■くらり、スペイン〜イベリア半島ふらりジカタビ、の巻

湯川カナ
(ゆかわ・かな)


1973年、長崎生まれ。受験戦争→学生起業→Yahoo! JAPAN第一号サーファーと、お調子者系ベビーブーマー人生まっしぐら。のはずが、ITバブル長者のチャンスもフイにして、「太陽が呼んでいた」とウソぶきながらスペインへ移住。昼からワイン飲んでシエスタする、スロウな生活実践中。ほぼ日刊イトイ新聞の連載もよろしく! 著書『カナ式ラテン生活』。


■移住を選んだ12人のアミーガたち、の巻(連載完了分)

■イベリア半島ふらりジカタビ、の巻
第1回:旅立ち、0キロメートル地点にて
第2回:移動遊園地で、命を惜しむ
第3回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(1)
第4回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(2)
第5回:佐賀的な町でジョン・レノンを探す(3)
第6回:パエージャ発祥の地、浜名な湖へ(1)
第7回:パエージャ発祥の地、浜名な湖へ(2)
第8回:パエージャ発祥の地、浜名な湖へ(3)
第9回:パエージャ発祥の地、浜名な湖へ(4)
第10回:奇才の故郷に、ごめんくさーい(1)
第11回:奇才の故郷に、ごめんくさーい(2)
第12回:奇才の故郷に、ごめんくさーい(3)
第13回:奇才の故郷に、ごめんくさーい(4)

■更新予定日:毎週木曜日




第14回:たいへん! ムール貝を、重油が覆う(1)

更新日2003/01/30


私は、魚が大好きだ。世の中で2番めに美味しいのはカワハギの刺身、それを肝を溶いたしょうゆにつけて食べることだと、よく思う。ちなみに変わらぬ1位は米で、2位はそのときによって、ごんあじ(長崎の五島灘で獲れるマアジ)や、高田馬場の通称「貧乏寿司」で特上寿司の数の子に代えて握ってもらうヒラメの縁側や、おかんが味噌汁に無造作にぶちこんだアラカブ(カサゴ)になるのだが、とにかく魚介類である。

長崎に住んでいた頃は、友だちと自転車で、あるいは親や兄弟に連れられて、魚釣りに出かけた。アジやキスはなんぼでも釣れた。たまにタイやイカも釣れた。釣れるのを待ちきれないときは、岩場でミナ貝(またはニナ貝。三角の巻貝)や小さなカキをとる。カキはその場で、身を潮水でちゃぷちゃぷ洗って食べる。これまた、世の中で2番目に美味しいもののひとつだった。

てなわけで、私は魚介類がだーい好きだ。そしてうれしいことに、スペインでは魚が良く食べられる。イワシやイカは大衆魚としてバル(居酒屋兼喫茶店)のメニューに必ず登場するし、「あれは悪魔じゃ、火星人じゃ」と相変わらず敬遠する国も多いタコだって、ふつうに食べられている。だいたいそのタコやマグロ、アンコウの肝、ウニなどは、日本にどーんと輸出するほど獲れるのだ。スペインに住んでいるおかげで、日本にいるよりもかえってネタの良い寿司が食べられたりする。たとえば生の地中海本マグロなんて、本当に美味いのだよ。そりゃもう、世の中で2番目くらいに。


そんなスペインでも、魚介類が美味しいことでとくに有名な地方がある。イベリア半島北西部、ポルトガルの北に位置するガリシア州。

世界有数の漁場である大西洋の北の海域を控えるうえ、入り組んだ複雑な海岸線は波も穏やかで養殖にうってつけ。ちなみに、地理で習った「リアス式海岸」の「リア」は、スペイン語で「入り江」という意味である。「リアス式」という名前は、ここガリシアの海岸線に由来するのであった。リアスさんじゃないのよ、オギノさんみたいに。

ということで、ガリシアで水揚げされる主な魚介類をざっと並べてみると。

沿岸魚のイワシ、ニシン、カツオ。遠洋漁業では、スペイン人の大好きなタラ。なんだか『サザエさん』みたいになってきたな。そんでもって車に手長に甘に伊勢……とくればエビ。カニも良いのが獲れる。さらにヨーロッパ最大の養殖地であるリアス・バハス(ガリシア語では「リアス・バイシャス」)という一帯からは、ムール貝やホタテ貝、マテ貝、カメノテ、トリガイ、ザルガイ、それにカキなどが世界中に輸出されている。そうそう、ウニもね。

魚は獲れるし貝は育つ。ついでに魚介類と抜群に合う爽やかな白ワインの一大産地でもある。ガリシアはまさに『おさかな天国』だ。あくまでも人間にとっての、だけど。


ガリシアの気候やひとの気質は、見事なまでに『太陽の国スペイン』『情熱の国スペイン』というイメージを裏切るものだ。だいたい、スペインなのに雨が多い。この秋から冬にかけても、半分以上の日が雨だった。雨は夏でも冬でも、しとしとしとしと降りつづけるのだという。黄色く乾いた砂を撒き上げる闘牛は、ここには、ない。ついでに、カスタネット打ち鳴らしてフラメンコ、オーレ! も、ない。民族楽器はガイタというのだが、形も音もバグパイプそのものである。おねえちゃんが小粋にスカートの裾をひるがえすには、どうにもまったくもって適さない。

ところでバグパイプといえばスコットランド。そして実はこのガリシアも、スコットランドと同じく、ケルト民族をルーツとする土地である。そんなガリシア人は寡黙で、我慢強いと言われる。その昔、新大陸ラテンアメリカへ移民したひとの多くはガリシア出身だったのだが、待遇の悪さにも耐えて働きつづけたらしい。そのためラテンアメリカではいまでも、スペイン人移民はひっくるめて「ガジェゴ(ガリシア人)」と呼ばれている。「明日は明日の風が吹くずらよ、うっしゃっしゃー!」と酒をかっくらう南の方のフラメンコなスペイン人とは、ぜんぜん違うのだ。

なお、ガリシア地方の公用語も同じく「ガジェゴ」というのだが、これまたマドリードを中心とする標準スペイン語と比べてみると、やけに湿度のある柔らかい発音であることがわかる。口先だけで、もしょもしょもしょと話すかんじだ。ポルトガル語にとても似ているので、かの国の名サッカー選手、ルイス・フィーゴのインタビューを聞いてみると雰囲気が少しわかる。あの007ばりの男前が、喋ると途端にもしょもしょしてしまうのだ。あるいは、たとえば今度誰かに電話をするとき、「もしもし」の代わりに「もしょもしょ」からはじめてみると、ガリシアの持つ湿度を感じることができるかもしれない。

そんなこんなでとても魅力的なガリシアには、いつか行こうと思っていた。そしてきっかけは、意外なかたちでやってきた。

第一報は、11月13日のニュースだった。荒い波が甲板を覆う映像とともに、テレビでアナウンサーが告げていた。「本日、ガリシア沖でタンカーが難破しました」

 

 

第15回:たいへん! ムール貝を、重油が覆う(2)

 
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