第125回:アメリカの幼児死亡率の現実
更新日2009/09/03
アメリカがあらゆる科学の分野で常に先端を行っていることは、否定できない事実です。外国から良い条件で優れた研究者をドンドン呼び寄せていますし、研究する環境も、恐らくお金の力にまかせ、他の国より恵まれているのでしょう。
ノーベル賞受賞者の数は、アメリカ人、アメリカに帰化した人、アメリカの研究機関で働いている人を総計すると、他の国に比べ群を抜いて多く、アメリカ人は、その恩恵を充分に受けている……と思われがちです。
確かに、医学の分野でもアメリカは先端を行っています。他の国なら、特にアフリカの国々でなら、即死んでしまうような病気にかかっても、アメリカなら生き延び、治る可能性があります。ただし、アナタが大金持ちか、マスコミの衆目を集める珍しいケースであるか、スポンサーが付いている場合に限られます。
アメリカの先端技術を生かした医療の恩恵を受けることのできる人はとても限られています。よほどの大金持ちでもない限り、医療のトップ技術の治療を受け、1ヵ月以上入院できるような保険の掛け金を払うことができません。
私たちの加入している普通の保険では、全くカバーできない治療が沢山あります。ある種の保険では、ガンは全くカバーしないと虫眼鏡でも読めない小さな字で書いてあったりします。しかも、アメリカ人の30%がそんな保険すら加入していないのです。
近所の叔父さんが心臓麻痺を起こし、病院に運ばれましたが、彼は保険に加入していないので、翌日、天文学的な請求書と一緒に病院を追い出されました。薬を買うお金もなく、ただ死ぬのを待つだけです。これが医療の最先端を行くアメリカなのです。
赤ちゃんの死亡率は悲惨なことになっています。お金にならない産婦人科のお医者さんが激減している上、出産に異常なお金がかかるからです。付け加えて、乳幼児の保険の掛け金が高いので、せっかく生まれた赤ちゃんがちょっとした軽い病気になっても、直ぐ病院に連れて行けないのです。
毎年、3万人の赤ちゃんが、一歳の誕生日を迎える前にアメリカで死んでしまいます。これが、六つ子、ハつ子を無事に出産させ、全員無事に生きさせた医療技術最先端を誇るアメリカでのことなのです。新生児1,000人に対する、新生児一年未満の死亡率を見ると、なんとアメリカはキューバより悪い30番目で、6.9人の赤ちゃんが死んでいます。日本は2.8人で4番目、簡単に赤ちゃんを死なせない国です。
アメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人と言わなければ差別用語になるのかしら)だけを見ると、やはり、1,000人に対し、13.6人の赤ちゃんが一年以内に死んでおり、アフリカ諸国と変わらない数字なのです。
これは明らかに人種の問題ではなく、お金の問題、社会の問題です。州別に見ても、南部の州が軒並み幼児死亡率が高いのは、そこに棲む多くの黒人が医療の恩恵に浴していないからでしょう。
アメリカの医療制度は、まるで資本主義の悪い面だけを拡大したかのようにズサンです。大手の保険会社、製薬会社が結託して牛耳っているのが、アメリカの医療制度なのです。
赤ちゃんを安心して産み、育てることができる社会が、どんな政治体系の下でも一番の基本だと思うのですが……。
第126回:初秋の頃の野生動物たち