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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第427回:山登りの勲章と山ファッション

更新日2015/08/20



このコラムが掲載される頃には、私は長い夏休みを終え、また仕事に戻り、どうしようもない生徒さんたちと格闘していることでしょう。長く楽しかった夏休みは、とかく後遺症が残るものです。

今年の夏は、チョット大げさに言わせてもらえば、山登りで"大いなる成果"をあげました。 コロラドには14,000フィート(4,267メートル)以上の山が54峰ありますが、それをいくつ登ったかが奇妙な勲章になります。自慢になるのです。山で出会う人にも、14,000フィート以上の山(これを"フォーティーナーズ"と呼んでいます)に幾つ登ったかと尋ねられます。

私たちは中高年層の(うちのダンナさんは超後期高齢者の範疇かしら)、ただの山好き、キャンプ好きだけのアウトドア派ですから、フォーティーナーズをいくつ登ったとか、54のフォーティーナーズ全部登ろうという意図はまったくありません。逆に4,000メートル以下の山でも孤高であったり、自然条件が良く、美しい山、楽しく登れる山を沢山体験しているのですが、そんな山々が話題になることはほとんどありません。

と言っておきながら、今年の夏は、私が6峰、ウチのダンナさんは8峰のフォーティーナーズに登ったと、つい自慢気に言ってしまう当たりが、アマチュアの山歩き人間の性(サガ)なのですが…。 

私たちが登る山は、どれも私たちの体力と登山技術に見合った山ばかりで、岩場や雪渓でハーケンやザイルを使わなければならない山ははじめから省きます。いくら魅力的な山でも登山ルートがないような山、自分でルートを見つけ、造りながら登るような山もご辞退します。

とはいってもコロラドの山での森林限界はおよそ3,500~3,600メートルですから、それ以上のところは瓦礫というのでしょうか、タラスと呼ばれている大小の石コロばかりになってしまいますので、そこから先はなんとなく登りやすそうなところを自分で見つけて四つん這いになって、這うように登ることになります。

山歩き、山登りの良いところは、他人との競争ではなく、自分のペースでコツコツとやれることでしょう。とは言っても、ウチの仙人とたった二人のパーティーでも相手のペースに合わせたり、離ればなれにならないよう、多少がんばって相手に付いていかなければなりません。

うちの超高齢者の仙人は、年老いた山ヤギのようにどういうわけか、岩場、タラスに強く、急なところをヒョイヒョイと休まずに乗り越えていくのです。彼に付いて行くのはとても大変なのです。時々上から、もう少し右の岩を回った方が良いぞ、とか声がかかりますが、ほとんどうるさいことは言いません。 

普段私たちが住んでいるのは、標高約2,000メートルくらいのところですので、薄い空気に慣れているのでしょうか、最新の山ファッションに身を固めた若い人たちがこれまた最新技術の粋の軽い酸素ボンベ、酸素マスクを付けてさえも、ヘコタレテいるのを尻目に、「もう少しですよ、がんばって~」とか声をかけ、追い越すことが多いのです。結果的に私たちの方がはるかに早く山頂に立つことになります。

若者だけではありませんが、最近の山ファッション、衣服や道具はすばらしいデザインで、しかも軽く、イロドリも良く、本当にかっこよくできでいます。まずは"道具立て"からその道に入る人が多く、ショーバイもそんな人たちを目標、カモ?として狙っていますから、毎年のように、発表される新車のごとくモデルチェンジし、購買力を煽っています。

山を降りてテントに戻り、大きなキャンプファイアーをおこし、その前に座り、ワインを傾けながら、うちのダンナさんと私たちの服装の酷さが話題になりました。山登りのために自分で"新品"として買ったのはハイキングブーツ(これは二人とも3足履きつぶしています)とバックパックだけだったのには驚きました。後は、救世軍の払い下げの店、お下がり、私たちが余りにみすぼらしいナリをしているためでしょうか、プレゼントされた小道具、ナイフ、手袋、ジャケットなどで身を固めていたのです。

私の服装はスキーの時とまったく同じで、20年前のスタイルです。ダンナさんの方はもっと酷く、裾がボロボロになっているだけでなく、何箇所も穴の開いている救世軍の払い下げズボン、洗濯のし過ぎで原色が判明できない作業用のフラネルシャツ、それに野球帽に日本手ぬぐいを頬かぶり、頑丈一点張りの旧式なスキー用スットックの輪を小さく削り、山用に転用したポール、バックパックもガムテープで応急処置を重ね、永久処置になってしまったツギハギ、羽毛のジャケットは山の家に越してきたとき、前の住人のお爺さんが置いていったもので、これも背が何箇所も裂けたのをやはり何箇所もガムテープで修理したものなのです。まるで"ホームレス、突如山に現れる"のようなスタイルなのです。

ダンナさん、火の前で、「ウーム、この登山用に改造したスキーのストックも、若い人が持てば登山用ポールで老人が持てば"杖"と呼ばれるのかな」と真っ白なアゴヒゲをなでながらつぶやいていました。そして、「そういえば、俺が今はいているパンツも、オメーの親父か死んだ叔父のモノだな~」と自らあきれ返っていました。

なにも、そこまでやらなくても山歩きは、道具立てから物事に入るという貧しい精神さえ捨てさえすれば、必要なのは足に合った靴だけで、お金のかからない高齢者向きの余暇なのですよね。

 

 

第428回:ファーストフッドは不滅です

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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