第272回:スーパー・マリオがフルモンティでやってきた!
政治の世界では、私の理解を超えたことがよく起こります。何も極端な開発途上国で独裁政治のことばかりではありません。
イタリアの前首相、シルヴィオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)さんは、いくらセックススキャンダルに点数のえらく甘い(恐らく自らを省みても??)イタリア人としてもやりすぎでした。
首相が若い女性にウツツを抜かしている間に、イタリア経済はギリシャに追いつけ追い越せとばかり、破産への坂道を転げ落ちて行ったのはつい最近のことです。
そして、登場したのがマリオ・モンティ氏です。
奇妙なのは、マリオ・モンティさんは大学の経済学者で確かにEUの要職で、官僚としての経験はあるにしろ、まるで天から降って湧いたように登場したことです。イタリアは日本と同じように、最大の議員数を獲得した政党が、党内から首相を選ぶシステムになっています。通常、最大議席の党首が首相になりますが、そこで登場したのが"市場理論"です。
これがまた私のアメリカ的民主主義、しいては西欧の最大多数の最大幸福的な基準で測れない理論なのです。イタリアの経済危機は、ゆっくり選挙運動などして、与党と野党が遣り合っているうちに壊滅する、いわば崖っぷちに追い込まれた軍隊をどう立て直すかという、清水の舞台から飛び込むような覚悟で、与野党一緒に大学教授のマリオ・モンティーを首相に引っ張り込んだようなのです。
首相の指名、認定権というものを、野党の大統領・ナポリターノ氏が持っており、従来、多数党の党首を形式的に任命したのですが、今回は大領領権を発動して、スーパー・マリオを登場させたことのようです。
このマリオさん、スーパーと呼ばれるだけあって、今まで歴代の首相たちができなかったことを次々と始め、本人でさえこんなに支持率が高くなるとは思わなかったと打ち明けるほど、改革に成功しているようなのです。
まず、元々マリオさんはどこの政党にも属していないのですから、学者、経済人中心の内閣を組閣して、邁進し始めたのです。
そして、9ヵ月経ちましたが、彼がやったことは、一般のイタリア人にとっては生活が苦しくなるようなことばかりなのです。ガソリン税の増税、年金受給年齢を遅くする、銀行預金への課税、様々な政府援助金(新聞社は発行部数により政府の援助金が貰える)の削減などなど、実に細かいところへの出費を減らし、さらに細かく税金を課税しています。
基本的には出費を減らし、収入を増やすという、一般の家庭と同じく、分かりやすい政策ですが、これほど言うは易し、行うは不可能に近く難しいこともないでしょう。
ところが、彼の政策が効を奏しているのをヨーロッパ、西欧が認め始め、「市場」が安定し、イタリア国債が持ち直してきたのです。
そこで、次はイタリア経済のガンともいえる中世のギルドのような既得権の整理、オープン化に手を付けました。元々、労働組合が強く、社会主義的論評が幅を利かせているイタリアですから、猛然と新聞社への補助金をカットして、反対運動を展開し始めたのです。
公証人(公証人の方が弁護士より数も少なく、なかなかなれない)、弁護士、薬局、さてはてタクシーの運転手まで、自分の利益を守るため、数を自分たちで決め、誰か死に、欠員がでない限り補充しないやり方は、イタリア経済を損なうという、もっとオープンにすべきだという、もっともなスパーマリオ的な改革なのですが、これがとても難しいようなのです。
スーパー・マリオが、どうして今までの政治家が手をつけることすらできなかった問題に大鉈を振るうことができたのか、答えは簡単で、彼は次の選挙のことを全く考えなくても良いからでしょう。誰も巨大な票田である様々な労働組合を敵に回したくないし、膨大な政治献金をしてくれる企業に不利な政策はとりません。
スーパー・マリオは首相になった当初から期限を2年に限り、その後は一市井人に戻ると言明しています。一種、期限付き独裁者なのです。
英語で「フルムーン」、とか「ムーニング」はお尻をペロンと出して、相手方に見せることを意味します。そして、フルモンティというのは、お尻だけでなく、男性の前の方も見せることです。同時に自分のあるものを、すべてさらけ出す意味もあります。
「スーパー・マリオがフルモンティでやってきた」と騒がれ、評価され、非難されていますが、衆愚政治に陥りがちなこの頃の"民主主義"のあり方を観ていると、フルモンティで駆け抜けるスーパー・マリオ、マリオ・モンティ、イタリア首相がとても鮮やかに見えます。
そして、フルモンティのスーパー・マリオは、プロの政治家がいかに保身と利権だけで動いていたか、議会政治がいかにお金と時間ばかり食って決定力を失っていたかを教えてくれたように思います。
一体、プロの政治家って何なんでしょうね。
第273回:アメリカの乱射事件と銃規制
|