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■店主の分け前〜バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第315回:流行り歌に寄せて No.120 「夏の日の想い出」〜昭和40年(1965年)

更新日2016/11/10

美しい歌い手さんである。鼻筋の通った、エキゾチックで彫りの深い顔立ち、目には情熱的な光が宿っている。ほぼ50年振りにこの人のお顔をしっかり拝見したが、今までこんなにきれいな方だとは思っていなかった。

国中がほぼオリンピック一色だった昭和39年が終わり、私たち子どもでさえ半ば惚けたような状態で迎えた昭和40年。国の威信をかけた一大イベントが終わってしまい、あまり世間の動向とは関係なく遊んでいた小学3年生の私も、何か祭りの後のような寂寞感を感じていたことは覚えている。

そんな中で、いつのまにかブラウン管の中に登場していた、長い黒髪にハイビスカスの花一輪を挿した女性の姿、そして彼女の歌う歌には、嗅いではいけないような官能的な大人の匂いがあって、どことなく私の心を落ち着きないものにした。

日野てる子は愛媛県の松山市で、太平洋戦争の終わるひと月ほど前の昭和20年7月13日に生まれた。17歳のときに全日本ハワイアンコンテストで優勝をしたのをきっかけに昭和38年上京し、日本のハワイアンの草分け的な存在であるバッキー白片らに本格的な指導を受ける。

そして、翌昭和39年、いすれもハワイアンのスタンダードである『カイマナ・ヒラ/南国の夜』で日本グラモフォンからレコード・デビューを果たす。その後コンスタントにレコードを出し続け、昭和40年1月、7枚目のシングルになったのが『ワン・レニー・ナイト・イン・トーキョー/夏の日の想い出』だった。

表記の通り、当初はA面とB面が逆になっていたが『夏の日の想い出』の方で火がついたので、再販からはそちらがA面になっている。100万枚を超えるミリオン・セラーになったという。

余談だが、私は『ワン・レニー・ナイト・イン・トーキョー』(鈴木道明:作詞・作曲)という曲が殊の外好きで、越路吹雪、西田佐知子、ブレンダ・リーなど何人もの歌唱は聴いているが、日野てる子の歌声では未だにない。一度は拝聴したいと思っている。


「夏の日の想い出」  鈴木道明:作詞・作曲  日野てる子:歌

1.
きれいな月が 海を照らし

たたずむ影は 砂にうかび

あなたの熱い くちづけが

つめたい頬に よみがえるの

夏の想い出 恋しくて

ただひとりだけで 来てみたのよ


冬の浜辺は 淋しくて

寄せる波だけが 騒いでた

2.
夜の渚に 鳴く鳥が

私の影を かすめて行く

はるか彼方の 灯が

私の胸を ゆするのよ

夏の想い出 恋しくて

ただひとりだけで 来てみたのよ

冬の浜辺は 淋しくて

寄せる波だけが 騒いでた


冬の浜辺は 淋しくて

寄せる波だけが 騒いでた


作詞、作曲の鈴木道明は大正9年11月12日東京生まれ。スポーツマンであり、早稲田大学在学中は競泳の選手として活躍し、昭和15年、幻の東京オリンピックとなった大会に代表として出場する予定であったほどだった。

大学卒業後、日本陸軍の飛行戦隊に入営し、戦闘機乗りとして出征した経験がある。戦後TBSラジオに入社し、ディレクター、プロデューサーとして手腕を発揮していた。その傍ら、この日野の曲の他にも、西田佐知子や和田弘とマヒナスターズなどにも曲を提供している人で、現在、もうすぐ96歳だがご存命である。

さて、日野てる子の方は昭和44年に作・編曲家の一ノ瀬義孝と結婚し、昭和45年から7年ほど、1男1女の子育てなどのため一時引退していたが、昭和53年には現役復帰し活動を再開した。

しかし、平成15年12月、肺がんとの診断を受け入退院を繰り返すことになるが、この間も歌手活動をなんとか続けていたものの、平成19年12月完全に休止し、翌平成20年9月9日、家族に看取られながら息を引き取った。享年63歳、この年の第50回レコード大賞で特別功労賞を受けている。

彼女の二人の子どもたち、長女の一ノ瀬トニカ、長男の一ノ瀬響は、ともに東京藝術大学を出て、現代音楽の世界で大いに活躍している。闘病中だった日野も我が子の姿に、ずいぶんと勇気付けられたことだろう。

-…つづく

 

 

第316回:流行り歌に寄せて No.121 「さよならはダンスの後に」〜昭和40年(1965年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


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