のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第498回:流行り歌に寄せて No.293「他人の関係」~昭和48年(1973年)3月21日リリース

更新日2025/03/13



「金井」姓というのは、それほど珍しいものではないが、昔からいわゆる著名人にはあまりいないのではないかという気がする。

昭和40年代、俳優の金井大(だい)という人がテレビに出ていたが、かなり渋い役者さんだったから、みんなが知っているというタイプの方ではなかった。

昭和43年(1968年)に文壇デビューしていた金井美恵子という作家を私が知ったのは、それからかなり後のことである。

だから、みんなの知っている有名な金井さんは、金井克子一人だったように思う。彼女のことは、昭和41、42年あたりから知っていて、その頃、やかましい連中から、私は「カナイカツコ、カナイカツコ」と言われたりしていた。

他愛のない言葉とはいえ、女性名で囃されることがただ疎ましく、子ども心に金井克子という人を敬遠していたのだが、密かに同姓の親近感は感じていたのである。

彼女の存在をはっきり知ったのは、何といっても日本テレビ系(私は名古屋テレビで観ていたが)のバラエティ番組『レ・ガールズ』(昭和42年8月4日から昭和43年7月12日まで放映)を観てからである。西野バレエ団のメンバーであったレ・ガールズ(金井克子、原田糸子、由美かおる、奈美悦子、江美早苗)がレギュラーを務めた、歌あり踊りありコントありの番組だった。

レ・ガールズでは金井はリーダー格で、由美かおる、奈美悦子が番組が始まった頃、まだ16歳だったのに対し、彼女だけは22歳であり、完全にお姉さん的な存在で、明らかに大人の女性の雰囲気を持っていた。

この番組、19時30分から20時までだったが、こんなに早い時間帯に放映するのかと思えるほど、かなりお色気度が強く、小6から中1時代の私にとっては、かなりドギマギしてしまう内容だった記憶がある。

さて、今回調べていてとても驚いたことは、金井克子にとって『他人の関係』は実に31枚目のシングル・レコードだったことだ。

彼女のレコード・デビューは昭和37年8月『ハップスバーグ・セレナーデ』という曲だった。この曲は、アメリカのコーラス・グループ、シェファード・シスターズのスマッシュ・ヒット曲のカヴァーで、日本のコーラス・グループ、ベニ・シスターズとの競作である。

そして、金井は昭和41年『ラバーズ・コンチェルト』で、翌昭和42年『ラ・バンバ』で、2年連続、NHK紅白歌合戦に出場している。不勉強なことに、私はこのことを知らなかった。

しかし、その後はヒット曲には恵まれなかったため、渡米してバレエのレッスンなどを受け、ダンサーとして自分を伸ばしたいと考えるようになった。そして「次の曲で、歌手の活動をやめよう」と心に決めた時に提供されたのが『他人の関係』。譜面を見せられた時に、そのエロチックな歌詞から「これも、まったく売れる気がしないわ」と感じたという。



「他人の関係」 有馬三重子:作詞  川口真:作・編曲  金井克子:歌


逢う時には いつでも 他人の二人

ゆうべはゆうべ そして今夜は今夜

くすぐるような指で ほくろの数も

一から数え 直して

そうよ はじめての顔で おたがいに

またも 燃えるの

 

愛した後 おたがい 他人の二人

あなたはあなた そして私はわたし

大人同士の恋は 小鳥のように 

いつでも自由で いたいわ

そして 愛し合う時に 何もかも

うばいあうのよ

 

逢う時には いつでも 他人の二人

気ままと気まま そして大人と大人

逢うたびいつも違う くちづけをして 

おどろきあう その気分

そうよ はじめての顔で おたがいに 

またも 燃えるの

 

愛した後 おたがい 他人の二人

男と女 そして一人とひとり

あなたは私のこと 忘れていいわ 

迷ってきても いいのよ

私 何度でも きっと引きもどす

引きもどして みせる

 

確かに、かなり際どい言葉が並んでいる歌詞である。有馬三重子は、『17才』から始まる南沙織の一連の曲や、布施明の『積み木の部屋』などの作詞でその名をよく知られた人。爽やかな印象の詞が多いが、あの伊東ゆかりの『小指の想い出』という艶のある曲の作詞者でもある。

この『他人の関係』の制作会議で「詞に声や表情を合わせてしまうと、あまりにも生々しくなってしまう」という意見が出たという。確かに、これをたとえば松尾和子のようにムードたっぷりに歌ってしまえば、かなり濃厚な曲になるだろう。

「それでは、声や表情にまったく感情を入れない人工的な感じで行ったらどうだろう」という提案がなされ、それが採用されて、あの実に無表情のクールなスタイルになったそうだ。

「バンバンババンバン」というイントロ、そしてバレエで鍛えられたしなやかな肢体が繰り出す、あの独特のフィンガー・アクションを交えた振り付け、歌い出せば、感情のない声と顔つき。逆に、それが大人の色気を充分に醸し出すことになった。

確かに、あの振り付けがよく流行ったことは覚えている。小学生のお調子者の子どもたちがよく真似をしていた。

また、金井自身が当時航空会社のスチュワーデス(CAという言葉はまだ一般的ではなかった)から聞いた話で、乗客に非常口の案内をする時の動作が、この曲の振り付けとそっくりで、動作をする時に、乗客から「バンバンババンバン」と囃されて恥ずかしい思いをした、というエピソードも残っているそうだ。 

この曲のステージで、彼女のバック・コーラス&ダンサーとなっているのは、男性の4人組グループ、ザ・フラッシャーズ。彼らとは長く、レ・ガールズ時代からのつきあいである。

金井克子は、この曲で6年ぶりにNHK紅白歌合戦に出場している。以前の紅白で歌った2曲はいずれもカヴァー曲だが、初めてオリジナル曲を披露することができた。

その後『人間模様(にんげんもよう)』を初め、有馬・川口コンビの作品を何曲かを出しているが、私は『波止場エレジー』という曲が、とても好きである。あのウィスパー・ヴォイスというのか、囁くような声にはピッタリな曲だと思う。

彼女は今年傘寿を迎える。芸能界に入って66年になるが、歌も踊りも現役で、活躍中とのこと。
私が老け込むなど、おこがましいことのように思えるのだ。

 

 

第499回:流行り歌に寄せて No.294「赤い風船」~昭和48年(1973年)4月21日リリース


このコラムの感想を書く

 

modoru

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice
---
2024年11月30日、「BAR Lismore」閉店しました。


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー


第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー


第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)~
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13~
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61~
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106~
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー

第351回:流行り歌に寄せて No.156~
第400回:流行り歌に寄せて No.200
までのバックナンバー

第401回:流行り歌に寄せて No.201~
第450回:流行り歌に寄せて No.250
までのバックナンバー



第451回:流行り歌に寄せて No.251
「また逢う日まで」~昭和46年(1971年)3月5日リリース

第452回:流行り歌に寄せて No.252
「わたしの城下町」~昭和46年(1971年)04月25日リリース

第453回:流行り歌に寄せて No.253
「ちょっと番外編〜トランジスタラジオ購入」~昭和46年(1971年)

第454回:流行り歌に寄せて No.254
「雨のバラード」~昭和46年(1971年)4月1日リリース

第456回:流行り歌に寄せて No.256
「悪魔がにくい」~昭和46年(1971年)8月10日リリース

第457回:流行り歌に寄せて No.257
「愛のくらし」~昭和46年(1971年)5月21日リリース

第458回:流行り歌に寄せて No.258
「なのにあなたは京都へゆくの」~昭和46年(1971年)9月5日リリース

第460回:流行り歌に寄せて No.260
「水色の恋」~昭和46年(1971年)10月1日リリース

第461回:流行り歌に寄せて No.261
「夜が明けて」~昭和46年(1971年)10月21日リリース

第462回:流行り歌に寄せて No.262
「別れの朝」~昭和46年(1971年)10月25日リリース

第463回:流行り歌に寄せて No.263
「君をのせて」~昭和46年(1971年)11月1日リリース

第464回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕!!
第465回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕~予選プール前半戦を終えて
第466回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕〜予選プール戦終了 決勝トーナメントへ
第467回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕~そしてファイナルへ
第468回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 閉幕~南アフリカのことを、少し
第469回:流行り歌に寄せて No.264
「子連れ狼」~昭和46年(1971年)12月25日リリース

第471回:流行り歌に寄せて No.266
「結婚しようよ」~昭和47年(1972年)1月21日リリース
第472回:流行り歌に寄せて No.267
「夜明けの停車場」~昭和47年(1972年)1月25日リリース

第473回:流行り歌に寄せて No.268
「さよならをするために」~昭和47年(1972年)2月10日リリース

第474回:流行り歌に寄せて No.269
「太陽がくれた季節」~昭和47年(1972年)2月25日リリース

第475回:流行り歌に寄せて No.270
「許されない愛」~昭和47年(1972年)3月10日リリース

第476回:流行り歌に寄せて No.271
「ふりむかないで」~昭和47年(1972年)4月10日リリース

第477回:流行り歌に寄せて No.272
「赤色エレジー」~昭和47年(1972年)4月25日リリース

第478回:流行り歌に寄せて No.273
「恋の町札幌」~昭和47年(1972年)5月リリース

第479回:流行り歌に寄せて No.274
「どうにもとまらない」~昭和47年(1972年)6月5日リリース

第480回:流行り歌に寄せて No.275
「芽ばえ」~昭和47年(1972年)6月5日リリース

第481回:流行り歌に寄せて No.276
「雨」~昭和47年(1972年)5月25日リリース

第482回:流行り歌に寄せて No.277
「女のみち」~昭和47年(1972年)5月10日リリース

第483回:流行り歌に寄せて No.278
「学生街の喫茶店」~昭和47年(1972年)6月20日リリース

第484回:流行り歌に寄せて No.279
「せんせい」~昭和47年(1972年)7月1日リリース
第485回:流行り歌に寄せて No.280
「耳をすましてごらん」〜昭和47年(1972年)7月21日リリース

第486回:流行り歌に寄せて No.281
「旅の宿」~昭和47年(1972年)7月1日リリース

第487回:流行り歌に寄せて No.282
「折鶴」~昭和47年(1972年)8月25日リリース

第488回:流行り歌に寄せて No.283
「男の子女の子」~昭和47年(1972年)8月1日リリース

第489回:流行り歌に寄せて No.284
「青いリンゴ」~昭和46年(1971年)8月10日リリース

第490回:流行り歌に寄せて No.285
「恋する季節」~昭和47年(1972年)3月25日リリース

第491回:流行り歌に寄せて No.286
「喝 采」~昭和47年(1972年)9月10日リリース
第492回:流行り歌に寄せて No.287
「バス・ストップ」~昭和47年(1972年)9月1日リリース

第493回:流行り歌に寄せて No.288
「おまえに」~昭和47年(1972年)10月1日リリース

第494回:流行り歌に寄せて No.289
「ひなげしの花」~昭和47年(1972年)11月25日リリース

第495回:流行り歌に寄せて No.290
「怨み節」~昭和47年(1972年)12月1日リリース

第496回:流行り歌に寄せて No.291
「なみだ恋」~昭和48年(1973年)2月5日リリース

第497回:流行り歌に寄せて No.292
「ジョニィへの伝言」~昭和48年(1973年)3月10日リリース


■更新予定日:隔週木曜日