■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)
第7回:Cycling(3)
第8回:Cycling(4)
第9回:Greyhound (1)
第10回:Greyhound (2)
第11回:Greyhound (3)
第12回:Hong Kong (1)

 



■更新予定日:毎週木曜日

第13回:Hong Kong (2)

更新日2006/03/17


カオルーンの街は、夜更かし型で目覚めるのが遅い。それはわかっているのだが、どうしても毎朝早くから目覚めて外へ出てしまう。理由の一つはエリカが朝型で、毎朝6時半にはきっちり起き出してシャワーを浴び、それに続く儀式のような読書を始めるからだ。そしてもう一つは、香港の蒸し暑くかび臭い安宿での朝が、どうしても耐え難いからという単純な理由。

隣室のあまりの乱痴気騒ぎに嫌気がさし、チョンキン・マンションを出て、すぐ隣に半ば飲み込まれるように建つミラードアー・ビルディングへと逃げ込んではみたものの、やはりここも安宿の宿命で、窓もない小さな部屋に、壊れた扇風機が置いてあるだけという具合。

そういうわけでエリカがシャワーを浴びた後には、ただでさえジメジメとしてくすんだ色合いのシーツカバーが、シャワーの熱気により更に耐え難い品へと化してしまう。そんな牢獄みたいな部屋にいるよりは、まだ眠っている街へでも繰り出したほうがマシというものだ。

毎朝決まったように吉野家でブレックファースト・セットを注文し、時計台傍のスターフェリー乗り場まで波止場を歩いて散歩した後で、20セント余りのフェリーに乗って香港側まで行って帰ってくる。このフェリーからの眺めが素晴らしく、何度乗っても飽きるものではなかった。

機関室から漏れて来るオイルの臭いと、油にまみれてどす黒く濁った海を渡って来る潮風が合わさって、忙しく乗り込んでくる人々の喧騒をかき消す。このたった10分か15分ほどの船旅で、向こう側とこちら側ではこんなにも違うのだというくらいに街並みはまるっきり違う。

カオルーン側の夜型でごちゃごちゃとなんでもありな雑踏ぶりが嘘のように、香港島側のセントラル区域へ一歩踏み込んだとたんに、朝早くから東京やニューヨーク顔負けの国際ビジネスマンがスーツに身を包んでさっそうと通りを闊歩する。

ひと時の船旅を楽しんだ後で波止場へ帰ってくるころ、やっとのように起き出した街は活動を始め、観光客の記念写真を撮る写真家やお土産を売る屋台が、店を開く場所を清める姿が見れる。それに加えて制服姿の中高校生数人ずつで集まったグループが、白人旅行客を見かけると駆け寄っていってはアンケートを始める光景。できれば相手をしたいのだが、こう毎日毎日いろんなグループが出没したのではやり切れないと、エリカは港へ着くと同時にそそくさと歩くスピードを速める。

ただし、それでもやっぱり捕まってしまい、断りきれずに何度も相手をしていた。それは、「なぜ香港を訪れたのか?」、「この街のどんな所が好きか?」などの一聞すると観光キャンペーンか何かのアンケートの一部のようなのだが、彼らに尋ねてみると実際には英語の授業の一環として、直に外人と会話してみようというもののようだった。

まあ学生をバイト代わりに使って、観光アンケートもやってやろうじゃないか的な部分がないとは言い切れない気もするが、それはこの際どうでもよいことだ。ただ困ってしまうのは、その質問の間に日本人の自分だけは、別に急いでいないとはいえ、待ちぼうけなのもそれはそれで暇ではあるということである。

…つづく

 

第14回:Hong Kong (3)