■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)
第7回:Cycling(3)
第8回:Cycling(4)
第9回:Greyhound (1)
第10回:Greyhound (2)
第11回:Greyhound (3)
第12回:Hong Kong (1)
第13回:Hong Kong (2)
第14回:Hong Kong (3)
第15回:Hong Kong (4)
第16回:Hong Kong (5)
第17回:Hong Kong (6)


■更新予定日:毎週木曜日

第18回:Hong Kong (7)

更新日2006/04/20

フェリーに乗って、香港島から少し離れたランタオ島へ向かった。このフェリーからの眺めは、どこかしら故郷の瀬戸内海の風景に似通ったものがあった。穏やかな濃緑の海面に浮かぶ数え切れないほどの大小の島々。かつてはこの島々に巣くった海賊がこの海域を荒らしまわり、イギリスと清国との間でその後の香港の歴史を決定づける争いが繰り広げられたことを思うと、村上水軍が活躍し、江田島海軍兵学校からの海軍エリートたちが、その後の日本を決定付ける戦争へと旅立っていった瀬戸内海の歴史に重なって見えた。

しばしのあいだ内海特有の生命力の強い香りを運ぶ潮風を浴び、船上で知り合ったドイツ人家族達との談笑を楽しみながら、香港島とは似ても似つかぬ静けさのランタオ島へ向かった。

新しくこの島に開港された香港国際空港や、本土と島を結ぶ巨大な橋を通る高速道路や電車のおかげで、この島は香港島で忙しく働く人たちのニュー・ベッドタウンとして、また週末のバケーションの地として脚光を浴びているらしいことが、これでもかというくらいに無料観光誌などに書き連ねてあった。

島へ渡ってすぐに、昔子供の頃によく遊んだ、投げつけて炸裂させるパチンコ球くらいの大きさのクラッカーを露天で見かけたので、懐かしさからつい手に入れてみた。そしてそれを地面や壁にバシバシと投げつけて炸裂させながら歩いていると、地元の子供たちがたくさん寄ってきて面白そうに後からついてきた。

お前も投げてみるかと手振りで聞いてみるのだが、恥ずかしいのか笑うばかりで、なかなかみんな手に取ろうとはしない。もちろんこのクラッカー自体は、ビーチへ行けば露天でたくさん売っているので、別に珍しいものでも何でもなく、ただ外人が路地裏へ入ってきていることが、島の子供たちの興味をひいて一緒に付いてきたたのだろうけど。

それでも一人が手に取ると、わーっという感じで、みんなが私の手から奪い合うようにクラッカーを取り、あっという間になくなってしまった。その光景を眺めていたワイチャイという名の子供の親の紹介で、ビーチから少し入った市場で新鮮なフルーツを手に入れて、浜辺でのんびりした空気を満喫する。

こういう地元民の気さくさも、ここが香港やカオルーンとはまるっきり違う地であることを実感させてくれる。以前に日本でもサイクリングで旅をして周ったことがあるのだが、沖縄などは地元民が、見ず知らずの自分のためにおにぎりをくれたり、夕食に招待してくれたものだ。彼らの話によると、最近は静かな環境を求めて、香港島から引っ越してくる家族も多いということだ。

午後からは、この島の観光の目玉である高さ23mの世界最大の野外仏像を見るために、ローカルバスに乗って山道を2時間ばかり走った寶蓮寺へ向かった。

確かに仏像は巨大で、地元の観光客らしき人の姿も多数見受けられたのだが、個人的にはそれほど感動するということもないままに山を下り、島の裏側にある小さな漁村大澳へ向かうことにした。

この漁村は未だに水上家屋が河口沿いに並び、そこで水上生活をおくる人々がいる興味深い場所で、個人的には巨大な仏像よりも遥かに興味深かった。

村では地元の猟師の小船をチャーターして、河口の水上家屋の間を走ってもらったり、この近海に住むというピンク色をした河イルカを見るためにしばらく沖を走ってもらった。だが、散々沖を走り回ったのにも関わらず、猟師いわく「残念ながらその日はイルカ達は街へ出稼ぎへ行っているんだろう」ということで、残念ながら姿を見かけることはできなかった。

急勾配の坂道をヴィ~ン、ギュイ~ンという唸り声をあげながら、それでもなんとか息苦しそうに登っていく、破れかぶれのシートをした古いバスに乗って、カオルーンまで帰れる電車が出ている町へ向かった。

着いてみてびっくりしたのだが、その町はこれまでにこの島で訪れた村や町が同じ島内にあるとは思えないほどの、近代的な高層アパートメントが所狭しと立ち並ぶ所だった。この町から電車に乗ると、朝早く乗ってきたフェリーが嘘のようにあっという間にカオルーンに辿りつくことができる。

こういう風に近代化の波が、こんな島にまで押し寄せているのだということを実感できるとともに、静かな漁村での時の流れが嘘のように、電車はあっという間に別世界のカオルーンの喧騒の中へ自分を連れ戻してくれた。

…つづく

 

第19回:Hong Kong (8)