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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第705回:家族崩壊の危機、非常事態宣言 その1

更新日2021/04/29


父親参りにミズーリ-州に行ったついでに、妹ローリーの家に寄りました。ローリーは看護婦さんで、ダンナさんのマークは軍、警察官を経て、電話会社の“スプリント”で働いていました。でも、早めに引退し、50~60年代の古い車を蘇らせることと料理に打ち込んでいます。

一人息子のブレイクはコンピューターオタク、日本狂いで3年間文科省のJETプログラムで山形県、新庄に住んでいたことがあります。3年でもう十分かなと思っていたところ、またまた日本熱が盛り返してきて、日本でのシゴトを探していました。語学学校に採用になったのですが、コロナ禍のため採用が延期となり、ついには取り消しとなり少し落ち込んでいました。

父と弟とでローリー一家を訪れ、久しぶりに楽しい再会、そしてマークの得意な料理を堪能したことです。丁度台所をリフォームしており、半ば完成したところでした。ついでに次のプロジェクト、床を張り替えるとか、玄関へのアプローチを造り直すとか、パティオをどうするこうする…と見せて貰いました。ガレージ、車3台分のスペースには隙間のないほどマークのプロジェクト・カーと道具類で埋まっており、実際に彼らが使っている車3台はまったくガレージに入れることなどできない状態でした。マア、これはほとんどのアメリカの家のガレージはそんなもんでしょうけど…。続いて、地下室を見て驚いてしまいました。

地下はまるで田舎の食品店、銃砲店のようだったのです。スチール棚を四方の壁だけでなく、何列か中央にも配置し、その間を肩幅ほどの通路が走っていますが、その棚全部にビッシリと非常用の食料、缶詰、フリーズド・ドライ食品、飲料水、それらが詰まったサバイバルのバックパック、AK15(連射できるライフル)がローリー、ブレイク用にと計3丁、他にもピストル、ショットガン(散弾銃)も何丁か、当然それ用の銃弾、みかん箱サイズのモノが十何箱もあったのです。

そこにある食料だけで、楽に2、3ヵ月は食べていけそうなほどの量でした。おまけにマークが趣味で集めた様々なタイプのガンコレクションがあり、ここに立て籠もって銃撃戦でも始めるのではないか…と思ってしまいました。それに火事にでもなったら、あれだけの量の銃弾に引火し、ちょっとした花火大会に、弾が飛び交うのでかなり危ない花火になるのではないか心配になるほどでした。

非常食やキャンプ用のストーブ、コッフェル、水筒、鉄砲の弾、応急医療品などが入っているバックパックは、それ用になかなか良く造られていますが、試しに持ち上げてみると、片腕ではとてもとても、ビクともしない重さで、一体こんなバックパックを背負って歩けるのは、ブートキャンプ(新兵訓練)で鍛えられた20歳の筋肉マンだけだと思ったことです。妹のローリーなら、第一これを背中にのせたら立ち上がることもできないのではないかしら。

彼らが一体何を恐れて、何から自分たちを守ろうとしているのか全く理解できません。末世思想というのでしょうか、この世の終わりが来る、地球が滅びるという危機感が、インフルエンザのように広がることは歴史の中で周期的に起こっています。危機感を煽るのは簡単なことなのです。それでいて、今まで人類は滅びず、生き延びてきているのですが…。

ノストラダムのどうにでも取れる的外れな予言、聖書にあるノアの洪水、そしてハルマゲドン、中世ヨーロッパを襲ったペスト(これは本当の危機でしたが…)、そして核戦争と世界滅亡がすぐに来ると信じた人がたくさんいました。冷戦=コールドワーの時、アメリカ全土の家の庭に核シェルターが掘られ、そこに埋め込む鉄の箱のような防空壕が売れに売れ、備品のキット、大きな水のタンク、ドラム缶に入った飴玉、乾パンなどの食料、火傷した時に塗るワセリンなど応急医療キットを売る業者が大儲けをしたことがあります。

父はドラム缶に入っていた小石のように硬い飴玉をいまだに持っていて、それを私たちにくれたがり、「そんなモノいらないよ」と断るのも嫌になるくらいです。何分にも父はいかなる食べ物も捨てることができないのです。ウチのダンナさんが、「そりゃ貴重品だ。e-bayに載せれば高値が付くかも…」と煽るもんですから、ますます後生大事に余計なものを抱え込むことになります。

最近ではミレニアム、2000年を迎える時にコンピューターシステムがクラッシュし、それに乗じて反乱が起こる、それに備えよ…と、マコトシヤカに語られ、それを信じる人がたくさん出ました。 

今、私たち住んでいる地所の前の持ち主も、人類滅亡に備えていた組で、家から50メートルばかり離れた森の中に間口6~8メートル、奥行き14~15メートルもある地下を堀り、そこに、小麦粉が大きなドラム缶で8本、砂糖1本、穀物や色々な種類の豆が数本、キャンディーバーやスナックが入ったガラスの大瓶10個以上、ピクルス、他に雑貨類など、呆れ返るほど詰め込んでいました。

その中に、乳幼児用の乳首が100個以上入った広口瓶がありました。その時、前の持ち主、ジョンとルラは70代後半でしたから、一体赤ちゃん用の乳首で何をするつもりだったのでしょうか。もう生めよ、増えよ、地に満ちよ、を実践する歳ではなかったと思うのですが…。

それらを処分するため大枚を払い40フィートのゴミ用コンテナ、天井がないオープンコンテナに来てもらい、3回も運び出したのでした。この地下に詰まっていた食料、非常用の品々を買うため、ジョンとルラはどれくらいお金を費やしたのでしょう、相当な金額になるはずです。その上、それらを捨てるために私たちも出費を強いられたのです。

この高原台地に住んでいる人たちは、各自独立した精神が強く、他の人に助けてもらわず、自分たちが生き延びることをモットーにしているようで、緊急危機用のサバイバル物資を地下室に蓄えている家が多いのです。古いコンテナやスクールバスなどを深い溝に埋め込みそこを貯蔵庫にしているのです。100パーセントと言い切って良いと思うのですが、そのように膨大な食料、サバイバル用品を蓄えている人たちは、必ず銃火器と膨大な弾薬も仕舞い込んでいます。

私たちはそんな備えなど全くしていません。その上、銃火器の類も持っていません。強いて言えば、父が越した時、ウチのダンナさんにくれた“パチンコ”だけす。パチンコは井戸や家の土台を壊す、穴リス、ネズミ退治のためです。ダンボールの箱に何重に丸い的をマジックで描き、10メートルくらいの距離に置いて練習していましたが、その当たらないことは絶望的で、第一、ダンボールの箱にさえ当たらないのです。彼の腕では、穴リスが玉の飛んでいく方向に行ってくれない限り命中することはないでしょう。それが、私たちが持っている唯一の武器なのです。

でも、いざサバイバル的な事態になった時、私たちの方が、実用的なキャンプ道具と食料を詰め込んだバックパックを背負って、どこにでも移動でき、生き残れるのではないかと思っています。

そして、今回のコロナ危機です。

-…つづく

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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