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■鐘を鳴らそう 鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから~音羽信の心に触れた歌たち

更新日2025/08/14




鐘を鳴らそう

鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから


~音羽信の心に触れた歌たち~


音羽 信



第7回: あなただけを(Somebody to love)

    by ダービー・スリック、ジェファーソン・エアプレイン
    
    アルバム『Surrealistic Pillow』より

本当だと思ってたことが

何もかも嘘だとわかっちゃって

面白かったことだって

みんなどうしようもないくらい

つまんなくなっちまった今

 

愛せる誰かが欲しくない?

愛せる誰かがいるよね。

あんただって

愛せる誰かを愛したいよね。

だったら

愛せる誰かを探せばいいじゃん

愛せる

誰かを

 

庭に咲いてた花が

そう、みんな枯れちまってさあ

そんで、あんたのオツムが、反対に

マッカッカになっちまったりしたらさあ

 

愛せる誰かが欲しくない?

愛せる誰かがいるよね。

あんただって

愛せる誰かを愛したいよね。

だったら

愛せる誰かを見つけなくっちゃ。

 

あんたの目ってさあ

あたいにはわかるんだけど

なんか

カレシそっくりじゃん。

なのにさ

あんたって、なんていうか

自分のこと全然わかってないじゃん

とか思うわけよ。

 

愛せる誰かが欲しくない?

愛せる誰かがいるよね。

あんただって

愛せる誰かを愛したいよね。

だったら

愛せる誰かを探せばいいじゃん

 

まあまあ、涙なんか流しちゃって

流れた涙が胸まで流れ落ちてるじゃない。

無理もないよね

だって、あんたの友達とやらがみんな

あんたを

お客さま扱いするんだもんね。

 

愛せる誰かが欲しくない?

愛せる誰かがいるよね。

あんただって

愛せる誰かを愛したいよね。

だったら

愛せる誰かを探せばいいじゃん

 

Somebody to Love - Darby Slick, Jefferson Airplane

《Surrealistic Pillow》(1967)

 

晴れ渡ったサンフランシスコの空を縦横無尽に飛び回った奇妙な名前の飛行機、ジェファーソン・エアプレイン。見上げれば空から降り注いできたグレース・スリックの歌声が空いっぱいに鳴り響いた1967年。
ビートルズが、『サージェント・ペッパー~』をリリースしたその年、ジミ・ヘンドリックスが「わるいな、いま空にキスしてる最中なんで~」と、とんでもないギターを弾きながら歌い、ドアーズが「ハートに火をつけて」と叫び、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナがやたらと目についた年。

なんと自由で気ままな、というか派手な時代だったのだろう。何も私自身がそうだったとういうわけじゃない。私自身は、あるいは私の周りだって、現実的にはいろんな意味で、なんだか八方塞がりだったかもしれない、でもロックは元気だった。学生運動の嵐も世界中で吹き荒れていた。それがあっという間に消えてしまうなんて誰が想像しただろう。

それはともかく、突貫ベース・サングラス小僧ジャック・キャサディのベースと、居合斬りギター侍ヨーマ・コウコネンのギター、そして何よりグレース・スリックのパワフルなヴォーカルが前へ前へと突き進む『あなただけを』で、サンフランシスコから離陸した飛行機ジェファーソン号は、たちまち全米の、そして世界の空を飛び回る飛行機となった。

その頃のサンフランシスコのバンドが面白かったのは、グレイトフルデッドもそうだけれども、バンドメンバーが別のバンド名でテイストが違う音楽を自由に演奏したりしていたことだ。ジェファーソンも、時々、デヴィッド・クロスビーが紛れ込んだりしていたが、ベースのキャサディと、ギターのヨーマ・コウコネンが『ホット・ツナ』という粋なバンドを組んでクールな演奏をしていたし、そこでは、その頃のロックシーンでは珍しく、パパ・ジョンという、まるでみんなのお父さんかおじいさん(その頃はそう見えたが実際はそれほどではなかっただろう)のような年季の入ったスリムな黒人がめっぽうスリリングなフィドロを弾いていた。

スーパーバンドとなったジェファーソン・エアプレインはその後、ジェファーソン・スターシップと名前を変えたり、分裂したり、また再編成したりなどを繰り返していたが、1999年、21世紀を目前にして、オリジナルメンバーが中心となって再生ジェファーソン・スターシップとして活動をし始めた。

そしてその年、私から見れば実に不思議なことが起きた。ある日、確か銀座からどこかへ向かうタクシーに乗っていた私は、タクシーのラジオから『あなただけを』が流れたのを耳にした。ボリュームを大きくしてもらうと、どうやらジェファーソンが来日していて、その日の夜に六本木のライブハウスで彼らが演奏するらしい。慌てた私は、すぐに行き先を変えてチケットを買いに六本木に向かった。もしかしたらもう席はないかもしれない。でも後ろの方でもいいから、なんとかチケットを手に入れて、一眼、彼らの演奏を見たいと思った。

ところが行ってみて拍子抜けした。初来日の彼らを見るために長い行列ができていると思ったのに、誰もいない。本当にジェファーソンが演奏するのかと聞けば、そうだと言う。座席は指定ではなかったが、とりあえずチケットを手に入れた私は、前の方で見るため、演奏時間の1時間以上も前に会場に行った。が、行って見て驚いた。150~200人くらいは入れると思う会場に、客が数人しかいなかった。拍子抜けというより、なんだか狐につままれたような気分だった。なんせ、ロックムーヴメントの幕開けの一翼を担った、あの伝説のスーパーバンドのライブなのだ。なのに客が数えるほどしか、というか、まだ4、5人しかいない。あんなにラジオで宣伝していたのに、一体全体どうしたんだろう、と思いながら私は、仕方がないので、会場の後ろの調整卓のところにいた若いアメリカ人のミキサーのところに行って世間話をすることにした。考えてみれば、ジャファーソンのクルーとの話なんて、めったにできるもんじゃない。

どうしてお客さんがいないんだろう? と話しかけると、彼も「こんなことは初めてだ」と言う。そこでサンフランシスコの最近の様子などを聞いて、さらに「パパジョンやグレース・スリックは元気かなぁ?」と言うと、パパ・ジョンもグレースもすごく元気、パパはこの前、一緒に演奏したけど相変わらず素敵だった、とのこと。それにしてもどうして?

いよいよ開演時間が迫ってきたが、客が10人程度しかいない。いくら何でも、と思ったが、バンドが登場した瞬間にそのことはもう忘れることにした。大好きなジャック・キャサディが、サングラスをかけてバリンバリンとベースを弾き始める。ポール・カントナーも、マーティン・ベリンもいる。ヴォーカルは若くて美しい、まるでギリシャ彫刻のような女性で、声も綺麗で、もちろんグレース・スリックのような迫力はないけれども、それでもちゃんとしっかり歌っていた。演奏は実にタイトでカラフルで、ジェファーソンそのもの。

最後にはジャック・キャサディが、客がいないのを面白がって、客席にまで降りてきて椅子に体を預け、客席のかわい子ちゃんの前で、ゆったりとベースを弾く。
演奏が終わって、みんな客席に降りてきたので、ポール・カントナーとも話すことができた。私の会社が、エリアス・クリエイティヴ・スターシップという名前だと言うと、ポール・カントナーは面白がって、今度遊びにおいでよと言っていたが、そんな風にジェファーソンのメンバーと話ができるなんて、考えてみれば実にラッキー。

それにしても、と思わざるを得なかった。巷では、聞いたこともないような日本のバンドが、武道館をいっぱいにしたり、ドームツアーをやったりしているのに、東京のど真ん中での伝説のスーパーバンド、ジェファーソン・スターシップのライブの客が、十数人しかいなくて、会場がガラ空きとは……
でも、オリジナルメンバーがCDにサインしてくれたし、ジャック・キャサディはサイン入りのブロマイド写真を嬉しそうに配っていたし、まあいいか、と、とりあえずそう思うことにした不思議な夜だった。

 

“Somebody to Love”by Jefferson Airplane
『Surrealistic Pillow』(1967)

https://www.youtube.com/watch?v=SrGSt5eDt9o

No.7-01
二枚目のアルバム『シュールリアリスティック・ピロー』(1967)

No.7-02
オリジナル写真
中央の女性がグレイス・スリック
“Somebody to Love”は弟ダービーの作詞作曲 
ジェファーソン・エアプレイン


…つづく

 

 

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        アルバム『ブラザーズ・イン・アームス』より

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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