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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第628回:雪国の赤い鳥 − こまち14号 2 −

更新日2017/05/04


大曲駅。同じホームの向こう側に秋田行きの“こまち1号”がいて、こちらは東京行きの“こまち14号”だ。どちらが先に出発するだろうと思ったけれど、先にホームに着いていた“こまち1号”が発車していく。時刻表を見ると、“こまち14号”の大曲着は09時46分。その1分後に“こまち1号”が発車して、2分後の09時49分に“こまち14号”が発車する。ちゃんと段取りができていて、その通りに動く。気持ちいい。私の生活も見習いたい。


“こまち1号”が先に発車していった

秋田から空いていた通路側の席に、スーツ姿の男性が座った。二人連れで、相方は通路を隔てた向こう側だ。二人並びの席が取れないほど混雑しているというわけだ。もっとも、秋田新幹線内は二人がけ席が空いているかもしれない。“こまち”の場合は、東北新幹線内だけの利用にかかわらず“こまち”を指定するお客さんもいる。

“はやぶさ”の普通車は5列、車体がひとまわり小さな“こまち”や“つばさ”の普通車は4列。「東北新幹線でも4列シートの利用が通」である。ただし、これで満席になると、秋田や山形から東京までの二人掛け席が取れなくなる。窓口ではそんな要望を言いづらくても、ネットや券売機ではシートマップで座席を指定できる。なにか対策されているだろうか。


もっとも運転席に近い8番。私は窓側。荷物は背後に移した

私は通路側の空席の足下にキャリーバッグを置いていた。彼らが近づいたので、先に座席の後ろに移動しておいた。これが新幹線の最後部車両、最後部座席の良いところだ。乗降扉がないから静かだし、後ろに荷物を置けるし、座席を反転したときのために、通路側にもテーブルとコンセントがある。コンセントの取り合いにならない。もっとも、私はいつも延長コードと三つ口タップを用意していて、隣人にも配慮している。

最後部車両、最後部座席の難点は停車時だ。ホームの端になるから、ほとんどの駅で乗り換え階段から最も遠い。列車が遅れる、または、次の列車の発車時刻が迫っていれば駆け足だ。しかし今日はもう帰るだけだし、終電ではなく日中の東京着だから問題なし。のんびり行こう。新幹線だけど。


紫外線カットガラスでも太陽がまぶしい

秋田新幹線“こまち”が大曲駅でスイッチバックする。その理由は、田沢湖線が北から合流するからだ。もし、田沢湖線が南から合流してくれたら、進行方向の逆転はなく、盛岡〜秋田間の所要時間を数分短縮できたかもしれない。運転士は前後に移動しないでこの駅で交代するため、停車時間は最短2分で済んでいる。これは見事だ。

しかし、折り返すときは二つの線路を塞ぐから、短い間とはいえすれ違いができなくなる。スイッチバックがなければダイヤを設定しやすいはず。もちろん、関係者は新幹線を計画したときにわかっていたはず。大胆に線路を敷き直して、南から合流する方法もあっただろう。しかし、もちろんお金がかかるし用地買収のせいで工期も延びる。


左から“水せっけん”、“手洗い(温水)”、“乾燥(温風)”
最新型の設備は行き届いている

そもそもなんで大曲はスイッチバックになったか。事情を知りたくなって、スマホで調べた。なんと、当初から盛岡と大曲を結ぶ路線として計画され、秋田は視野に入れていなかった。大正10年に大曲から北東の角館へ向けて軽便鉄道の生保内線を作り、盛岡側からは雫石へ向けて橋場線を作った。これを延伸して接続して田沢湖線になったという。

東北地方の奥羽本線と太平洋側を結ぶ路線はほかにもあって、北は花輪線、南は北上線、さらに陸羽東線と陸羽西線もある。陸羽東線と陸羽西線が先に開業していたし、花輪線もあったから、田沢湖線に秋田〜盛岡間のルートを求めなかったかもしれない。ちなみに花輪線も田沢湖線も北上線も、大正10年頃の着工であった。


角館駅、プラットホームに雪がなかった

田沢湖線に入った“こまち14号”の進行方向が東に変わった。私の席は南向き。車窓の雪景色がまぶしい。田んぼの雪原を用水路が区切る。林の根元の土が見える。積雪は浅い。こうして少しずつ雪が溶けて、北国の春が近づいていく。

この雪景色の中で、E6系の走行はどう見えるだろう。赤い矢が駆け抜ける様子を想像する。カッコいいだろうと思う。E6系を手がけたデザイナーのケン・オクヤマ氏はフェラーリなども手がけている。イタリアのデザインは環境重視だ。周囲の景色と調和し主張する。


山里は春近し

鉄道車両のデザインは水戸岡鋭治氏も有名だけど、彼は機能性重視だと思う。外観より使いやすさ。鉄道車両はこちらが基本だった。保守の水戸岡、革新のオクヤマ。私は勝手にそう思っている。もちろんオクヤマ氏だって機能性を大事にしているし、水戸岡氏も外観に配慮している。考え方のわずかな違いが、鉄道車両の個性を作る。顧客の用途に応じてデザイナーを選べばいい。その意味でも、外部デザイナーが活躍する現在の鉄道車両はおもしろい。


畑の積雪も浅くなった気がする

角館に停車。日当たり良くプラットホームに積雪なし。次の田沢湖駅は1番ホームの下、線路際に雪が残っている。改装工事中だろうか。ホームの外側の柵が緑色の工事用ガードフェンスだ。鳥の羽ばたく様子がデザインされている。こんな洒落たデザインもあるとは知らなかった。かわいいフェンス。しかし、工事が終われば、この鳥たちもどこかへ飛んで行ってしまう。


田沢湖駅、おしゃれなガードフェンス

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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