のらり 大好評連載中   
 
■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第499回:流行り歌に寄せて No.294 「赤い風船」~昭和48年(1973年)4月21日リリース

更新日2025/03/27



昭和40年(1965年)7月4日、TBSの東芝日曜劇場の単発テレビドラマとしてスタートした『時間ですよ』。その後、第1シリーズが昭和45年2月4日~8月26日(全30回)、第2シリーズが昭和46年7月21日~昭和47年3月15日(全35回)、第3シリーズが昭和48年2月14日~9月5日(全30回)と、こちらは水曜日に放映された。

ドラマの中で、堺正章、悠木千帆とともに「トリオ・ザ・銭湯」を組む「松の湯」の女性従業員。第1シリーズの川口晶、第2シリーズの西真澄に続き、第3シリーズに配役されたのが浅田美代子で、彼女にとっては芸能界デビュー作であった。

そして『赤い風船』はこのドラマの挿入歌であり、彼女のデビュー・シングルとして、EPIC/CBSソニーから発売された。

キャッチ・フレーズ「ソニー・エンジェル」、この頃の浅田美代子は、本当に可愛かった。私と同学年(当時は高校3年生。但し、彼女は芸能生活に入ったため、東京女学館高校を中退している)だが、自分の同級生にこんな子がいてくれたら、と多くの男子は思ったりしていたのだ。

歌を歌っている表情が、どこかおどおどしているようで、これがまた男の子の心をくすぐるのだった。ご存知の通り、彼女は音程を取るのがあまり得意ではなく、実際に歌番組でも最後の音を大きく外したりする。その度に、何か自分が音程を間違えてしまったような恥ずかしさを感じてしまう。

この『赤い風船』は、オリコンの週間チャートで、いきなり2位で登場し、翌週には1位を獲得するという、とんでもない記録を作っている。この記録は近藤真彦が、昭和55年12月に『スニーカーぶる~す』でデビュー曲初登場1位という記録ができるまで破られなかった…、

とは言うものの、近藤真彦がTBSのテレビドラマ『3年B組金八先生』の生徒役でデビューしたのが昭和54年10月。このドラマが大ブームを起こし、田原俊彦、野村義男とともに人気アイドルになっていった。彼がブラウン管に登場してから1年2ヵ月後に、満を持して出されたのが『スニーカーぶる~す』である。

一方、浅田美代子は初めてブラウン管に登場してから、わずか2ヵ月1週間で2位、翌週には1位。どちらが凄い記録かと問われれば、私は軍配を上げるのを躊躇わない。

彼女はこの曲で、この年の、第15回日本レコード大賞・新人賞と、第4回日本歌謡大賞・新人賞を受賞している。けれども、NHK紅白歌合戦には縁がなかったようだ。

 

「赤い風船」 安井かずみ:作詞  筒美京平:作・編曲  浅田美代子:歌


あの娘(こ)はどこの娘 こんな夕暮れ

しっかり握りしめた 赤い風船よ

なぜだかこの手を するりとぬけた

小さな夢がしぼむ どこか遠い空

こんな時 誰かがほら

もうじきあの あの人が

来てくれる きっとまた 小さな夢もって

 

この娘はどこの娘 もう陽が暮れる

隣の屋根に飛んだ 赤い風船よ

なぜだかこの手に 涙がひかる

しょんぼりよその家に 灯ともる頃

こんな時 誰かがほら

もうじきあの あの人が

来てくれる 優しい 歌うたってくれる

 

あの人が 優しい 歌うたってくれる

 

今聴いても、どこかワクワクするような、それでいて癒されるようなイントロ、そして浅田の、たどたどしいが柔らかい声質に合わせたメロディーは歌謡界の楽聖、筒美京平の世界である。まさに、ザ・ヒット・メーカー、「スニーカーぶる~す」もこの人が手がけている。

そして、安井かずみは、まるで童謡のような風景の歌詞を書いた。
この詞の特徴は「あの娘」「どこの娘」「こんな夕暮れ」「この手」「どこか」「こんな時」「あの人」「この娘」と、こそあど言葉、指示語を多用しているところにある。

それは、聴き手に、親しげな距離感を持たせるためだろうか。1番で「あの娘」としていたものを、2番に入ると「この娘」とぐっと引き寄せている。また「なぜだかこの手を(に)」は、状況の描写であれば「なぜだかその手を(に)」となるはずだが、意識的に作者の側に近い指示語を使って、聴き手を呼び込んでいるように思えるのだ。

私は、高校時代7キロくらいの道のりを自転車通学していたが、帰り道、上空をトンビが旋回するように飛んでいる夕暮れの中を走っている時、よくこの曲が頭の中に浮かんできた。そして、まあいろいろな屈託もあるが、そのうちに何とか道は開けるのではないかと、そんな思いになっていた。

この後、浅田美代子はアイドルとしてレコードを出し続けたのは、昭和50年の10月までだった。それは2年半の短い期間だったが、その中には『わたしの宵待草』『虹の架け橋』『じゃあまたね』など、私にとって、大変思い出深い曲がいくつかある。

アイドルの彼女のファンになったことはなかったけれど、高三、卒業、上京の時期に流れていた歌声は、何かの形で私を支えてくれていた。

これはまったくの蛇足だが、私が最も敬愛する作家、井伏鱒二の誕生日は明治31年2月15日、そして浅田美代子が昭和31年2月15日。私は、彼女のことを羨ましいなあと思うことがある。

 

 

第500回:流行り歌に寄せて No.295「天使も夢みる」~昭和48年(1973年)2月25日リリース


このコラムの感想を書く

 

modoru

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



金井 和宏
(かない・かずひろ)
著者にメールを送る

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice
---
2024年11月30日、「BAR Lismore」閉店しました。


バックナンバー

第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
までのバックナンバー


第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
までのバックナンバー


第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
までのバックナンバー


第151回:私の蘇格蘭紀行(12)~
第200回:流行り歌に寄せてNo.12
までのバックナンバー


第201回:流行り歌に寄せてNo.13~
第250回:流行り歌に寄せて No.60
までのバックナンバー


第251回:流行り歌に寄せて No.61~
第300回:流行り歌に寄せて No.105
までのバックナンバー


第301回:流行り歌に寄せて No.106~
第350回:流行り歌に寄せて No.155
までのバックナンバー

第351回:流行り歌に寄せて No.156~
第400回:流行り歌に寄せて No.200
までのバックナンバー

第401回:流行り歌に寄せて No.201~
第450回:流行り歌に寄せて No.250
までのバックナンバー



第451回:流行り歌に寄せて No.251
「また逢う日まで」~昭和46年(1971年)3月5日リリース

第452回:流行り歌に寄せて No.252
「わたしの城下町」~昭和46年(1971年)04月25日リリース

第453回:流行り歌に寄せて No.253
「ちょっと番外編〜トランジスタラジオ購入」~昭和46年(1971年)

第454回:流行り歌に寄せて No.254
「雨のバラード」~昭和46年(1971年)4月1日リリース

第456回:流行り歌に寄せて No.256
「悪魔がにくい」~昭和46年(1971年)8月10日リリース

第457回:流行り歌に寄せて No.257
「愛のくらし」~昭和46年(1971年)5月21日リリース

第458回:流行り歌に寄せて No.258
「なのにあなたは京都へゆくの」~昭和46年(1971年)9月5日リリース

第460回:流行り歌に寄せて No.260
「水色の恋」~昭和46年(1971年)10月1日リリース

第461回:流行り歌に寄せて No.261
「夜が明けて」~昭和46年(1971年)10月21日リリース

第462回:流行り歌に寄せて No.262
「別れの朝」~昭和46年(1971年)10月25日リリース

第463回:流行り歌に寄せて No.263
「君をのせて」~昭和46年(1971年)11月1日リリース

第464回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕!!
第465回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕~予選プール前半戦を終えて
第466回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕〜予選プール戦終了 決勝トーナメントへ
第467回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 開幕~そしてファイナルへ
第468回:緊急掲載 ラグビー・ワールド・カップ 2023 閉幕~南アフリカのことを、少し
第469回:流行り歌に寄せて No.264
「子連れ狼」~昭和46年(1971年)12月25日リリース

第471回:流行り歌に寄せて No.266
「結婚しようよ」~昭和47年(1972年)1月21日リリース
第472回:流行り歌に寄せて No.267
「夜明けの停車場」~昭和47年(1972年)1月25日リリース

第473回:流行り歌に寄せて No.268
「さよならをするために」~昭和47年(1972年)2月10日リリース

第474回:流行り歌に寄せて No.269
「太陽がくれた季節」~昭和47年(1972年)2月25日リリース

第475回:流行り歌に寄せて No.270
「許されない愛」~昭和47年(1972年)3月10日リリース

第476回:流行り歌に寄せて No.271
「ふりむかないで」~昭和47年(1972年)4月10日リリース

第477回:流行り歌に寄せて No.272
「赤色エレジー」~昭和47年(1972年)4月25日リリース

第478回:流行り歌に寄せて No.273
「恋の町札幌」~昭和47年(1972年)5月リリース

第479回:流行り歌に寄せて No.274
「どうにもとまらない」~昭和47年(1972年)6月5日リリース

第480回:流行り歌に寄せて No.275
「芽ばえ」~昭和47年(1972年)6月5日リリース

第481回:流行り歌に寄せて No.276
「雨」~昭和47年(1972年)5月25日リリース

第482回:流行り歌に寄せて No.277
「女のみち」~昭和47年(1972年)5月10日リリース

第483回:流行り歌に寄せて No.278
「学生街の喫茶店」~昭和47年(1972年)6月20日リリース

第484回:流行り歌に寄せて No.279
「せんせい」~昭和47年(1972年)7月1日リリース
第485回:流行り歌に寄せて No.280
「耳をすましてごらん」〜昭和47年(1972年)7月21日リリース

第486回:流行り歌に寄せて No.281
「旅の宿」~昭和47年(1972年)7月1日リリース

第487回:流行り歌に寄せて No.282
「折鶴」~昭和47年(1972年)8月25日リリース

第488回:流行り歌に寄せて No.283
「男の子女の子」~昭和47年(1972年)8月1日リリース

第489回:流行り歌に寄せて No.284
「青いリンゴ」~昭和46年(1971年)8月10日リリース

第490回:流行り歌に寄せて No.285
「恋する季節」~昭和47年(1972年)3月25日リリース

第491回:流行り歌に寄せて No.286
「喝 采」~昭和47年(1972年)9月10日リリース
第492回:流行り歌に寄せて No.287
「バス・ストップ」~昭和47年(1972年)9月1日リリース

第493回:流行り歌に寄せて No.288
「おまえに」~昭和47年(1972年)10月1日リリース

第494回:流行り歌に寄せて No.289
「ひなげしの花」~昭和47年(1972年)11月25日リリース

第495回:流行り歌に寄せて No.290
「怨み節」~昭和47年(1972年)12月1日リリース

第496回:流行り歌に寄せて No.291
「なみだ恋」~昭和48年(1973年)2月5日リリース

第497回:流行り歌に寄せて No.292
「ジョニィへの伝言」~昭和48年(1973年)3月10日リリース

第498回:流行り歌に寄せて No.293
「他人の関係」~昭和48年(1973年)3月21日リリース


■更新予定日:隔週木曜日