第675回:3件目のスーパー - 智頭急行 智頭~上郡 -
智頭駅前に観光案内所がある。木工品の土産が多い。智頭町は面積の9割が山林だという。山の中の小さな町。その起源は因幡街道の宿場町で、鳥取藩の参勤交代で最初の宿場として栄えたという。当時の建物も残っているらしい。貸し自転車もあるし、バッテリー駆動の小さなレンタカーは12時間でたった2,500円だ。それを知っていれば滞在時間を延ばす日程を組めたけれども、残念ながら今回の日程では1時間に満たない。
白い建物が智頭急行の智頭駅、本社社屋を兼ねる
そして私は腹が減った。訪問先で食事をすれば足跡を残したとする。身勝手な達成感を満たしたいけれど、智頭駅前は食事処がない。駅前の居酒屋はまだ開かない。飲食店検索サイトにも候補がない。観光案内所の先にスーパーマーケットが2軒あって、駐車場を挟んで向かい合わせだ。どちらも食品を扱っており、ライバル店か系列店か。ライバルなら駐車場を共有するかな……。片方の店で大きなチキンカツを買い、もう片方の店でおにぎりを買い、なんとなく両方の顔を立てている。
智頭町総合案内所、電動レンタカーに乗ってみたかった
食糧を買ったは良いが、食べる場所に困った。12月の鳥取山間部は肌寒い。待合室も足下が冷たい。列車の中で食べよう。次の上郡行きは15時22分発の特急スーパーはくと10号だ。お店のスーパー2軒と合わせて、本日3件目のスーパーである。智頭急行の窓口で上郡までの特急券を買う。420円。スーパーはくと10号は新大阪を通って京都まで走るけれども、上郡から先はJR西日本の線路で、青春18きっぷを使うから特急に乗れない。智頭急行のフリーきっぷは特急券を買えば乗せてくれる。
大きさに惚れて買ったチキンカツ、美味
駅員さんによると、昨日に比べて今日は冷え込んでいるそうだ。
「そういえば、私はこの冬はじめて白い息を吐いたような気がします」と応じる。
「私もそろそろ、クルマに冬タイヤを履かせないとね」
鉄道職員の通勤はクルマ。地方鉄道ではそれが日常である。
プラットホームに入ってみたけれど、寒い上に雨が降ってきた。JR側の改札口からいったん外に出て待合室に入れてもらった。缶コーヒーを飲む。今のうちにおにぎりを食べてしまおうか。いや、コーヒーにおにぎりは合わないな。
智頭急行HOT7000系「スーパーはくと」
京都方面の先頭車は貫通路付きだった。反対側は流線型
特急スーパーはくと10号は5分遅れで到着し、私ほか数人の乗客を乗せると急いで発車した。遅れの理由は朝のスーパーはくと1号で車両故障があったからだという。スーパーはくと1号は京都発07時06分。倉吉着が10時44分。折り返すとスーパーはくと8号になるから、スーパーはくと10号は故障車両ではない。つまり、智頭急行のダイヤ全体を乱し、その影響が5時間後も続いている。数分なら取り戻してくれそうだ。回復してもらわないと困る。上郡の乗り換え時間は6分しかない。
空は明るいけれど地上は暗い
智頭は雨。長いトンネルを過ぎたら晴れ。晴れているけれども車窓は暗い。夕方と呼ぶには早い時間だけれども、平地に山の影が落ち、稜線の近くに太陽だけ光る。これが盆地の黄昏時であった。佐用で自由席は満席となった。ここから先は初めて観る景色。ただしトンネルばかり。鉄建公団建設路線の特徴だ。
佐用から上郡までは千種川に沿う
トンネルを出たときの一瞬の景気を見逃したくない。チキンカツとおにぎりを頬張りつつ、いつトンネルを出るか緊張している。トンネルの中は油断する。あっ、景色がいい。しかし箸を置き、カメラを構えた瞬間に次のトンネルに入ってしまう。
左側のほうが良い景色かもしれない
進行方向右側の席は盆地の山側になる。車窓は左側のほうが良さそうだ。右側も景色が開くところがあるとはいえ、逆光になってまぶしかった。満席だから左側に移動できない。もっと景色を眺めたくて、上郡の到着前に席を立ち、ドアの窓から景色を眺めた。
上郡駅に到着
-…つづく
|