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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第679回:新型コロナ、山火事~災難の年

更新日2020/10/15


今年、2020年は正月から2ヵ月間、スキー三昧で過し、その足で日本に向かう予定でした。それが新型コロナで流れ、6月に楽しみにしていたドイツのバッハ音楽祭も中止で、何もかもが狂ってしまいました。

これを不幸中の幸いと吹聴しても許されると思いますが、今年の1月から私は引退し、年金生活者になっていましたから、授業のために下界に下りる必要がないのです。これを幸運と呼ばずにおられましょうか。山小屋のある台地にいて、シカやキツネ、ウサギ、野生の七面鳥、リスが新型コロナを運んでこない限り、コロナに感染するチャンスがまず少ない生活ができるのです。週一回の買出しだけが、濃厚ではなく遠隔接触の危険性がありますが…。

アメリカ人も変わりました。マスクに対する認識、見解?のことです。ほんの半年前まで、日本人、中国人が街中でマスクをしている映像は、異様に思われていたものです。ところが、マスクがすっかり定着し、スーパーの中でマスクをしていない人の方が白い目で見られるようになってきました。

新型コロナ騒ぎが大きくなってきた時、それに追い討ちをかけるように、山火事が発生しました。年中行事になってしまったカリフォルニア州だけでなく、オレゴン州、そしてコロラド州まで飛び火し、私たちが住んでいる高原台地とコロラド川を挟んだ向こうのパイン・ゴーチと呼ばれている地域が燃え、それが3週間も続いたのです。

この山火事はコロラドの歴史始まって以来、最大のものとなり、13万9,000エーカーを焼き尽くし(北アメリカ大陸を東西に結ぶ幹線道路I-70(インターステイト・ハイウエイ70号線)が閉鎖されるまでになりました。この谷間の町グランド・ジャンクションは、デンヴァーと結ぶ主要幹線道路である70号線が輸送の大動脈、生命線ですから、それが閉鎖されるとすぐに郵便物が届かなくなり、スーパーの棚からモノがなくなり、どうなることかと心配させられたことです。

カリフォルニアの火事だけでなく、地元の火事で、コロラドの“売り”である抜けるような青空がスモッグで灰色、ベージュに濁り、テラスは白い灰を被り、裏山ですら、稜線が見えないほどの濁った空気が空全体を覆ったのです。大気の質、状況で気象庁が汚染状況を“安全” “注意” “警告”などの段階別に警報を発します。エアコンのある家やビルディングの中にいるようにと警告されても、人間呼吸せずに生きていられませんし、エアコンのフィルターで煙がどれだけ取り除けるのか疑問です。日本でかなり前から売りに出ていた空気清浄機が爆発的に売れ出したりしました。風吹くと桶屋が儲かるの図式現象が起こったのです。

私たちは、スモッグが届かない高い山に逃げることにしました。火山の爆発噴火と違い、山火事の煙は風に乗り、地表を覆う??であろうから、3,200~3,300メートル以上なら、空気が良いはずだ、汚れた空気に覆われた下界?を、「アッハッハッ、可哀相に、町の人はあんな空気を吸っているんだ…」と眺めることができる…と思ったのです。

私たちが行く山は、人の行かない不便なところが多く、間違っても“ロッキーの名山100”に数えられる山には行きません。テントを張るのは、まず周囲2、3キロに人跡がないところ、森林限界のギリギリの場所です。ところが、ところがなのです。どこへ行っても、カリフォルニア・ナンバーの車、キャンパー、ATV(四輪駆動のどんな悪路でも入っていけるバギー)が群れをなして攻めてきているのです。

ロスアンジェルスの東サンベルナルドからやって来た人たちに訊くと、大気の汚れが酷く、とてもあんなところで息ができない…だから逃げてきた、煙突の中で暮らせるか? と言うのです。もう一家族は、リバーサイドから来ていましたが、新型コロナで子供たちの学校も閉鎖され、彼らの仕事も休止状態なので、コロラドに来るのに丁度良かった…と言うのです。

コロラドがカリフォルニア・ナンバーの車で溢れているとは言っても、そんなことができる人、許される人はごく一部なのでしょうね。大半の人は、煙った町、郊外で身動きが取れずにそこに留まっているのでしょう。アメリカ中西部を襲った大砂塵=ダストボールでオクラホマ、テキサス、カンサスから大量の移民が、カリフォルニアを目指し、移動した現象を思い起こさせます。

このアメリカ中西部を襲っている山火事、野火をインターネットの山火事発生地図で見ると、500ヵ所以上もあり、航空写真は煙だらけです。何年も続いている異常乾燥、雨不足で、大地も木々もカラカラに乾いていますから、チョットしたきっかけ、ほとんどが落雷のようですが、木と木が風で擦れる自然発火、タバコの吸殻のポイ捨て、キャンプファイヤーの不始末などで大火事に発展してしまうのでしょう。私たちも、この3年間、ダンナさんが大好きなキャンプファイヤーを一度もやっていません。

ゾロアスター教の神様は(火を崇め奉る古代の宗教は、日本では拝火教と言うと、物知りのダンナさんが入れ知恵してくれました)、火に覆われた大地を見て何と言うのでしょうか? 「そりゃ、オメ~、拝火教と言うのは火を崇めるけど、空気を汚さない、自然を壊すようなことは罪だという、アニミズムから発展した宗教でなかったか。日本古来の山や木々に精霊が宿る自然崇拝と共通したところがある…と思うけどね…」、さらに付け加えて、アンチ・クリスチャン的なところが大いにある彼は、「自然に対する配慮が信仰に取り入れられてないのは、キリスト教くらいのモンじゃないかなぁ…」 とノタマウのです。

そして、中国に入ったゾロアスター教の仙人、旱魃の時、雨を降らすのを得意とした“不空菩薩”という修行者が現れ、水の仙人になったというのです。どこかアメリカインディアンの雨を降らす“メディスンマン”に似ているではありませんか。水の仙人、“不空菩薩”は、天を舞う竜を秘密兵器として使い、雨を降らせたと、これまたダンナさんの入れ知恵です。

この頃、ロッキーの仙人と自称し出したウチのダンナさん、「仙人なら雨を降らせ、山火事を消してみせてよ…」と言う私に、「オメ~、俺はそんな低俗な現世ご利益などは眼中にないのだ。高い精神性、解脱、悟りを目指しているんだぞ~」と、マ~、何とでも理屈は言えますからね…。

この旱魃を終わらせてください。雨、雪が降ってくれるなら、もう、どんな宗教でも受け入れたい心境になってきました。

-…つづく

 

 

第680回:コロナ経済援助金の正しい使い方

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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