第481回:退職金のないアメリカと自由経済
アメリカには定年での退職がありません。何時、引退するかは自分がそれまで掛けてきた私立の引退年金会社に積み立ててきたお金と相談の上、自分で決めることになります。ですから、日本のように定年60何歳とか、国民年金は65歳から…と言う羨ましい事態はありえません。
もう一つ、涎が出るほど羨ましいのは日本の退職金です。ウチのダンナさんの友達が十数年前相次いで退職しましたが、その時、公務員、先生、大きな企業で働いていた人たちの退職金の額を聞いて、私のアゴは落ちっぱなしでした。
日本のすべての中小企業が公務員や教職員、大企業のような巨額な? 私には天文学的金額に思えますが、退職金をもらっているわけではないでしょうけど、私の働いている州立大学のゼロに比べると、何がしかは出ているでしょう。
アメリカには退職金がない、とは言い切ることができません。確かに私のような公立の教職員や一般の企業、工場で長年働いてきた人たちは、私と同じような条件でしょう。しかし、何事にも例外はあるものです。
今年一杯で退職するウエルファーゴ銀行、証券、年金会社の一部門コミュニティ銀行の頭取のキャリー・タルステッド(Carrie
Tolstedt;56歳)さんは124.61ミリヨンドル、約140億円相当の退職金をもらいます。彼女の給料は年1.7ミリヨンドル、1億8千万円だそうです。
キャリーさんの退職金が問題になったのは、彼女が会社に185ミリヨンドルの損失を与えて、しかも200万ドルの口座、クレジットカードの所有者に無断で彼らのお金を勝手に運用しており、その事件に関連し、5,300人の銀行、投資会社の職員のクビを切っているからです。
さしずめ、日本なら頭取が真っ先に責任を取り辞職し、記者会見で、「不徳のいたすところで、会社の信用を貶めた責任は私にある……」とか言い、深く頭を下げ、職員のクビを大量に切るなんてことはないでしょう。
2015年にカリフォルニア州はウエルファーゴを訴え、裁判では判決どおり、ウエルファーゴは185ミリヨンドルの罰金を払うことを認めていますから、コミュニティ銀行が200万人の口座のお金を違法に運営していたことを認めていることになるでしょう。
それでも、コミュニティ銀行の頭取キャリーさんが膨大な退職金をもらい、安穏と退職できるのは、彼女の大ボス、ウエルファーゴの社主ジョン・スタンフ(John
Stumpf)がキャリーさんを高く評価しているからです。スキャンダルの後のインタヴューでジョン・スタンフは、「キャリーは最高のリーダーであり、銀行経営能力を存分に発揮し、顧客との信頼関係を築いた」と違法行為、5,300人のクビ切りは至極小さな問題だと言わんばかりです。
同僚の先生のダンナさんがウエルファーゴ投資会社で働いているので、先日彼に出会った時に尋ねてみたところ、185ミリヨンドルの損失など、ほとんど影響がない、それよりも5,300人の職員を何らかの理由をつけてクビを切った功績の方がはるかに大きい。リストラさせられた5,300人の行員の年収平均を20万ドル(2,200万円)としても、年に総額1,060ミリヨンドルをセーブしたことになり、罰金の185ミリヨンドルなぞ、小さな額だ。キャリーは嘘つきで金に狂い、保身しか考えていない…と言うのです。
キャリーの124.6ミリヨンドルの退職金は、5,300人をクビにした職員の生贄の見返りだと言うことになります。
銀行や投資会社の体質として、個々の職員、行員が自分で判断して口座を勝手に運用することは非常に難しく、逆に上からの"指導"で口座を運用せよと言ってきたら、それに逆らって、「イヤイヤ、口座の持ち主に一つずつ確認、了承を得てからにすべきだ…」と言えない体質があり、クビを切られた職員、行員にも罪の意識はなかったことでしょう。私は銀行上部から言われたとおりに仕事をしていたら、突然、バッサリ切られた、というのが本音ではないでしょうか。
自由経済という言葉はいかにも耳に響き良いですが、富の分配に到ると法のラインギリギリ、もしくは法を破りつつうまく綱を渡り、犠牲を省みない人間が巨万の利益を得るのが自由経済のようなのです。とりわけアメリカでは、野放しの自由競争をヨシとするバックグラウンドが強く、そんな考えが寡占、独占的企業を増長させています。お金持ち、勝ち組だけが得をする社会になってきました。
ウエルファーゴから強制的に退職させられた人たちは、私と同様に退職金など一銭も貰えなかったことでしょう。背徳行為でクビを切られたのですから…。その分、キャーリーさんの懐を潤しているのです、もちろんキャリーさん、自分がクビを切った職員に微塵の同情もしていないでしょうね。
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