のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第426回:アメリカの暴走族"モーターサイクル・ギャング団"

更新日2015/08/13



私たちが日本に帰るとき、何時も義理のお姉さんのアパートを基地にします。札幌の中心部と郊外の団地の中間にある、マンション街で、地下鉄もJRの駅も近く、とても足の便のよいところです。当然、市街地の騒音から逃れることはできませんが、それも慣れの問題で、睡眠を妨げるほどではありません。

ところが、週末の真夜中になると、騒音事情は一変します。超大型のバイクが何十台か物凄い爆音を鳴らしながら行き来きするのです。まるで戦車が攻めてきたようなのです。お巡りさんは一体どこに隠れてしまったのか……、暴走族は自由に走り回っています。

何度か通りまで降りて眺めさせてもらいましたが、やせぽっちの若者が、よくあの体で超大型のバイクを操れるものだと感心しました。きっと、一週間働いて週末になり、ソレッとばかり仲間と街に繰り出すのでしょうね。

アメリカのハイウエーで出会うバイク族、集団でドッドッドッと低音を響かせ、ハーレーダヴィッドソンに跨っているのは、決まり切ったようにデブで白髪もしくは禿げ頭にバンダナなんぞを締めた中年以上のオッサンです。そして、このハゲ白髪ハレー組みは暴走族とは違い、やたらに遅い、ゆっくりしたスピードでハイウエーを走ります。

うちの仙人は、「あいつらの運動神経は遠のむかしに消滅しているから、ノタノタ運転しかできないのだ」と言っています。若者の姿が見えないのは、大型のハーレーダヴィッドソンが車以上に値が張ることもあるでしょうし、そのようなライダーズ(バイク同好会)はある程度のお金持ちの遊びと相場が決まっているからでしょう。

コロラド州では、ヘルメット着用が義務付けられていませんから、金ビシを打った革ジャンにハゲか白髪にバンダナを絞める、というスタイルが定着しており、そんなスタイルで10台、20台の集団でハイウエーを占領しています。占領と書きましたが、彼らのスピードが異常にノロノロで、あまりにも遅く邪魔になるからです。

若者のライダーは、爺さん連中が徒党を組んでツーリングしているのを尻目に、一人で、しかもヘルメットを被り高音のエンジン音を響かせ軽快に車をスイスイと追い抜いて行きますので、すぐにそれと分かります。ご老体のハーレーダヴィッドソン集団、集団を嫌う若者のライダー、どちらも自分流のやり方で大いにアメリカン・ハイウエーライフを楽しんでいるのでしょう。オッサンハーレー族、若者ツーリング高速バイク乗りの両者は、ともに旅先、どこで出会っても気持ちの通じ合える楽しい旅の仲間です。

ところが、アメリカにはもう一派のバイク気違いグループがおり、それが様々な問題を引き起こし、三面記事を賑わしてくれます。ヘルスエンジェルなどでおなじみのモーターサイクルギャング団です。

先月の7月17日、テキサス州のワコー(Waco, Texas)で二つの暴走族グループが銃撃戦による抗争を繰り広げ9人死亡しました。このバイクギャング団は、麻薬、マリファナ、お酒などの密輸に手を染め、OMG(アウトロー・モーターサイクル・ギャングズ)というイタリアマフィア、ロシアマフィア、中国人マフィアと同格のカテゴリーに立派に入るほどの勢力を誇っています。

FBIの調書によると93グループあり、今回派手な撃ち合いを演じた二つのギャングメンバーは900人に昇るとあります。今回、ワコー市で争ったのは、旧勢力のバンディドス(Bandidos;山賊)と新勢力のコサックス(Cossaks)で、郊外の『コンフィデレーション・クラブ』というレストランの駐車場が戦場?になりました。駆けつけた両軍の援軍を入れると300人ほどの暴走族が、派手な撃ち合いを展開し、9人が即死、被弾した者が多数出ました。

悪いことに、テキサス州では拳銃など銃火器が野放しの状態で、バイク乗り、暴走族が大型の拳銃、ライフル、重火器を持っていても、それ自体罪になりません。それらを不適切に使用し、人を殺傷して初めてお巡りさんが乗り出すことになります。

私の目から見れば、イラク戦争用の戦車のような警察の車が出動し、始めてこの暴走族の抗争が静まりました。こうなると警察側も大手を振って逮捕に踏み切れるのでしょう、逮捕者は190人を越えたといいますから、暴走族ギャング団、両者とも壊滅的な打撃を受けたと思っていたところ、両方のグループのスポークスマン(報道官、そんな担当者がいるのも驚きです…)が堂々とインタヴューに応じ、記者会見を開いているのです。

"私たちは善良な市民であり、法律を破るような行為は一切していない、今回の抗争は全く、偶発的な事故である云々…"とぶち上げたのです。おまけに余程豊かな資金を持っているのでしょう、逮捕者のほとんど全員が保釈金を払い、また超大型バイクに跨り走り去っています。

こんなアメリカの本格的?な暴走族ギャング団に比べると、なんだか日本の暴走族が可愛らしい腕白小僧の遊びのように見えてきます。

 

 

第427回:山登りの勲章と山ファッション

 

 

このコラムの感想を書く

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで
第201回~第250回まで
第251回~第300回まで
第301回~第350回まで
第351回~第400回まで

第401回:日本のお茶のことなど
第402回:アメリカと外国の医療費の違い
第403回:『ハラキリ』と言論の自由
第404回:アメリカ人、2億総鬱病
第405回:遠きキューバ、近きキューバ
第406回:中国からの移民? or 侵略?
第407回:国有地って誰の土地?
第408回:合法化が進む同性結婚
第409回:増加する女学生と男性優位社会
第410回:どうしてアメリカが世界の嫌われ者になったのか?
第411回:授業料のインフレと学生ローンの実態
第412回:緑と空気とクリーンエネルギー
第413回:川の水と大気汚染の関係
第414回:求職活動とジョブ・フェアー
第415回:ジャンク・コレクターの救世主
第416回:旅行の準備の仕方が変わりました
第417回:日本語講座の"センパイ"、デイナさんのこと
第418回:消すことができない核の爪跡
第419回:山郷の春~サイクリング・シーズン
第420回:コロラド州のマリファナ解禁は順調!?
第421回:雪不足と庭の緑の芝生の関係
第422回:自然回帰運動とグリスリー熊
第423回:"アフリカ系アメリカ人"受難の年
第424回:電気自動車の開発と大手石油会社
第425回:アイデンティティー(Identity)とは…

■更新予定日:毎週木曜日