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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第756回:コロナが流行れば……が儲かる

更新日2022/05/26


この表題は“風が吹けば、桶屋が儲かる”という日本の諺をもじって、命名しようとしたのですが、どうにもピッタリ当てはまる単語が思いつかず、“……”にしてしまいました。わざわざ会社に出向かずに、自宅で仕事ができる、そのために“Zoom”の会社が“ブーム”になった(これシャレになっていませんか?)ことを以前書きました。

アメリカだけではないでしょうけど、ガソリンが40~50%も値上がりし、車社会のアメリカ人の一番の泣き所を突いてきました。これをロシアのウクライナ侵攻のせいにしていますが、アメリカはロシアから天然ガス、原油を含めて3%前後しか輸入していませんから、いきなりガソリンが40~50%も値上がりするのは、どうにも納得できません。大手の石油会社が牛耳っているエネルギー業界が大いに絡んでいると睨んでいます。

トラック輸送が大きな割合を占めるアメリカでは、ガソリンの値上がりは即物価のすべてに響きます。スーパーで買う食糧、日常生活品に始まり、建築資材まで値上がりしています。当然、飛行機の運賃も上がり、ホテルまでも便乗値上げして、コロナ・パンデミックの不況を倍返しで稼ごうとしているかのように見えます。

そんな中で、ガソリンを食わない車、電気自動車、経済的なハイブリット車に人気が集まるのは当然のことでしょう。電気自動車の老舗『テスラー』の社主、イーロン・マスクは儲けに儲け、航空宇宙産業に投資するは、終いには余程お金の使い道がなかったのか、47ビリヨンドル(500億円相当でしょうか)で、トランプが愛用していたインターネットの『Twitter』社の買収を図っているほどです。電気自動車も生産が追いつかず、半年以上待ちの注文生産だと言われています。

と、ここまでは不況、ガソリンの値上がりが引き起こしているインフレに直接繋がっているのですが、コロナ・パンデミックで倍増する売り上げを続けているモノは銃火器なのです。アメリカ人の長年のクセで、大統領が変わる、異常気象になる、遠いどこかの国が戦争を始める気配が濃厚だ、地方選挙が近づいてきた、終いには牛肉が値上がりしたなど、およそありとあらゆる理由をつけて危機感を抱き、鉄砲、ライフル、ピストル、機関銃それに銃弾が売れます。

いったい、社会学者はコロナ・パンデミックと鉄砲の売れ行きをどう結び付けているのでしょうか? 
コロナ以前の2019年からコロナが始まった2020年には65%も売り上げが伸びているいるのです。2020年には2,300万丁もの鉄砲、ピストルが売れているいるのです。今現在、一体どのくらいの銃火器がアメリカに出回っているのか正確な数字は掴めていませんが、NRA(全米ライフル協会;National Rifle Association)は4億丁くらいと推定しています。

今回の売れ筋は小型で軽い護身用で、ポケットやハンドバックに入る大きさで、取り扱いが簡単なピストルです。今までのガン愛好会の幅をグンと広げたのだそうです。   

買い手も女性、黒人、ヒスパニック系と、有色人種が増えました。銃規制を敷き、バックグラウンド(前科があるかどうかを調べる)を義務付けている自治体が多くなりましたが、中古の銃、機関銃のように連発式のものまで、質屋、ガンショーで自由に買うことができる上、ありとあらゆる重火器をパーツで注文でき、それを組み立てて、シリアルナンバーなしの銃を持てるのですから、跡が付かない武器が出回ることになります。

この組み立て式の鉄砲、インターネットで覗いたところ、文字通りスクリュードライバー一本で簡単に組み立てることができるとあり、所要時間は10分程度で、大型の機関銃(セミ・オートマチック・アサルト・ライフル)で30分間とあります。このような部品の通信販売に規制はありません。

当然の帰結ですが、銃で殺された人の数もうなぎ登りで、3月16日から4月15日までの1ヵ月間に45人が亡くなっています。と書いていたら、ニューヨーク州、バッファローのスーパーマーケットで黒人だけを狙い撃ちし、10人も命を落としてしまいました。犯人は白人至上主義者で、アメリカから黒人、ヒスパニック、ユダヤ人、アジア系を撲滅しようとしていました。そんなことをしたら、アメリカという国が潰れてしまいます。そして、カリフォルニアの台湾系の教会でも大量銃撃事件が起こりました。


年、48,000件の自殺のうち半数は銃を使っています。若い人たちが衝撃的に絶望し、身近にある銃を使ってズドンと自分を撃ってしまうのです。これは銃が手元に、家になければ短絡的な自殺に走ることを防げたと思われます。

意図的な殺人ではなく、銃の偶発、暴発事故で年に約500人が死亡しています。これは新しいオモチャを買うと、当然、それで遊びたくなる心理と同じで、新しく手にした銃、ピストルを試し撃ちしてみたくなるのは当たり前のことでしょう。また、親が買ってきたオモチャを子供が触ってみたくなるのも当然の成り行きでしょう。

そこで、母親がハンドバックに持ち歩いていたピストルで、2歳の子供が自分の母親を撃ち殺してしまう事故が起こっています。ヨットで水上生活をしていた時、何人かの退役した警察官、軍人に会いました。彼らが一様に言うのは、警察署内や軍の基地内での暴発事故は非常に多いけど、それらは揉み消され、報告されていないだけだと言い、銃の扱いに長けた彼らでさえ、ピストルなどの銃器類をヨットには積んでおらず、催涙弾が出るガス銃くらいしか持っていませんでした。

銃の暴発事故死は全体の1%にしか当たりません。自衛のために銃を撃ち、相手を殺すか怪我をさせた事件は、どこに“自衛”のラインを引くか微妙ですが、250万件と見られています。そんな微妙な自己防衛のため?の事故が多いのに驚かされます。

駐車場の場所取りで激昂した人が、車のグローブ・コンパートメントに持ち歩いていたピストルで相手を撃ち殺した、庭越しで隣の人と諍いの末、家から銃を持ち出し、お隣さんを撃ち殺した、近所のテェーンエイジャーが流行のロック音楽でしょうか、大音響で鳴らし、いくら注意してもボリュームを下げなかったので撃ち殺した……というような、“小さな”?事件はたくさん起こっています。こんな事件は大量殺人の陰に隠れてニュース種にもなりませんし、新聞、テレビでもあまり報道されません。

何でも世界一でなければ気が済まないアメリカの銃火器による死者は、圧倒的に群を抜いてトップです。

元々、自己防衛のために銃を持つというのは、全くの虚構、嘘です。銃を家に持ち、また、いつも銃を、ピストルを持ち歩く人は、“自分の家族を守るため、自分自身を守るため”と言います。そして、銃を自由に持ち歩く権利は、アメリカの憲法で保障されていると理屈をこねます。

ピストルの誤射、暴発事故の方が、銃を持っていたおかげで自分を守ることができた件数をはるかに上回っています。と言うより、家に、車に銃があったおかげで助かった例などほとんどないのです。

そして、銃を持ち歩く人、家に何丁もの銃を持っている人、ましてや枕の下にピストルを入れて寝ているような人は、性格破綻者というのでしょうか、とても精神の弱い人、自信のない人、些細なことでも自分が馬鹿にされたとカッと頭にくるタイプが多いと思います。そんな人がいきなりピストルを持ち出せば、相手もそれに応じることでしょう。

自己防衛のために銃を持つのはお巡りさんと自衛隊に任せておくべきです。と書いてから、ウクライナに侵攻したロシアの軍隊も、祖国防衛軍という名前の自衛のための軍隊だったことに気が付きました。最大の防衛は、事前の攻撃だ、という彦を楯に取っての侵略なのでしょうか。

自分に自信のない性格の弱い人が、銃を手にするのはとても危険なことです。
「そんなヤツを一々相手にしていられるか、これぞ逃げるが勝ち。だから、オレ、毎日走って逃げる訓練をしているのだ…」と、ウチのダンナさんノタマッテいますが、彼のノタノタ老人走りでは、誰にでも簡単に撃たれることでしょうね。

-…つづく 

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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