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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第678回:使い捨て文化 vsプラスティック・フリー

更新日2020/10/08


私たちは実に多くのプラスティックや化学繊維に囲まれて生きています。それが当然のことになってしまい、意識しないほどになっています。ツヤのある美しいけれど破れ易く、デンセンしやすい絹の靴下から、ナイロンの丈夫な、しかも安い靴下が、誰にでも履けるようになった時、ナイロンはまさに魔法の繊維のように賞賛されたものです。

それから、歯ブラシ、ナイフ、フォーク、ボールペン、タバコのフィルターにはじまり、ペットボトルがガラスの瓶にとって代わるのは実に素早かったです。今では、ワインやリキュール以外の飲み物はすべてと言ってよいくらいプラスティックのボトルに入れられ、売られています。なにせ軽くて丈夫ですから、運送にも、持ち歩きにも便利だと、万々歳でした。スーパーで売られている肉、魚なども、スタイロフォームの皿に載せ、サランラップで包まれています。

将来ダンナさんになった日本人の彼が、スペインの小島イビサからカンサスシティーの私の実家にやってきた時、丁度、“サンクス・ギヴィング”の祭日と重なり、私の一族郎党が二十数人も集まり飲んだり食ったりの集いがありました。その時、プラスティックのお皿、ナイフ、フォーク、コップを使っていたのにショックを受けていました。彼が住んでいたイビサ島では、牛乳もワインもビン持参で買いに行き、肉こそ、丈夫な油紙に包んでくれましたが、野菜類は土が付いたまま持参のカパソ(capazo;藁で編んだバスケット)にドバッと入れる方式で、プラスティックが日常的に使われていない、前世紀的なところでした。 

当時、中学校の校長先生をしていた私の父の学校を訪れ、子供たちの前で、ダンナさん一席ぶったついでに、給食を作る台所を見学し、同時に食器類を洗う現場を見て、一瞬言葉を失ってしまいました。というのは、学校給食でお皿、ボール、ナイフ、フォークなど全く洗わないからです。すべて使い捨てで、ベルトコンベアに載せられたそれらプラスティック製品は、牛乳の入っていたテトラポットの入れ物もすべて細かく砕かれ、急流の小川のような水とミックスされ、下水に流していたからです。

そこには、洗って、もう一度使うようなものは、存在しないのです。使い捨ての時代でした。ダンナさん、調理師というのでしょうか、給食の叔母さんに、アレ、あの汚水はどこに行くんだ?と訊いていました。

ダンナさんが小学生の時の学校給食は、ボコボコ凹みのあるアルミのボールに、給食当番の子供がバケツに入ったスープ、ポタージュなどを大きなヒシャク(柄杓)一杯ずつ入れて配り、もちろんアルミのボールは何十回、何百回となく洗って使っていたはずだと言うのです。

この前、ソビエト時代のラーゲリ(強制収容所)の映画を観ていた時、囚人が並んでボールに悪名高きキャベツスープを入れて貰っているシーンを観て、ダンナさん、「アレだ、あのボールは俺たちの学校給食で使っていたものと同じだ…」と言うのです。一体、何という時代を生きてきたのでしょうね。その代わり、捨てるモノなどない、自然を汚さない生活だったことだけは確かですが…。

今、プラスティック天国のアメリカで捨てられる歯ブラシは、年に10億本、靴、これは曲者で底にスポンジ、それに硬いプラスティックと複雑に組合わさっているので、分離して処理するのがとても難しいのだそうですが、これが年に240億足、タバコのフィルターは3兆本、タイヤは6,000万本、ペットボトルは無限大?に及び、始末が悪いのは、こうした石油化学製品は再生するより、新しく作った方が安上がりだということです。再生してどうにかモトが取れるのは、アルミニュウムだけだと言います。そこで、ドンドン捨てろとなるのです。

そんなプラスティックのゴミを引き取ってくれるところ、国は、中国でした。わざわざプラスティックゴミを中国まで大型輸送船で運び、お金を払い、引き取って貰っていたのです。そのナンバーワンは、アメリカを押しのけ、日本でした。ところが、2017年の7月に、中国で環境保護法が成立し、国内でリサイクルできないプラスティックの使用を制限し始め、同時に外国からプラスティックゴミを輸入?しない方針を固めました。

それまで中国にゴミを持って行き捨てていた国は、日本、アメリカを筆頭に、ドイツ、イギリス、韓国、タイ、インドネシア、香港、ベルギー、メキシコなどで、2017年2月には58万トンでしたが、禁止、制限を始めた2018年の2月には、2万4,000トンに激減しました。中国がプラスティックゴミを引き取ってくれなくなったといっても、出るゴミの量は変わりません。


数年前、ダンナさんの姪が住む沖縄の座間味島を訪れた時、島の西側に打ち寄せられたプラスティックゴミの山に驚きました。その大半が中国や韓国から流れ着いたモノなのです。ダンナさん、日本のゴミを無理に引き取って貰っているから、そのお礼として、川に流し、海に流し、風と潮で彼らのゴミを送って寄こしたんではないか…と言っていました。

アメリカ、中国、インドなどに比べ狭いところに額を寄せ集めて暮らしているヨーロッパの国々は、プラスティックのゴミ問題に真剣に取り組んでいるように見えます。イギリスのコンウォールのコミュニティーが始めた、プラスティックのない、使わない共同体が2017年にたった一つだったのが、現在は104のコミュニティーに増えています。

プラスティック・フリー共同体と言っても、プラスティック・ゼロというのではなく、リサイクル可能なプラスティックのみを使用し、またそれらを回収し、リサイクルする工場への輸送を確立することを目指しています。

ドイツでは、スタイロフォームの使用を全面的に禁止しています。デンマークでは年に53万トンのゴミ(プラスティックだけではありませんが)をエネルギーに変え、3万戸の家をカバーする電力、7万軒の家の暖房に使っています。しかも、その建物の屋上にスキースロープを作っています。

すべてのゴミの中で、53万トンなどは取るに足りない量だ、アメリカの中規模の町以下の量だ、と言うのは簡単です。ですが、アメリカでは、デンマークのゴミ処理のようなことは想像もつかないことなのです。一昔前の夢の島のように、“ランドフィル”と言って、大きな穴を掘って、そこへ何でもかんでも放り込んでいるだけなのです。

使い捨て文化の粋(スイ)であるアメリカは、どう見てもプラスティックに首を絞められているようです。地方自治体や町でリサイクルを積極的に行っているところもあるにはありますが、州や国が率先し、規制しているようなことはありません。スーパーには未だにプラスティック、スタイロフォームが溢れています。

出たゴミをどのように処理するかではなく、初めから処理できないようなゴミを造らないことが先決であることは、誰でも気づいているのですが、莫大な政治献金をもたらしている石油化学メーカー、タバコのフィルターメーカーを規制するような法案が作られることはないでしょうね。

私たちの日常生活で出すゴミは、いわゆる産業廃棄物に比べ微々たるものです。とは言っても、毎日の生活で何かをしなければなりません。私たちができることは限られていますが、プラスティックだけでなく、リサイクルできないモノを買わない、使わない、必要な時だけしか、車、従ってガソリンを使わない、面倒がらずにリサイクルできるものは、その場所に運び込む、そんなことぐらいしか思いつきません。

ダンナさんの友人の海洋生物学者が、紀伊半島の田舎に家を建てました。彼が目指したのは、家をすべて自然に返る材料だけで建てることでした。「イヤー、予算を超大幅に超えてしまったよ。土に返るように造るのは、膨大な忍耐と金がかかるもんだな~」と言っていましたが、一つのことをやり遂げた満足感に浸っているように見えました。

彼のような人がたくさん出てくれば、海も山も川も奇麗になるのですが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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