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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第585回:埋め立て地めぐり - 大阪市交通局南港ポートタウン線 トレードセンター前~住之江公園 -

更新日2016/04/28


トレードセンタービル、もとい、大阪府咲洲庁舎。愛称はコスモタワーの展望台を降りて、トレードセンター前駅に戻った。駅で用を足しつつ、あ、ここで小便をするなら、有名だというレストラン街のトイレに行けばよかったと思った。しかし、もう一度上るまで身体が持たない。

南港ポートタウン線の旅を続ける。コスモタワーの高いビルの陰から黒いビルが現れる。ハイアットリージェンシーホテルだ。その奥に低くて大きな屋根が並ぶ。国際見本市会場インテックス大阪である。新交通システムに高層ホテルに見本市会場。なるほど、このあたりは東京に例えるとお台場あたりか。ゆりかもめ、東京ベイ有明ワシントンホテル、東京ビッグサイト。好対照といえそうだ。


中ふ頭駅へ、線路の左が公営団地、右が南港ポートラインの車庫

広い道路を越えると住宅地区になった。それもお台場に似ている。埋め立て地の計画のセオリーだろうか。線路の左側に同じデザインの集合住宅が並ぶ。15階建てくらい。線路に向かってベランダが並んでいる。住居ひとつあたりの幅が広い。ファミリー向けの部屋の多い物件だろう。我ながら細かいところを見ている。

列車は中ふ頭駅に停まった。住宅地区の最寄り駅。線路の右側は南港ポートタウン線の車庫だ。コスモタワー展望台から見えたサーキットのようにな施設である。列車からはその様子がわかりにくい。展望台に上がって空から見物できてよかった。

ところで、中ふ頭駅は南港ポートタウン線の境界である。車庫があるから境界線ではなく、境界線だから車庫がある。もともと、この駅を境として、コスモスクウェア側が大阪港トランスポートシステムの路線、住之江公園側が大阪市交通局の路線だった。先に大阪市交通局が住之江公園から中ふ頭まで開業した。1981年のことで、前述のように神戸のポートライナーに少し遅かった。

中ふ頭は終点だから車庫を併設したようだ。未開拓の空き地だから都合がいい。そして、将来は大阪港トランスポートシステムと直通するつもりがあって、そのために車庫を作ったともいえそうだ。このあたりの経緯は複雑だ。

大阪港トランスポートシステムは、地下鉄中央線の大阪港から中ふ頭まで建設する計画だった。しかし、大阪港からコスモスクウェアまではイベントで急増する利用者には足りないとして、地下鉄の規格とし、大阪市営地下鉄と直通運転を実施した。コスモスクウェアから中ふ頭までは新交通システムとし、大阪市交通局の南港ポートタウン線と直通運転した。

ところが、別会社になったうえに、短距離の異なる路線を運営するせいで運賃が割高となった。コスモスクウェアやトレードセンター周辺のテナント入居が進まず、地域開発が難航した。南港だけに難航とだじゃれを飛ばす場合ではない。結局、大阪港トランスポートシステムが施設を保有し、大阪市交通局が列車を運行するという上下分離が行われた。

地下鉄区間のテクノポート線は中央線に組み入れられ、新交通システムのニュートラムは南港ポートタウン線に組み入れられた。運賃は通算となって安くなった。それで成功したか否か、私にはなんともいえない。ただ、景色の良い路線である。名古屋のピーチライナーのように廃止されなくて良かった。


森から高層住宅が生えている

私は開業順と逆にたどっているわけだ。中ふ頭から先に集合住宅が多い理由もわかる。市営地下鉄だから都心に通いやすいわけだ。新交通システムの、架線も架線柱も街頭もない景色から見渡せば、植樹が行き届き、森の中から高層住宅が頭を出しているように見える。良好な住環境である。


高速道路と合流

ポートタウン西、ポートタウン東が咲洲の核となる地区のようだ。学校のエリアに変わり、大きな公園が現れた。都市育成ゲームのような、明確で、おおざっぱな区画割りだ。車窓左から高速道路が近づいて、列車はその下に潜り込む。地下鉄中央線の地上区間と同じ形式だ。


フェリーターミナル

運河を渡ると次の埋め立て地。ここは人工島ではなく、沿岸から延長した地域である。景色が変わる。左手は倉庫やビルが多く、右はフェリーターミナル。いかにも港湾地区という景色だ。フェリーターミナルは展望台から見下ろした地区だ。近くに南港ポートタウン線が見えないと思ったら、高速道路の下だった。


橋桁に抱えられている

高速道路の下を這い出すと高層の集合住宅があり、倉庫や工場のような建物があり、学校やスーパーもある。なるほど、歴史のある土地に近づくほど建物の秩序が薄れていく。そして運河の真上を渡る。いや、ため池のような、陸地に囲まれた、四角い湾のような。あ、そうか。これは貯木場だ。東京でいえば木場だ。ふたつの貯木場の中央を渡り、3つめの貯木場は小さくて、線路の左側だけだ。


商業施設が増えていく

列車は平林駅についた。商業施設が多く、建物の彩りが増えた。次が終点の住之江公園駅である。左手は大きな工場がある。その向こうの森が駅名の由来の住之江公園であろう。私のような余所者には住吉公園と似た名前でややこしい。住吉公園は阪堺電車の駅がある。そのそばに南海の住吉大社。その住吉公園が国道に削られてしまうため、国が大阪府に代替地として用意した土地が住之江公園だったそうだ。


貯木場らしき水場を渡る

終点の住之江公園駅が近づいている。住之江公園の森も近づき、その手前に水面が現れた。競艇場だと思ったら、列車は駅のシェルターに入った。南港ポートタウン線の旅が終わった。駅舎の出口が歩道橋につながっている。ポートタウン線の下にあった住之江通が現れた。交差する道路は新なにわ筋。南北が筋。東西が通り。ストリートとアベニュー。ニューヨークのマンハッタンの習わしと同じである。


住之江公園駅へ

駅名の由来となった住之江公園を散歩しようと思ったところで、約束していた大阪在住の友人からメールの着信。そうだった。少し早めに夕食を、と約束していた。地下鉄四つ橋線の駅は地下。ここから大国町駅までが未乗区間。降りずにそのまま本町へ。中央線と堺筋線を乗り継いで扇町に戻った。


住之江公園と競艇場

扇町に戻った理由は、テレビ局内の喫茶店で待ち合わせたからだ。収録が長引いても遅刻しないし、友人の自宅からも近いらしい。連れだって焼き肉屋や飲み屋が密集する通りを歩く。明るいうちから縁台で飲んでいる人もいる。そういう街だと友人が言う。朝の早い仕事か休日か。楽しそうだが隣の席には割り込みづらい。何しろ友人は美人で人妻である。酔っ払いと面倒なことになっては困る。もっとも、酒も言葉も私より彼女のほうが強いから、実は安心している。


住之江公園駅。延伸できそうな途切れ方

彼女のおすすめの店は開店時間には早かった。その近くで、開いたばかりの店に入る。落ち着いた洋風の店で、スペインのバルという店はこういうものか、と思った。それでもテーブルには小さな炭焼きコンロがある。やっぱり大阪である。

旧交を温め、肉を焼き、少し甘い酒を飲んだ。話題は次第に深くなり、共通の友人の余命と、それまでに何をしてやれるかという相談になった。美味と美酒と美女がそろっていたというのに、話は苦い。焼き肉屋の良いところは、涙を煙のせいにできることだった。

第585回の行程地図


2014年09月10日の新規乗車線区
JR: 0.0km
私鉄:26.8km

累計乗車線区(達成率)
JR(JNR):20,652.9km (92.68%)
私鉄: 6,202.4km (87.34%)

 

 

 

 

 

 

 

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

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