第371回:死を招く大食い競争
アドリア海の小島で2ヵ月あまり過ごし、また日本に帰ってきました。
久し振りにアメリカの中西部、カンサスシティーに住む私の両親に長電話をしたところ、すでに80歳を幾つか越えた父、母がアメリカ独立記念日のパーティーを主催し、自分の家に親類、友達、近所の人を呼び集め、120何人かの盛大なパーティーになった、天候にも恵まれ最高のパーティーだったととても自慢げでした。
アメリカの祭日の過ごし方には一つのパターンがあり、サンクス・ギビング(感謝祭)は家族とごく親しい友人だけで七面鳥の丸焼きとパンプキンパイ、クリスマスは家族だけ、大晦日は友達と酔っ払うのが一般的な過ごし方です。
7月4日の独立祭は、夏の暑い盛りなので庭でバーベキュー、これはハンバーガー、ホットドック、それに旬のトウモロコシにバターをたっぷり塗ったもの、そしてよく冷やしたスイカに自家製のアイスクリームと相場が決まっています。
幸か不幸か、私の両親は町の郊外と牧場の境目に広大な庭と畑を持っていますから、楽に120人くらいは収容できます。最高記録は200何人のパーティーを開いたこともある……と言っています。準備する料理はすべて大型のバーベキューグリル三つほどで間に合いますから、簡単といえばこれ以上簡単なパーティーはありません。
あとは何種類かのバーベキューソース(実にタクサンあります)をテーブルに並べ、紙のお皿、プラスティックのナイフ、フォークをテーブルに並べれば準備完了です。トウモロコシもスイカも自分の畑で採ったばかりのものです。
アメリカの独立記念日の催し物で、圧巻なのは花火大会です。ですが、日が沈む前に行われる典型的な競技はハンバーガーの早くい競争とスイカの種飛ばし大会です。スイカの種を口に含み細めた唇からプイッと飛ばし、その距離を競います。子供の頃、私もこの競争に参加して、何度か賞をもらいました。
遠くに種を飛ばすコツを伝授しますと、種を噴き出すスピードが大切ですが、噴射角度も大事で、元気のよい肺活量が大きい若い男の人は前に、前に飛ばそうと、地面とほとんど平行に噴出しますが、これはダメです。少し上向きに、45度くらい上を目掛けるのがコツなのです。
同様の競技が北海道にもあることをウチのダンナさんが教えてくれました。こちらの方はなんと、“イカの目玉”を飛ばすのだそうです。なんだかヌルヌルしていてよく飛びそうですが、口に入れるにはかなりの勇気がいりそうです。
もう一つのよく行われる競技はハンバーガー、ホットドックの早食い競争です。これは食べるというより無理やり詰め込む感じで、見ていて楽しいものではありません。何か飢えたハイエナが腐肉を食い漁っているように見えます。第一、身体によくありません。それどころかサウスダゴダ州のラピッドシティーでは喉にホットドックを詰まらせ、47歳の男性が死んでしまいました。
このアメリカ的国民行事、早食い競争にも日本人の進出が著しく、同じ大会で小林尊さんという方が以前、優勝しています。彼は死ななかったようですが…。
日本の大学でも新入生歓迎コンパと称して、主に運動部が新入部員の一年生にお酒を飲ませ、それで命を落とす新入生が出ることがあるそうです。これなども、アメリカの早食い競争同様、野蛮な風習と呼んでいいでしょうね。
食べ物も飲み物もゆっくり味わう、いかに美味しく頂くかという一点に文化があると思うのですが。一旦口に入れたものを吐き出すのもテーブルマナーにかなっていないのは承知のうえで、私の特技、スイカの種飛ばしは、余興の範囲と認めてください。
第372回:日本で団地暮らしを始めました…
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