第76回:ガソリンが値上がりしても良いことはある
更新日2008/09/04
アメリカ人は車なしでは暮らすことができません。ニューヨークやシカゴの下町に住み、通勤に公共の乗り物を使える人はむしろ例外です。
私も学校まで片道40キロほどを小さなホンダの乗用車で通勤しています。ガソリンを入れるたびに、「ムムムッ、また値上がりしている」とホゾを噛んでいます。春や秋には、私も自転車をこいで学校に通いますが、夏と冬はチョット無理です。汗をびっしょりかいて教壇に立つわけにもいきませんし、冬、零下10度の凍りついた道路で自転車に乗るのは、命がいくつあっても足りません。
2、3ヵ月前から目に見えてはっきりと小さなバイク、スクーター、自転車が増え始めました。ガソリンが高くなったための自衛手段です。地元の自転車屋サンは大繁盛で、自転車を組み立てる人を大募集し、猫の手を借りたいほどの大忙しだそうで、こんなことは初めてだと、うれしそうにテレビのインタヴューに応えていました。小さなバイク、スクーターは6ヵ月待ちの状態だそうです。
考えてみるまでもないことですが、今までアメリカ人は安いガソリンの上に胡坐(あぐら)をかいて、モータリゼーションを当然のこととして安易に受け入れすぎていました。ですから、ここで"車離れ"をするのは良いことでしょう。それによって空気の汚れも少しは抑えられるでしょうね。というわけで、ガソリンの値上がりに愚痴をこぼしていてもしょうがありませんから、ガソリンが値上がりして起こりえる良いことを並べてみます。
営業用とか運送会社の車は別にしても、通勤の車だけでも、20~30パーセントの人が車を使うのを止め、自転車やスクーターで通うとなると、影響はとても大きなものとなるでしょう。まず大気の汚れは少なくなるでしょう。おまけに車を通勤に使わないと、車の保険料も安くなります。どこの保険会社でもプレジャー使用の車、ショッピングと教会に行くだけなら別料金の保険を設定しています。大きな金額ではありませんが、すこしばかり家計の助けになります。
そうなると、何でもかんでも車に頼っていた人たちも多少体を動かすようになり、アメリカのデブ問題も減るでしょう。健康にも良いと言うわけです。
車を経済速度で運転する人が多くなったので、すでに交通事故も減っています、これもガソリン値上がりの良い結果です。
ある会社は通勤にかける時間を縮小するため、すでに週4日制を実施しています。その会社では病気で休む人が減り、遅刻も少なくなり、生産性が上がったと自画自賛しています。
トラック輸送費がこれだけ上がると、長距離輸送をしていてはモトが取れない作物がたくさん出てきます。私の住んでいる谷間の町は、果物、桃、さくらんぼ、梨、ブドウ、メロンがとてもおいしいところです。ですが、今まではそれらの一級品はロスアンジェルスや東海岸の大都市に送られてしまうことが多く、地元の人の口に入りませんでした。ところが今年は輸送費の値上がりで、地元のものが食べられるようになったのです。
ロッキーフォードのメロンは、日本の夕張メロンくらいアメリカで有名ですが、日本でなら5,000円はする大玉メロンが1ドル27セント(約150円)で買えるのです。パラセイドの桃や梨、グリーンリヴァーのスイカなど、名産果物が例年より大量に安く出回っています。オレッサ産のスイートコーン(とうもろこしにも名産があるのです)は、なんと10本で1ドルです。
新鮮な野菜、果物は、やはり地元で、その季節に食べるのが一番です。それがどうにか可能になったのは、ガソリン値上がりのおかげです。
町でも公共の乗り物を多く走らせるようになりました。乗客数はすでに20パーセントアップだそうです。これを機会に公共の交通機関を誰もが使うようになるといいのですが…。
日本には「風が吹くと桶屋が儲かる」という諺(ことわざ)があるそうですが、ガソリンの値上がりが回りまわって、私たちの生活のスタイルを変え、最終的にプラスに働くような生き方をしたいと思っているのですが……桶屋さんのような仕事、生き方はないものかしら?
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