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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第277回:愛国主義はヤクザ者の隠れミノだ!

更新日2012/09/14



先週の続きのようになりますが、ゆがんだ愛国主義がアメリカ国内でどれほど広く根を張っているか、驚くほどです。

2008年に白人至上主義のミリシア(militia;武装したグループ;民兵)は50グループほどでしたが、現在では260グループに増えています。この数字もはっきりと分かっているものだけです。

当局自身が認めるように、このような秘密結社の実態は非常に掴みにくく、実際のグループの数、メンバーの数、行動など、雲を掴むようなもので、そんなグループが事件を起こして初めてグループの存在を知ることが多いのだそうです。

ミルウォーキー郊外でシーク教の神殿を襲ったワイド(Wade Michael Page;40歳)も愛国主義を唱える国粋主義、白人至上主義者で極右、有色人種差別を唱え、スキンヘッドで“Hammerskins”というロックバンドで有色人種をアメリカから追い出せ、殺せと歌っていました。ワイドは自ら反政府、白人至上主義のテログループには入っていませんでしたから、いわばノーマークでした。 

またまた武器の話ですが、ワイドも合法的にピストルを手に入れています。ネオナチという危険思想を持っているというだけでは犯罪になりませんから、酔っ払って傷害事件を数度起こし、警察のお世話になってはいたものの、実刑を受けていなかったので、ワイドは問題なく武器を購入しています。

そして、武器を手にしたワイドは、“アメリカを破壊させる凶元であり、人間の屑である色人種を皆殺しにする”ための第一歩として、インド人のシーク教の神殿を襲ったのでした。

私は1時間ほどかかる通勤で、いつもNPR(National Public Radio)のニュースを聞きながらドライブしています。その放送で犠牲になったシーク教徒の家族、友人、教主のインタヴューを流していました。お年寄りのインド系アメリカ人は、強いなまりの残った英語で対応し、二世、三世はアメリカ英語で話していました。彼らの教養の高さは言葉の端々に現れており、子供に至るまで、私の大学の学生さんより立派な英語を話していました。

現在、アメリカに5万人のシーク教徒がおり、宗教団体としては5番目に大きなグループを作っています。ワイドたちのようなスキンヘッドグループの教養のなさ、国語である英語さえ満足に読み書きできない教育の低さとは対照的に、シーク教徒たちはアメリカ国内で経済的にも、知的レベルにおいても、中産階級の上に位置していると言ってよいでしょう。

アメリカを支えているのも、これからますます大きくなる立場でアメリカ人として活躍していくのも、白人至上主義のエセ愛国者たちではなく、シーク教徒のようにアメリカに順化していくエスニックグループです。彼らのような人たちを大切にせずに、アメリカの未来はありえないと言ってよいでしょう。

国粋主義や地球上に存在し得ない純血主義(私たちは程度の差こそあれ皆混血なのです)に裏打ちされた愛国主義がいかに危険なものか、ナチス・ドイツの例を挙げるまでもないでしょう。

もし、誰かが愛国主義の名のもとに、自分と相対する立場の人、思想の異なる人を売国奴呼ばわりするなら、それはすでに彼らが危険で、非寛容な国粋主義に陥っている証拠といえます。

国を愛する気持ちはどこの国の人でも持っています。それは郷土愛に結びついた美しい感情です。ですが、郷土愛を持たない愛国主義に変形すると、最も安易なヤクザ者の巣窟(ソウクツ)になるのです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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