第222回:繁栄指数と教育の関係について
かつて"繁栄"という言葉はアメリカのためにあったかのように響いていました。それが1980年代に入り、繁栄は日本の代名詞にさえなりました。日本の生産性の高さ、貯蓄の多さ、商品の優秀さと世界市場での競争力の強さ、日本の終身雇用、働いている人の企業にたいする忠誠心、どれをとっても日本の繁栄を揺るがす材料はなく、いつかアメリカを追い抜くのではないか……と多少提灯持ち風の未来学者が日本を盛んに持ち上げたのを覚えている人も多いでしょう。
しまいには、500年以上続いてきた西欧至上主義、西欧の絶対性を崩したのは日本だとまで、日本賛歌を唄うジャーナリスト、学者が続々と出たものです。
『繁栄指数』というものがあります。英語で"Prosperity Index"と呼び、経済、社会生活に重きを置き、早く言えば、どれだけ豊かに消費文化を享受し、日常生活を豊かに過ごせるかだけに焦点を絞った係数です。
消費文化といえば、アメリカのお家芸のはずでしたが、2007年まで世界一を誇っていたのが2010年にはこの繁栄、生活の豊かさは世界第10位に落ちてしまいました。伝統のないアメリカから"繁栄"がなくなったら何が残るのだ……と言いたくもなります。
このランキングでは、上位は北欧の国々に占められているのは予想通りですが、オーストラリアが4位、ニュージーランドが5位、カナダが7位とヨーロッパ以外の国が"繁栄"してます。
アメリカは100年近く、経済、政治、軍事で世界をリードしてきたと言って良いでしょう。そして、軍事的競争相手のソビエトが崩れた時、これからはアメリカの独壇場で太陽が照っている限り、アメリカの繁栄、"America
As Number One"が続くと信じていました。ところが、意外と早く凋落の日が訪れてきたのです。
国民の意識調査でも、自国の生活に満足しているかというアンケートでは、アメリカ人は28位(デンマークが1位、ノルウエー、オランダが続く)、平均寿命では27位(もちろん日本は1位)、仕事に就ける可能性、楽観性では86位、個人の貯蓄では84位なのです。
どうも、すぐに自分が関係している仕事、教育がどのようにその国の繁栄に関わっているかが気になってしまいます。
やはり、密接に関係しているのを見付けました。北欧やオーストラリア、ニュージーランド、シンガーポール、韓国は高い教育レベルを維持しています。なんとアメリカは小学校に通う生徒のパーセンテージでは世界で79位なのです。これが、小学生一人当たり世界で一番お金を使っている国、アメリカの教育の実態です。
一般の労働者が義務教育以上の教育を何年受けているかという調査でも、アメリカは27位で、教育に力を入れている国々が、安定した繁栄をしているのに比べ、アメリカに一体将来はあるのかと、絶望に陥ります。
アメリカは、ヨーロッパからの移民がやってきた当初から、まず学校を建て、子供たちに教育を施すのを至上命令のように実行してきました。パイオニアたちも貧しい中からヤリクリして辺境の地にも学校を建て、先生を自前で雇い、子孫が教育を受けられるウツワを自分たちで作ってきました。私が通った小中学校もそんな教室が一つだけ、1年生から9年生(中学3年)まで一人の先生が教える、ド田舎の小屋のような学校でした。
でも、今日のアメリカでは豊かさに満腹し、学ぶことに飢えのない子供たち、生徒、 学生たちは与えられたチャンスを生かそうともしません。
教育と国の繁栄、個人の生活の豊かさは直接、短期間に結びつきにくいものかもしれません。しかし、国を作るのはそこに住んでいる住民ですし、高い教育を受けた社会意識の高い人々が物質的にも精神的にも豊かな国を作っていくのは明らかなように見えるのです。
月並みな結論ですが、"教育は豊かな国を作るための基本"だと思うのです。
第223回:クマが出た!
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