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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第855回:子供たちのアルバイト

更新日2024/06/20


いよいよ長い夏休みに入り、子供たちはどこで、何をして遊ぼうかと手ぐすねひく時期です。それには、まずお小遣いを稼がなくてはなりません。親からもらう週決め、月決めのお小遣いではとても充分ではないからです。それぞれの家庭で事情は違うでしょうけど、一般的にアメリカの家庭ではかなりのお金持ちの家でも、子供たちを働かせます。それとも、家の仕事を振り分け、それに対して僅かな報酬を与えたりします。

アメリカでの典型的なアルバイトは新聞配達ですが、自転車で円筒状に丸めた新聞をポーンと庭先に投げ配るのが筆頭でした。でも、新聞配達は男の子と相場が決まっていました。それに対し、女の子の方はベビーシッターです。中学、高校生にもなると、主に近所とか親類、知り合いの家に行って赤ちゃんの面倒を看るのです。若夫婦が外出している間、何時間か乳幼児、歩き始めた子供の相手をするだけなのですが、必ずと言って良いほど、普段私たちが口にできない美味しいお菓子やコカコーラなどのソフトドリンク(これら、私の家に置いていませんでした)を口にすることができるのも魅力の一つでした。 
 
日本では観られない風景ですが、自分の家の庭先にレモネード売りが登場します。

暑い日に通りかかる人に黄色い声をあげて、「冷たいレモネード、一杯10セント(私の時代ですけど…)。美味しいよ!」と売る光景は夏の風物詩の一つです。でも、それも今は昔のことになってしまいました。これは売る額は小さいのですが、元手は、親がレモネードの素にレモンを少しばかり絞り入れ、大きめのガラスの容器に氷をたくさん入れて準備してくれ、紙コップ、これも通常親が用意してくれます。ですから、元手なしで売り上げはすべて子供たちのポケットに入るのです。あとはピクニック用の折りたたみ式テーブルに、大きな紙にレモネード、一杯何セントと書いたのをテーブルから垂らし、売り子の腕次第で、売り上げが決まります。

私たちも、普段、砂糖がたっぷり入った甘すぎるレモネードなど口にしないのですが、小学生の低学年くらいの可愛い子供が声を枯らして、呼び込みセールスをしているのを観ると、ついついコップ一杯のレモネードを買ってしまいます。もっとも、私の場合は自分自身が子供の頃にレモネード売りをやっていたからという郷愁が大きいのですが…。

アメリカのレモネード売りは1800年代にまで遡ります。しかも郊外の団地の中ではなく、工場の前とかニューヨークの街角にたくさんあったようです。1880年のニューヨーク・タイムズに“氷のように冷たい、フレッシュなレモネードが5セント”という記事が載っていました。当時、インスタントのレモレードなどが出回る前だったのでしょうか、フレッシュとありますから、お客さんの目の前でレモンを絞っていたのでしょう。でも写真を見ると、小学生のアルバイトというのではなく、大の大人が簡単な天幕を張って、街頭ショーバイにしていたようなのです。

レモネード売りがもっぱら子供の小遣い稼ぎになったのは1921年以降ではないかと、もの好きな社会学者が言っています。
 

その昔、モロッコに行った時、そこで肩から掛けた皮袋の水をブロンズのカップで売っているのを目にしました。アレっつ、同じカップで次から次へと色んな人が口を付けて飲むの? 不潔じゃないの…と思いました。私がレモネード・スタンドをやっていた時代には、すでに紙コップ、薄いプラスティックのコップを使っていましたが…。

それでも、衛生観念が奇妙に厳しすぎるアメリカ人は、子供たちが食品(飲料水ですが)を扱うのは不衛生で、食品管理法に触れるのでないかと衛生法を振り回す人が出てきて、子供のアルバイトであるレモネード売りも難しくなってきました。

ですが、多くの州では親がレモネードを作り、親の監視の下で子供が売るのを、マア良いかと黙認しています。テキサス州とジョージア州では、子供のレモネード売りは如何なる法的な規制を受けないと公認しています。それに続き、ペンシルバニア州とニューヨーク州も公認の構えを見せています。
 
ある代議士さんは、レモネード売りは子供たちがモノを売り、経済感覚を掴むと同時に、働くことの意義と喜びを体験する大切な行為だと、大上段に構えてレモネード売り擁護弁論を展開しています。

でも、最近の親は、我が子をたとえ家の前であっても外に出して物売りをするのを嫌う傾向が強く、家の中でコンピューターゲームにうつつを抜かす方を選ぶようになってきました。
 
近年、夏の暑い盛り、レモネードを売る子供たちの姿を見かけなくなり、黄色い声も聞こえなくなり、一体子供たちはどこに消えたんだろうと心配になってきます。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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