■シリコンバレー~ITの夢とドラマの舞台裏を歩いてみる

安蒜 泰樹
(あんびる・ひろき)


雑誌/書籍編集者、ウェブディレクター/プロデューサー、翻訳者。アスキーでソフトウェア製品のマーケティングの仕事をしたあと、出版局へ異動しマルチメディアな編集者として修行。その後、インプレスのインターネット放送専門米国子会社へ転職。シリコンバレーで約3年過ごしたあと帰国。現在、SuiteZero Ltd.取締役社長。


第1回:あの時あの場所で
第2回:ワイルド・ワイルド・ウェスト

第3回:水と芝生の美しい街

第4回:地図にない谷

第5回:産業高速「101」~その1

第6回:産業高速「101」~その2

第7回:麺が恋しい?ベトナムラーメンで決まり

第8回:株情報とネットの馴れ初め

第9回:森林高速「I-280」

第3回:水と芝の美しい街

更新日2001/04/26 


オラクル本社を訪れつつ、フォスターシティとレッドウッド・ショアに代表されるラグーンと芝生の美しい街並を覗いてみたい人のためのショートドライブコースを考えてみた。さまざまな風景を持つシリコンバレーだが、これは街の人工的な美しさが楽しめるルート。

次々と現れるハイウェイの出口案内の看板に、神経質に目をやるまでもない。円筒形のビルにもっとも近づいたところで一〇一号線を東方面へ降りれば、ドライブの起点となるマリン・パークウェイに合流する。 高速道路の出口を出ると、独特の威容を誇るオラクル・ヘッドクオーターのビル群が、いやおうなしに目に飛び込んでくる。全面ガラス張りの建物は、今にも青い空に溶け込んでしまいそうだ。

バレーの住人やハイテク業界の人々にとっては「なにをいまさら」という話だが、これからシリコンバレーを訪れようとする人のために書いておく。データ-ベース分野で世界有数のソフトウェア企業となったオラクルの本社ビル「オラクル・タワー」の建築デザインは、システムエンジニアやプログラマーたちがシステムの構成図などを描くときに用いる「データベース」のグラフィック(茶筒のようなシェイプのアレだ)をモチーフにしているのである。時間があるなら、一般人にも開放されているラグーンの淵を散策してみてはどうだろう。

オラクルの本社ビル群

マリン・パークウェイをさらに直進すると、風景は徐々に住宅地に変わっていく。道路の両脇に広がる芝生やラグーンを活かした集合住宅の美しさには思わず溜息が出る。この光景は住宅事情の悪い日本の都会からやってきた人には少々目の毒かもしれない。

さらに直進してシェル・ブルバードを右折したあたりには、ラグーンに面した庭先にカヤックや小さなボートを係留しておくためのドックが付いている住宅もたくさんある。立地条件的にサンフランシスコ・ベイには出ていけないものの、この界隈の住人たちは週末やアフターファイブの散歩代わりにふらりとラグーンに漕ぎ出すことができるのである。不動産価格がべらぼうに高騰しっぱなしのスタンフォード周辺と比べ、分譲、賃貸ともにこの地区の相場がやや低いのは、埋立地を造成した土地のため、やがて襲ってくるかもしれない震災による液状化現象を心配する声があがっていることとも関係があるらしい。

この周辺の居住区は九〇年代中期以降にシリコンバレーでしばしば聞かれた「オラクル効果」と呼ばれるプレミアム現象の影響を受けた場所の一つである。ネット株が高騰した折、オラクルに隣接するこの地区に住居を購入した若い社員も多かったと聞く。彼らに代表されるように、このエリアの平均的な住人像は、比較的年齢が若いハイテク企業従事者とそのファミリーたちである。

同じくサンフランシスコ・ベイに面した隣町になるフォスターシティは、本格的に街が発展して、まだ三〇年といったところだが、レッドウッド・ショアーズはこれよりさらに一五年ほど若く、同じ水辺と芝生の街でありながら、雰囲気ももっと明るい印象を受ける。この街に広がる九〇年代風の瀟洒な住宅街は、何十年かあとに、その一つ一つが20世紀終わりの当時の豊かさを人々に思い出させることになるのだろう。

Redwood Shoresの集合住宅。多くの住居が、水辺の暮らしを楽しめるように設計されている。こうした集合住宅一世帯の売買相場は、都内に大きめのマンションを購入するくらいの価格とさほど変わらない

Photo by Yukio Yoshinari/Image Works

 

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