■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)




中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。



第1回:男日照り、女日照り
第2回:アメリカデブ事情
第3回:日系人の新年会
第4回:若い女性と成熟した女性
第5回:人気の日本アニメ
第6回:ビル・ゲイツと私の健康保険
第7回:再びアメリカデブ談議
第8回:あまりにアメリカ的な!
第9回:リメイクとコピー
第10回:現代学生気質(カタギ)
第11回:刺 青
第12回:春とホームレス その1
第13回:春とホームレス その2


■更新予定日:毎週木曜日

第14回:不自由の国アメリカ

更新日2007/06/07


日本の親しい友人がキューバに行ってきました。

アメリカ人にとってカリブ海は、我が家の池のような感じで(カリブの人々にとっては迷惑かもしれませんが)、大きなクルーズシップを格安で運行し、大量の観光客を送り出していますし、ホテル、飛行機込みのパッケージツアーは大盛況で、こぞってカリブの島々へ押しかけています。アメリカ人にとってのカリブは、日本にとってのグアム、バリ、ハワイ以上の存在でしょう。

しかし、アメリカ人のカリブ地図からキューバだけが抜け落ちているのです。これだけ自由、自由と叫ぶ同国人ですが、キューバに行く自由が私たちにはありません。これはキューバ政府の問題ではなく、逆にキューバでは外貨獲得のためどこの国からでも、外貨を落としてくれるなら、観光客大歓迎の政策ですが、問題はアメリカ政府なのです。

アメリカ人がキューバに行くことは、可能なことは可能です。こんな持って回ったような言い方をするのは、もしあなたがアメリカ政府で働いているお役人なら、大きなネットワークのジャーナリストなら(小さなミニコミ誌、社会共産系の新聞、雑誌はダメです)、それともキューバでなければできないテーマを抱えた研究者なら、アメリカの政府、大蔵省にお伺いを立てることができます。そうなのです。外務省や国務省でなく、大蔵省なのです。

アメリカはキューバに対して経済制裁を敷いており、敵対するキューバでアメリカ人がお金を使うことは許されません。とりわけブッシュ大統領になってからその締め付けが厳しくなり、キューバに行ったというだけでブラックリストに載り、そこでいくらかのお金を使ったとなれば、高額な罰金刑を課され、使った額によっては牢屋に入らなければなりません。

アメリカ人がキューバに合法的に行くには、キューバから滞在費はすべて私たち、キューバ側が持つ、というような、できるだけ公式の手紙を書いてもらい、それを申告書に添えて飛行機代以外キューバ本土では一銭も(1セントもかな)お金は使いませんと誓約しなければなりません。それで、キューバ行きが許可になるという保障はないのですが。

ニューヨークとマイアミからハバナ行きの直行便が出ているのに、それを使える人は政府関係の人や特別な人だけなのです。

もう一つのキューバへ行く方法があります。アメリカ政府にとっては不法行為ですが、カナダ、メキシコ、ドミニカ共和国、ベネズエラなどに一度入り、そこからハバナに飛ぶ方法です。キューバ政府でもアメリカ人旅行者を不憫に思ってか、パスポートにキューバ入国のスタンプを押さず、別の用紙に入国スタンプを押し、その紙を出国のとき提出するやり方で、大変気を遣ってくれているようです。

アメリカに帰ってきた時には、入国審査の係官に万が一、どこに行っていたのかと訊かれたら、カナダ、メキシコにズーッいた、怪しげな国になんか行ってませんよ、とウソをつくのです。そんなやり方で年8万人ものアメリカ人がキューバを訪れていると言います。ですから、アメリカのキューバ経済制裁は、観光の部分ではあまり成功しているとは言えません。

アメリカ人が大量に押し寄せる前に、マクドナルドやピッザハットが支店を開く前に、私も是非キューバに行き、島の隅々まで時間をかけてゆっくり回りたいのですが、万が一、私のキューバ行きがバレてしまったら、天文学的な罰金を払わされる上、確実に今の仕事(一応州からお給料が出ています)を失い、ブラックリストに載せられ、これまでのように気軽に日本に行けなくなるので、二の足を踏んでいるのです。

どこにでも行ける日本人が羨ましいです。

 

 

第15回:討論の授業