第499回:流行り歌に寄せて No.294 「赤い風船」~昭和48年(1973年)4月21日リリース
昭和40年(1965年)7月4日、TBSの東芝日曜劇場の単発テレビドラマとしてスタートした『時間ですよ』。その後、第1シリーズが昭和45年2月4日~8月26日(全30回)、第2シリーズが昭和46年7月21日~昭和47年3月15日(全35回)、第3シリーズが昭和48年2月14日~9月5日(全30回)と、こちらは水曜日に放映された。
ドラマの中で、堺正章、悠木千帆とともに「トリオ・ザ・銭湯」を組む「松の湯」の女性従業員。第1シリーズの川口晶、第2シリーズの西真澄に続き、第3シリーズに配役されたのが浅田美代子で、彼女にとっては芸能界デビュー作であった。
そして『赤い風船』はこのドラマの挿入歌であり、彼女のデビュー・シングルとして、EPIC/CBSソニーから発売された。
キャッチ・フレーズ「ソニー・エンジェル」、この頃の浅田美代子は、本当に可愛かった。私と同学年(当時は高校3年生。但し、彼女は芸能生活に入ったため、東京女学館高校を中退している)だが、自分の同級生にこんな子がいてくれたら、と多くの男子は思ったりしていたのだ。
歌を歌っている表情が、どこかおどおどしているようで、これがまた男の子の心をくすぐるのだった。ご存知の通り、彼女は音程を取るのがあまり得意ではなく、実際に歌番組でも最後の音を大きく外したりする。その度に、何か自分が音程を間違えてしまったような恥ずかしさを感じてしまう。
この『赤い風船』は、オリコンの週間チャートで、いきなり2位で登場し、翌週には1位を獲得するという、とんでもない記録を作っている。この記録は近藤真彦が、昭和55年12月に『スニーカーぶる~す』でデビュー曲初登場1位という記録ができるまで破られなかった…、
とは言うものの、近藤真彦がTBSのテレビドラマ『3年B組金八先生』の生徒役でデビューしたのが昭和54年10月。このドラマが大ブームを起こし、田原俊彦、野村義男とともに人気アイドルになっていった。彼がブラウン管に登場してから1年2ヵ月後に、満を持して出されたのが『スニーカーぶる~す』である。
一方、浅田美代子は初めてブラウン管に登場してから、わずか2ヵ月1週間で2位、翌週には1位。どちらが凄い記録かと問われれば、私は軍配を上げるのを躊躇わない。
彼女はこの曲で、この年の、第15回日本レコード大賞・新人賞と、第4回日本歌謡大賞・新人賞を受賞している。けれども、NHK紅白歌合戦には縁がなかったようだ。
「赤い風船」 安井かずみ:作詞 筒美京平:作・編曲 浅田美代子:歌
あの娘(こ)はどこの娘 こんな夕暮れ
しっかり握りしめた 赤い風船よ
なぜだかこの手を するりとぬけた
小さな夢がしぼむ どこか遠い空
こんな時 誰かがほら
もうじきあの あの人が
来てくれる きっとまた 小さな夢もって
この娘はどこの娘 もう陽が暮れる
隣の屋根に飛んだ 赤い風船よ
なぜだかこの手に 涙がひかる
しょんぼりよその家に 灯ともる頃
こんな時 誰かがほら
もうじきあの あの人が
来てくれる 優しい 歌うたってくれる
あの人が 優しい 歌うたってくれる
今聴いても、どこかワクワクするような、それでいて癒されるようなイントロ、そして浅田の、たどたどしいが柔らかい声質に合わせたメロディーは歌謡界の楽聖、筒美京平の世界である。まさに、ザ・ヒット・メーカー、「スニーカーぶる~す」もこの人が手がけている。
そして、安井かずみは、まるで童謡のような風景の歌詞を書いた。 この詞の特徴は「あの娘」「どこの娘」「こんな夕暮れ」「この手」「どこか」「こんな時」「あの人」「この娘」と、こそあど言葉、指示語を多用しているところにある。
それは、聴き手に、親しげな距離感を持たせるためだろうか。1番で「あの娘」としていたものを、2番に入ると「この娘」とぐっと引き寄せている。また「なぜだかこの手を(に)」は、状況の描写であれば「なぜだかその手を(に)」となるはずだが、意識的に作者の側に近い指示語を使って、聴き手を呼び込んでいるように思えるのだ。
私は、高校時代7キロくらいの道のりを自転車通学していたが、帰り道、上空をトンビが旋回するように飛んでいる夕暮れの中を走っている時、よくこの曲が頭の中に浮かんできた。そして、まあいろいろな屈託もあるが、そのうちに何とか道は開けるのではないかと、そんな思いになっていた。
この後、浅田美代子はアイドルとしてレコードを出し続けたのは、昭和50年の10月までだった。それは2年半の短い期間だったが、その中には『わたしの宵待草』『虹の架け橋』『じゃあまたね』など、私にとって、大変思い出深い曲がいくつかある。
アイドルの彼女のファンになったことはなかったけれど、高三、卒業、上京の時期に流れていた歌声は、何かの形で私を支えてくれていた。
これはまったくの蛇足だが、私が最も敬愛する作家、井伏鱒二の誕生日は明治31年2月15日、そして浅田美代子が昭和31年2月15日。私は、彼女のことを羨ましいなあと思うことがある。
第500回:流行り歌に寄せて No.295「天使も夢みる」~昭和48年(1973年)2月25日リリース
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