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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第877回:日本食は目で食べる?

更新日2024/11/28


と、言うのは外国人?だけでなく日本人も数多くいます。それはちょっとした日本料理屋さんのお座敷でのことで、お膳に並べられた、品数の多さ、綺麗に盛り付け飾られたお料理は、さて一体どこから箸をつけたらいいのか迷わされます。

箸をつけると、なんだか芸術を崩してしまうような気にさせられます。その一つ一つが互いに干渉し合わない、はんなりとした味付けで、全部食べた後に、きれいに平げた自分が信じられないほどです。それでいてお腹にもたれることがありません。大食漢のアメリカ人なら、あれっ、これで終わり? これからメインディッシュが出ないの? と思うかもしれません。

あんなにコチャコチャしたお皿、小鉢、取り皿、お茶碗、お椀と数が多過ぎるのに対抗するように、ラーメンや牛丼、天丼のようにそれ一品の丼ぶりものに人気に集まるわけです。
 
もっとも、普通の日本の家庭で純日本的なお膳の料理を毎日食べてはいないでしょうけど、9月に日本に行った時、義理のお姉さんやウチのダンナさんの友人宅で盛大にご馳走になりました。私はとても台所で料理のお手伝いなどできませんから、せめて皿洗いぐらいはと台所に立ちました。

私たちの家には食器洗い機はありませんが、アメリカの家の90%以上は全自動食器洗い機が備わっています。ですから、食べ終わった後の後片付けは、テーブルから台所まで汚れた食器を運び、全自動食器洗い機に突っ込むだけです。あとは機械が洗い、乾燥し、すべてやってくれます。
 
日本では台所が狭く、場所を取るそんな機械を据え付けるスペースがないせいで、食器洗い機が普及しないと思っていたところ、実際に台所に立って手で食器を洗ってみて、これじゃとても全部一緒くたにして機械で洗うのは無理だと知りました。

ともかく食器の種類が多いのです。それも様々な形の、中にはほとんど芸術的な器もあり、とても全部一緒にして洗うことなどできない食器のバリエーションなのです。

ごく普通の食事でも、お茶碗、お椀、小鉢、取り皿それも佃煮用、煮付け用、漬物用、焼き魚用、サラダ用、果物用、そして最後に飲むお茶の湯飲みと、一つひとつそれぞれの料理に合った小さな食器に盛られます。

これが西欧の家庭なら、一つの皿に各自が好きなように、好きなだけ取り、スープは別でしょうけど、お料理は一枚の大皿で間に合ってしまいます。ですから、お皿とスープのボウル、ナイフ、フォークなどは一緒くたにして食器洗い機に突っ込むだけ済んでしまいます。

食器というでしょうか、道具立ての多さ、その小さな目的のために一々違うウツワがあるのに驚かされ、大恥をかいたことがあります。

大学で様々な文化、伝統を紹介するキャンペーンで、お隣のメキシコをはじめ中南米の国々、そして中東のアラブ諸国、ヨーロッパの国々、中国、韓国、東南アジアの国、その一環として日本的なものを披露することになり、日本人の生徒さんを動員し、着物ならぬあり合わせの浴衣を着込み、まずはお琴を弾いたまでは良かったのですが(私、日本にいた間、相当熱心にお琴の練習に励んでいましたので、大切にしていた私のお琴をアメリカまで持ち帰っていたので…)、それから日本人の女学生が茶道をやろうという意見を入れ、彼女は茶道をやっていた、よく知っているというので、それじゃ、日本文化の真髄、お茶を披露しようと相成ったのです。

この大学に留学している女学生に限ったことかもしれませんが、「私、お琴が弾けます。お茶も知っています」と言うのは花嫁修行でほんのチョット齧った、触った程度のことで、お琴はまるで音楽になっておらず、茶道は猿真似以下なのでした。ちょっと呆れてしまいました。
 
それはさておき、私も何度か経験があるはずの茶道が、あれほど道具が必要だとは知りませんでした。
まず、茶器、これはそれらしきドンブリで代用できます。抹茶は日本から持ち帰っていたので相当古くなっていたけど、香りまで客席に届かないでしょうからそれで十分、でも抹茶を入れる小さな缶は本来なら棗(ナツメ)と呼んでいる木の入れ物に収まっていなくてはなりませんが、遠くからなら缶でも良いだろうということにしました。

そして、茶杓(ちゃしゃく)、抹茶を掬う竹の耳掻きのようなスプーンは、小さめのテーブルスプーンで代用させたのです。服紗(ふくさ)と竹ひごを集めたようなかき混ぜ器(茶筅:ちゃせん)は、日本から持ってきていましたが、肝心の鋳物の茶釜と竹の柄杓(ひしゃく)はどうしたものか随分悩みました。しかしながら、結局ないものはない、あるもので間に合わせる方針に従い、電熱器に蓋のついたお鍋を置き、竹の柄杓はステンレスのソーススプーンを使ったのでした。

柔道、合気道、空手、防具の必要な剣道まで“道”のつく日本文化は広がっていますが、どうにも茶道だけは広がっていません。一つにはお茶を一服すするのにどうしてあんなに細かい作法を経なければならないのか、そしてこまごまとした道具が必要で、その上、椅子やソファーに腰掛け、ふんぞりかえってテーブルの上のお茶を飲むわけにいかず、それだけのための和室、茶室で正座して、一、二回だけススルだけのために、とんでもない数の道具と複雑な作法を経なければ味わえないのか、外国人にとっては誠に不可解なのです。

今日び、アメリカのスーパーのどこでも缶入りの抹茶、スターバックスでさえ抹茶コーヒーを売っているのです。茶道をコーヒー、紅茶に比べてみるまでもないでしょう。まあ、せいぜい口うるさい英国人が紅茶を飲む時、カップに牛乳が先か、紅茶が先かを議論するくらいのもので、とても紅茶道やコーヒー道にまで発展していません。
 
今思えば、私たちが披露した茶道は、これぞ本当の“茶番劇”でした。日本文化を紹介するならアニメクラブ員を総動員して、大きなスクリーンのモニターを使って、日本アニメの歴史、そして未来、日本人の日常生活とアニメの関わり合いなどをテーマにした方が時宜に適っていたのかもしれません。ついでに、メイド喫茶の実演などを挟んではどうでしょう…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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