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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第333回:捨てる文化と捨てることができない人

更新日2013/10/17



賞味期限の表示があらゆる食べ物に現れたのは、アメリカではそれほど昔のことではありません。1970年代になって、それまでプロの食料管理局の人だけにしか分らないマーク、記号を止め、誰にでも分かる製造年月日を明記するように政府が指導し始めてからだといいます。 

日本語の賞味期限というのは実に上手い言い回しで、その期限が過ぎ、時計の針がカチンと翌日になったら、もうダメ…というのでもなく、おいしく、安全にいただくにはこの期日以前に召し上がってください…と優しく説き聞かせているニュアンスがあります。でもこの言葉も使い方によっては、女ざかりの女性を捕まえて、あの人はもう賞味期限がとっくの昔に切れている…などと言うと、言われた本人はさぞ傷つくことでしょう。

米語ではUse by best before Oct. 10. 2013, とかSell by -----、Enjoy by before ---と書いてあり、その期日が過ぎたら、危ないから食べるな…とは一言も書いていないのですが、一日でも過ぎると、ほとんどのアメリカ人はその食品を捨ててしまいます。

もともと、期限など凡その目安で、科学的な根拠が薄く、期限の2日前なら大丈夫で、2日後なら危ないという性格のものではありません。とりわけ、肉のパッケージなど、たとえ期日以前でも、夏の暑い盛りに買った後 オープンのような車に積み、1、2時間のドライブで家まで持ってくると、それだけでもかなり傷みが早くなるでしょう。

賞味期限などの期日が明記されているような、準加工食品、保存食品が多くなったのは、私たちが個人で、アッ、これは危ないから止めよう、捨てようと、臭いや手触り、色などで判断できなくなったからでしょう。どうしても表示に頼るパケージ食品が多くなってきたのです。そこで勢い、賞味期限が過ぎた食品はゴミ箱に直行することになります。

アメリカの一般家庭で平均15%から25%の食べ物がそのような形で捨てられているといいます。金額にすると、一軒の家庭で年1,560ドル相当の食べ物が捨てられていることになるそうです。これは実にユユシキ浪費で、世界の四分の一の人が飢えている現実の前で、アメリカ人だけがバンバン食べ物を捨てているのです。

逆に全く食べ物を捨てることができない、私の両親のような人もいるにはいます。私の父と母は極端な溜め込み主義に陥っており、大きな冷凍庫はまるで神殿です。老人二人だけで暮らしているのに、牛、半頭を買い、卸してもらい、小さなパッケージにし、すでに満員の冷凍庫に押し込んだりしているのです。

それが牛肉だけでなく、大きな箱で買ったほうが安上がりだといういう理由で、大型スーパーで買った、ピサ、ラザーニャ、バーベキュウ用に味の付いたブタのアバラ肉5、6枚、自分の畑で採れたトマトの瓶詰め、グリーンビーンズの瓶詰め、とうもろこし、りんごジャムなど、五つある冷凍庫、冷蔵庫はいつも満員です。

そして、賞味期限が一年以上切れたものから、捨てるのがモッタイナイからと、古い順に食べているのです。中には凍傷にかかったように、白く乾き切った4年前の冷凍肉があったりします。彼らはどんなものでも、冷凍すれば永遠に持つと信じているのでしょう。私が帰省した時、古い冷凍食品をドンドン捨てたところ、お父さん、それをまた、ゴミ箱から回収して冷凍庫に戻していました。困ったことです。

私たちが今住んでいる山の家を購入した時、この広大な山地に小屋が11軒ほど建っており、他に食料保存用の地下の倉庫と完全に断熱し、冬に凍結しないように建てられた食料保存庫がありました。そのすべてにモノがギッシリと詰まっていたのです。

ここでは話を食べ物だけに限りますが、大きなドラム缶6本の小麦粉、砂糖もドラム缶1本、小屋の中にあった大型冷凍庫に腐った肉いっぱい(恐らく400-500キロはあったでしょう)、大きな箱4、5箱のチョコレートスナック(これはネズミに齧られていました)、ありとあらゆる缶詰め30-40箱、7、8種類の豆類も中型のドラム缶に10本くらいと、10人程度の南極観測隊なら、4、5年越冬できるほど溜め込んでいたのです。

それらは、いずれも賞味期限が遠の昔に過ぎたものばかりでしたから、ダンプトラックに来てもらい、すべて捨てました。小屋も程度の良いものを2軒だけ残し、すべて倒しました。

結局、モノを溜め込むことは、最後に捨てることになると思います。チョット手間隙がかかり、主婦には面倒なことですが、その日食べる分だけ、市場で新鮮なものを毎日買って食べるのが、一番無駄のない生活なのでしょうね。

今、盛んにキャンペーンなどをしている『土地のものを食べよう』運動も、一昔前の日本では当たり前というより、それしかなかったのでしょうけど、一番健全な食生活だったと言って良いでしょう。

放っておけば自然に腐るモノ、保存するためのいかなる加工もしていないモノを新鮮なウチに食べるのが基本なのですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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