第12回:ホールデン・ディックの盗まれた黄金
1881年のことだから、カリフォルニアはすでにメキシコからアメリカ合衆国の手に渡っていた。
ネバダからサクラメントへ三人のガンマンに守られながら金を積んでいた幌馬車を輸送している時、突然、一人の盗賊が現れ、三人の護衛を撃ち殺し、御者と同乗していた旅行者を駅馬車から降ろし、追い立てるように徒歩で来た道を引き返させ、盗賊は隠してあった自分の馬に駅馬車に積んであった金を移し、消え去ったというのだ。
この話の導入部はいかにも胡散臭い。クリント・イーストウッドじゃあるまいし、三人の護衛のガンマンを一人の賊が撃ち殺すのは不可能ではないだろうが、現実には起こり得ないことだ。御者や旅行客もいたのだから、襲撃された場所を確定するのは容易なことだろう。しかしながら、マドック郡のどこかというだけで、はっきりしていない。
1880年に入っていたから、金塊ではなくすでに製造された金貨であっただろう。金貨をサクラメントの銀行に輸送するなら、当然その当時設立されていた現金輸送会社が請け負ったに違いないが、その記録は存在しない。というより、現金輸送車襲撃事件が頻発していたから、記録にとどめなかったのだろうか…。
一頭の馬で運べる金貨の量など知れたものだから、盗賊は何度か往復し、金貨をどこかに埋めた…ことになっている。
それがワーナー連山の西側スロープだと言うのだ。
![12-02](images/warner_mountains-02.jpg)
Holden Dick’s Stolen Gold
ワーナー連山はカリフォルニアの北西、ほとんどネバダ州境近くを南北に走っている。そして連山の西に現在USハイウエイ395号が大きな湖グースレイクに沿っている。現在、ワーナー連山は野生自然保護地域に指定されているので、万が一、ここでホールデンの財宝を発見したとしても、その所有権は国に属することになる。なにしろ広い地域だから、誰かが黄金を発見し、そのまま持ち去る可能性は常にあるが…。
盗賊の名前、まさか自分がやったとは公言しないだろうが、金貨が埋まっているとされている近隣の人たちやインディアンは、ホールデン・ディックの財宝と呼びならわすようになった。
この財宝談の発端こそ曖昧だが、実際にホールデンと名乗る男が、娼婦のたむろするサルーンや飲み屋で散財し、支払いはいつもピカピカの金貨だったという証言が多くあり、現実味を帯びてくる。ホールデンは支払いが滞るようになると、数日どこかに消え、また新品の金貨をポケット一杯にして戻ってくるのだった。
そんなことが繰り返されているある時、ホールデン・ディックは逮捕された。バーでの諍いが発展し、相手を撃ち殺してしまったのだ。その時、シェリフはこの男こそ、数年前に現金輸送車を襲い、三人のガードマンを撃殺し、現金を奪い去った犯人に違いない…と嫌疑を深めた。しかし、郡のシェリフにしたところで、証人を呼び集めることなど不可能だったし、それを証明することはできなかった。ホールデン・ディックも口を割らなかった。
酒場での喧嘩、そして撃ち合いの末相手を殺してしまった罪が確定するまで、シェリフの詰所の後ろにある鉄格子の嵌まった留置所に勾留されていていたが、そこでホールデン・ディックは忽然と死んでしまったのだ。誰にも金貨を埋め隠した場所を明かさずに逝ったのだ。
ホールデン・ディックの財宝談は、彼が出入りしていたサローン・バーを中心に広がった。ワーナー連山の裾は探し尽くされた。が、ホールデンは余程巧みに金貨を埋め隠したのだろうか、財宝は誰も発見していない。少なくとも、誰もホールデン・ディックの財宝を見つけたと宣言していない。
![12-01](images/Warner_Mountains_s.jpg)
ワーナー連山、この何処かにホールデン・デックの財宝が埋められている???
-…つづく
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