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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第271回:虐殺、乱射事件の伝統!?

更新日2012/08/02



先週、3歳の子供が自分の父親を誤ってピストルで撃ち殺したことを書いている途中、隣りの町デンヴァーと隣接しているアウローラで乱射事件が起こりました。

今回の乱射事件は、ムルチシネと呼ぶのかしら、"センチュリー16"という16個の映画館が集まった大きな劇場ビルディングで起きました。 

映画館は子供たちの夏休み目当ての目玉商品"バットマン"シリーズの最新作『ザ・ダークナイト・ライジング』の特別深夜興行で満員でした。夜中の12時半頃、映画が始まって20分ほど経ったとき、ガスマスクを被った一人の若者がスクリーン・ステージにかけ登り、催涙弾を劇場内に投げ、ライフル、散弾銃、ピストル2丁で乱射し始めたのです。

最近の携帯電話は動画も撮れますから、場内の騒乱の様子がいくつもテレビのニュースに流れ、激しく揺れ動く映像から、我先に逃げようとする人、床に伏せ倒れたままの人、傷ついた人を引きずるように避難させようとする人の絶望的混乱が伝わってきます。

犯人、ジェームス・ホームズ(James Eagan Holmes)は、私が一時期教えながら授業を受けていたことがあるコロラド州立大学の博士課程の学生で、出身はカルフォルニアのサンディエゴで高校、そしてカルフォルニアの大学を"トップの中のトップ"と言いますから、抜群の成績で卒業した脳神経科学専門の24歳になる青年でした。

インターネットで読むことができるニュースを総合してみますと(驚いたことに、事件の翌朝、すでにWikipediaには事件の全貌、ジェームスの経歴が載っていましたが、地元のDenver Post紙の記事が関係者、大学の同級生、友人、アパートの隣人への直接インタヴューなど、第一次ニュースソースが豊富で、正確なように思いました)、ジェームスはバットマンの宿敵、ジョーカーに自らを仕立て、髪を赤く染め、黒ずくめの衣装を着て、防弾チョッキなど、スワットチームが着けるようなスネ当て、ガスマスク、男性の急所を守るプロテクターで身を包んだ姿で、劇場のスクリーン・ステージにかけ上がり、観客に向けて、催涙弾、発炎筒を投げつけ、まず上に向けて景気付けでしょうか、何発が銃を撃ち、場内を混乱に陥れてから、乱射を開始しました。

彼が使った銃は、Smith & Wesson AR-15というセミオートマチックの機関銃のように引き金を引いている限り1分間に100何発だかの弾を発射できるライフルだそうです。他にレミントンの散弾銃、グロックのピストルの弾倉の弾を撃ちつくし、12人の死者、59人の負傷者を作り、補給の弾を取りに自分の車に引き返したところ、警察に無抵抗で逮捕されました。

メールオーダー、インターネットで6,000発の銃弾を買い込んでいたといいますから、もっともっと大きな惨劇になった可能性があります。自動小銃、機関銃などは地元のガンショップで合法的?に購入しています。

浮かび上がってくる犯人ジェームスのイメージは、典型的な秀才オタクで友達も恋人もおらず、自分の世界だけに閉じ籠もる、対人関係が苦手な青年です。彼を知る人は皆、「ジェームスはとてもおとなしい、善良で暴力とは全く縁のない性格だった」と口を揃えて話しています。

しかし、ジェームスが時間をかけて銃火器、弾薬を買い集め、自分のアパートには複雑な仕掛けを施した爆弾を仕掛けているのですから、突然プツンと切れて、無差別な暴力に走った……ということではないはずです。

今回の事件で、青少年に映画がもたらす暴力的影響がマスコミで取り上げられ、バットマンを制作した映画監督もマスコミに盛んに引き出されたりしています。監督さんの宣伝、プローモーションでの日本行きは中止になりました。

一方、野放しなっている銃火器を全面禁止にしようという声は全く聞こえてきません。 映画の影響をウンヌンする前に、戦争のため人間を殺す目的で造ったセミオートマチック(自動ライフル)を禁止するのが当然なのですが、マスコミは映画監督らに群がっても、Smith & Wesson社には誰も行っていません。

アメリカ国内では、毎年ではなく、毎週のように乱射事件が起こっています。これからもアメリカ人が同じアメリカ人を殺し続けるでしょう。アラブの教条主義者たちのテロや麻薬マフィアの内戦以上に、アメリカ国内に内在する暴力、殺人の方に脅威を感じるのは私だけかしら。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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