■ダンス・ウィズ・キッズ~親として育つために私が考えたこと

井上 香
(いのうえ・かおり)


神戸生まれ。大阪のベッドタウン育ち。シンガポール、ニューヨーク、サンフランシスコ郊外シリコンバレーと流れて、湘南の地にやっと落ち着く。人間2女、犬1雄の母。モットーは「充実した楽しい人生をのうのうと生きよう」!


第23回:ニューヨークの惨事について私たちができること
第24回:相手の立場に…

第25回:「罪」から子供を守る

第26回:子供に伝える愛の言葉
第27回:子供の自立。親の工夫

第28回:ふりかかる危険と自らの責任

第29回:子供はいつ大人になるのか? ~その1

第30回:子供はいつ大人になるのか? ~その2

第31回:子供はいつ大人になるのか? ~その3

第32回:Point of No Return
第33回:かみさまは見えない
第34回:ああ、反抗期!
第35回:日本のおじさんは子供に優しい??
第36回:子供にわいろを贈る
第37回:面罵された時の対処法
第38回:子供を叱るのは難しい!
第39回:トイレへの長き道のり
第40回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その1
第41回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その2
第42回:私はアメリカの病院が好きだ! ~その3
第43回:私はアメリカの病院が好きだ
! ~その4

 
第44回:駐車することさえ考えるな!

更新日2002/09/05


私の家のすぐ隣に雑貨屋さんがある。雑誌の湘南特集やガイドブックには必ずでている輸入雑貨の店だ。特に若い女の子には人気がある。それはいい。難点はその店に駐車場がないことである。車でそこにやってくる人のうちには、なぜか店の前ではなく、我が家の駐車場の真ん前に車を路駐する人が少なからずいるのだ。我が家の駐車場はどう見ても駐車場である。時には我が家の車が停まってさえいる。なのに、なのに、その真ん前に車を停める人がいるのだ。

だんなは激怒し、「卵投げてやる!」と言う。私はオトナなので、そうは思わない。「駐車禁止」の看板を立てようか、とも思う。でも、それじゃあ、ちょっとつまらない。

アメリカでも個人の家の駐車場の前に「Do not park」という看板を貼っている家があった。ある日、そういう看板の中に秀逸なものを見つけた。いわく、「Do not even think about parking」。日本語で言うと「駐車しようかな、と考えるのもダメ!!」という感じ。ただ、駐車禁止というより、その看板をはった人のちゃめっけが感じられて、それと同時にそこまで言われてその真ん前に駐車する人はいないだろう。私の大好きな看板のひとつである。「それにしようよ」と言ってみると、だんなは「日本でそういう英語の看板はってどうすんだよ」と言う。ごもっとも。と、いうことで、いまだ何の看板も立てていない。

思い出してみると、アメリカのそういう看板には日本では見られないようなものがたくさんあった。サンフランシスコにプレシディオという基地がある。映画にもよく登場するので御存じの方もいるかもしれない。そこのゲートには「Gate closed from sunset to sunrise」というのがあった。要は「この門は日没から日の出まで閉まります」というわけである。きっちり時間など書いていないが、読む方も「ああ、暗い間はしまっているわけね」と要点は明解に伝わって来る。

ニューヨークで最初に住んだのは、ニュージャージーのハドソン川沿いのアパートだった。その川にも看板は立っていて、いわく「Water and fish may be hazardous」。「ここの水と魚は汚染されているかも知れません」。だから、泳ぐな、とか魚を釣るな、とかそういうことは書いていなかった。注意はしましたよ、後は自分の判断でどうにでもして下さい、ということだろう。そういうのを見ると、アメリカという訴訟社会の中で、個人の判断にゆだねるというそういう健全な部分があるのだな、と感心した。

ヨセミテという国立公園に行った時も、山の頂上付近の断がい絶壁の周りには柵さえなかった。下を恐る恐る見下ろしてみると、大きなホテルが足の真下に5cm四方くらいに見える。落ちようと思えば難無く落ちることができる。そして、そこから落ちれば間違いなく死ぬ。でも、そこには「危険」だの、「崖の端に近付くな」だのという不粋な看板の類いは一つもなかった。

「At your own risk」という表現が英語にはある。「リスクは自分で負え」ということだ。基本的にアメリカではこの精神が生きている。だから、汚染された水でも泳ぎたければ泳げ、魚を食べたければ食べろ。でも、その後どうなっても知らないよ。そのリスクは自分で負って下さい、ということだ。海でも「水深深し」とか「海流が急」だとかいう表示があるところでも、「泳ぐな」とは書いていない。そこで、泳げる人もいるだろうし、泳げない人もいる。そういう当たり前のことを私達は忘れているような気がする。

「You can park here at your own risk」(ここに停めてもいいけど、後はどうなっても知らないよーだ!)というのを上手く日本語の看板にできないかしら。それができれば、後は我が家の駐車場の前に停める車に、だんなの言う通り卵を投げ付けられるのにね。

 

→ 第45回:しつけとけんかの微妙なちがい