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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第318回:森と牧場の季節

更新日2013/07/04



私たちの家は、家というよりバンガロー、小屋ですが、公道から250メートルばかり緩やかな坂道の私道を登ったところにあります。緩やかな坂道の両側は、ピニヨンパインという背丈が10メートルくらいにしかならない松と、乾燥した岩場に強い杉の一種で、ジュニパーという木の2種類の木しか育たない森です。

大自然の雄大さとは言えませんが、一体全体、この奥に家があり、人が住んでいるのか…とチラット思わせてくれます。

この松、ピニヨンパインがどういう風の吹き回しか、去年の秋から松傘を大量に付けました。熟れた松傘が木の下を埋め尽くしたのです。その松傘の中に小さな豆粒のような実が隠されており、それがパインナッツとして、とても高級な食材なのです。

公道脇に住んでいるおばさんは、週に一度、スーパーに買い物に町に降りるたびに、集めたパインナッツをボーリング場でボーリング仲間に売ってきます。それが、今日は200何ドルになったとか、結構良いお金になり、スーパーでの買い物を楽にカバーする…とか誘惑的なことを言うのです。

私たちの森には、それこそ数え切れないほどのピニヨンパインの木があり、無限大のパインナッツが落ちていますから、これは聞き捨てならない貴重な情報です。

私も早速、松傘を集め、一枚一枚、乾燥した茶色の花びらのような舌を剥いて見ました。ところが、地面に落ちているような松傘はすでに実を誰かに食べられたカスなのです。道理で昨年からリス、シマリス(チップモンク)、ウサギが大繁殖しているはずです。これだけ無限大の食べ物があれば、それを食べている動物も、ソレッとばかりに増えるはずです。

大発生と呼びたくなるほどです。窓の外を何気なく見て、試しに何匹のリス、チップモンク、ウサギが目に入るか数えてみたところ、1分間に26匹でした。

拾うだけでお金になる幻想は捨てなければなりませんでしたが、そのおばさんに教えてもらった通りに、木の下に大きなビニールシート敷き詰め、長い棒で松傘を叩き落す戦術でやってみました。なるほどこれなら、リスやウサギに荒らされていない、松傘を採ることができます。

ところが、その松傘を無理に開き、奥にひっそりと静まっている松の実を取り出すのは意外と大変で、しかも松傘がこんなに松脂を含んでいるとは知りませんでした。 おかげて手は松脂だらけでベトベトになり、小さな瓶に半分くらい収穫するのに2時間はかかったかしら。

うちの仙人は、諦めが良く、「こりゃ、リス、ウサギに残しておいてやれや」などと言って、店で買ったピーナッツをポリポリ食べているのです。森で収穫し、生きていくのには、かなりの執念がなければなりません。

牧場でも春は出産シーズンで、孔牛と呼ぶ前の、赤ちゃん牛がドット増えました。一種のベビーブームのようです。母親牛が孔子を産む時、この広々とした高原に響き渡れ…とばかり、すざまじい悲鳴を上げます。まさに誰かが牛に拷問を加えているかのような泣き声なのです。

余程の難産でもない限り、放牧中の牛は自然出産です。翌日フェンス越しに見に行くと、細い足をした、まだヨロヨロと歩く赤ちゃん牛が母親のオッパイを探っていたりします。

そんな孔牛がポキポキした歩き方で、何十頭もお母さん牛の後を付いて行っています。 向かいに住む若いカップルは、孔牛が逃げないよう、広大な牧場をぐるりと囲む新しいフェンスを作りました。

この孔牛が乳離れする頃、近所の牧場主たちは、盛大な牛追いを開始し、山に牛を追い立てていきます。それが終わると、もうすぐ夏です。

私たちが犬を飼っていないせいでしょう、野生の七面鳥も雛を従えて毎朝行進してきます。親鳥は大きな丸い身体に似合わない細い首、その先っチョにちょこんと付いているこれまた小さな頭をヒョイト持ち上げ、周囲を見渡し、外敵がいないか監視し、雛はテンデバラバラに親鳥の周りで安心しきって餌をあさっています。

朝早くからサエズっていた小鳥も、陽が強く射し始める昼前には、どこか日陰で休むのでしょう、ジリジリ焼けるような暑さともに、静まりかえった長い午後が訪れます。

 

 

第319回:握手とお辞儀とハグと…

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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