ人は、アメリカ国内旅行で恒常的に持ち歩いていたピストルと弾薬をそのままスーツケースに入れて持ち込もうとしたことのようです。4人ともテロリストやギャングタイプではなく、しごく普通のお金持ち?タイプの観光客で、前の旅行で持ち歩いていたピストル、弾丸を家に置いてくるのを、ついうっかり忘れたと弁明しています。おそらく、それは本当なのでしょう。

アメリカのマスコミは、そんなついうっかりの罪ですでに何ヵ月も勾留され、公平な?弁護士を付けることができない裁判で禁固刑になるのは残酷だ。彼らには仕事もあり、妻や子供もいる、なんとか外交交渉で釈放するよう報道しています。
 
確かに、ついうっかり犯した罪なんでしょうけど、その国にとってはついうっかりで済ませることができない事情があり、イチ外国人旅行者が法律に触れても、その国の法律で裁くのが法治国家の基本です。

麻薬に厳しい日本に、ついうっかりマリファナ・タバコを持ち込んだ外国人を、日本の法律で裁くのは当然のことです。ビートルズでさえ?マリファナの吸い残しがギターケースの中に残っていたとして拘束した日本の法律のあり方は正しく、立派です。

第一、アメリカで許されているから、それが当然とばかり、そんな感覚を外国に持ち込む方がどうかしているのです。
 

私たちがカリブのセーリングでボネール(Bonaire;カリブの島、キュラソーの東隣にある平らで小さな島国)を訪れた時、クルージング・ガイドブックに書いてある注意事項に従って、水中銃、ゴム紐で発射するようなモノでしたが、ロッド、ゴム紐のスペアを含めすべて申告しました。

そしてそれを港湾局の小屋の保管所に預けるため、持参したところ、その大きめのガレージみたいな保管所に猟銃、ライフルはもとより、機関銃、自動小銃と弾の入った鉄の弾丸ケースが文字通り山と積まれていたのに驚いたことがあります。

税関、警察、港湾管理局のお役人のすべてを一人で兼ねている制服のお兄さん、「島全部の武器を集めても、これよりズーッと少ないぞ、豪華パワーボートクルーザーの連中、島を乗っ取る気じゃないのかね…」と、冗談を飛ばしていました。
 
アメリカに優れた人類学者、文化人類学者が数多くいるのに、アメリカ人全般に、外国のこと、異民族の事情にはとても疎いのです。
 
それは多分にマスコミのせいでもあるでしょう。ブラジルの大洪水、インドの列車事故、アフガニスタンの洪水、インドネシアの火山噴火で何十人、何百人が死亡しても、その中にアメリカ人、若い宣教師とその家族でも含まれていない限りニュースになりません。

いくら護身用?でもピストル持ち歩くことができるのはアメリカだけでしょうし、マリファナ・タバコの吸いさしを、ついうっかりポケットに入っていたと言っても、日本をはじめ多くの国では言い訳にもならないことをシカと知るべきなのです。

 

追記:タークス・アンド・カイコスに勾留されていた4人のアメリカ人は、特例として、5月末に罰金刑だけで釈放されました。タークス・アンド・カイコスの政府は、この事件がアメリカで大々的に広がりすぎ、アメリカからのヴァカンス旅行者が減ることを懸念したのではないかと言われています。釈放され、マイアミの飛行場に到着した“ついうっかり”組は、まるで英雄のように盛大なお出迎えを受けたそうです。

 

 

第857回:今年のスキーシーズン・・・

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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