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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第907回:アメリカ的弁護士社会

更新日2025/07/10 

 

アメリカのインターステイト・ハイウェイ沿いにやっと広告規制の効果が出始め、大きな立て看板が少なくなりました。まだ州によっては規制が緩いところもあるようですが、大きな街に入るとコントロールできないのでしょう、それともハイウェイ沿いの私有地の権利が絡んでいるのでしょうか、まだとてつもなく大きな看板が目立ちます。

そんな看板にいかにも正直をそのままを絵に描いたようなとてつもなく大写しの顔写真、上半身の写真が貼られているのが目立ちます。交通事故専門の弁護士の広告です。

テレビのコマーシャルでも(私たちが観るニュースの時間帯ですが)圧倒的に多いのは薬の宣伝と交通事故弁護士の宣伝です。私たちはあなたに代わって事故処理をしてあげます。即電話してください、誰々さんは(テレビに本人が登場するのがワンパターンになっています)3億円勝ち取りました。私は6,000万円受け取りました。と、やっているのです。

これらは事故の被害者で、加害者(保険会社ですが)が破損した車の代金だけでなく、怪我の補償がとてつもなく大きくなり、微妙な鞭打ち症などで、死ぬまで症状が残る、残る可能性がある?場合は、今の仕事を引退まで続けた総額に加えて、健全な家庭生活を送れなくなった保証などなどが加算されます。

通常、交通事故弁護士はアウンの呼吸で通じているお医者さんとつるんでいますから、どのような診断書でも書いてくれるのだそうです。そこで登場したのが、弁護士であり、かつ医者の資格も持っている医療交通事故弁護士です。私に連絡してくれればすべて私が処理してあげます、というわけです。

アメリカ人の訴訟好きは有名です。そしてまた弁護士の数も半端ではありません。日本のように弁護士の資格を得るには司法試験という昔中国で行っていた“科挙”のような最難関の試験をパスし、それから2、3年のトレーニングを経なければならない…というようなことはありません。弁護士資格はあくまで州単位が基本です。大学で法科を出て、州のバーテストを通れば即弁護士誕生です。それからは実力の世界で、大手の弁護士事務所(100人もの弁護士を抱える事務所は珍しくありません)に入り、揉まれて実務を学んでいくことのようです。
 
私の従兄にも成功した弁護士がいます。彼は国際的な企業弁護士ですが、文字通り世界中を飛び回っています(当然ですが、ファーストクラスで…)。彼など、我が親族郎党では出世頭の大金持ちです。かと思うと、私のヨット時代の友人はもっぱら国選弁護人、とても弁護士を雇うお金のない人専門の民事、刑事弁護を引き受けているタイプの弁護士もいます。この方が珍しい存在でしょうね。

どうも、弁護士の勝ち組というのは黒を白と言いくるめる能力の高さ、そしてこの訴訟はお金になる、相手から思いっ切りフンダくれるかどうかを見極める感覚、嗅覚があるかないかによるらしいのです。
 
交通事故専門の弁護士、医療機関相手の弁護士は、どこでどのように相手の急所を突き、お金を取るか、訴訟に勝つかのノウハウをしっかりと掴んでいるのです。

何でもかんでもアメリカで起こったことはすぐに日本に飛び火すると言われていますが、訴訟ゲームだけは、全く生産性のないエゴの争いですから、日本で流行らないで欲しいと願っています。
 
そう云えば、数年前ハイウェイで追突事故に遭い、私たちのホンダが全損したことがあります。大中古車ではあるし、私たちに怪我がなかったので、大中古のホンダの査定価格を払ってもらい、それでヨシと落着したことがあります。その顛末を聞いた私の友人たち、親類から、「私に連絡してくれれば、とても良い弁護士を紹介してあげたのに! アメリカは訴訟社会なんだから、そのシステムの中で生きている以上、アメリカ的対処をするべきだった。事故を起こした相手個人にではなく、彼が掛けている保険会社が相手なんだから、何の遠慮もいらない。あなた方はウン千万くらい勝ち取れたケースだったはずよ」と叩かれました。
 
ウチのダンナさん、それを聞いても、「そんな訴訟ゲームには加わりたくない。豪華な新車なんか俺たちに必要ないし、似合わない」と歯牙にもかけていないようでした。

だからいつまで経っても貧乏なんでしょうね。でもそんなことを言うと、「貧乏の何が悪い」と切り返されるのは確実です。ひきかえ、俗人根性を多分に持っている私は滅多にないチャンスを逃したかな…と思うことがあります。これ、日本人的性格とアメリカ人との違いかしら。

-…つづく

 

 

第908回:器用と貧乏の関係性は?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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