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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第934回:冬季オリンピックの怪

更新日2026/03/05 



冬の間、スキーのために借りている谷間の町のアパートにはもちろんテレビはあるのですが、どういうことになっているのか何十とある映画、スポーツ・チャンネルは入るのに、普通の地上波のテレビ放映は入らず、一日遅れのYouTubeでオリンピック競技を観ています。

フィギュアスケートなど、信じられない超絶技巧を平然と演じるスケーターに驚嘆せずにはいられません。日本とアメリカ勢が多く、イタリア、フランスも追いつけ、追い越せの勢いです。

フィギュアスケートを観ていて、フィギュアスケートの大国ロシアの選手がいないことに気がつきました。オリンピックは政治に左右される祭典だと誰でも承知していますが、ロシアのウクライナ侵攻、戦争に対して、IOCは大前提としてロシアとベラルーシュの国として参加を認めていません。国旗、国歌、国章なしで個人としての参加は認めていますが、ハードルがとても高く、3人のロシア・フィギュアスケーターが競技することを許されているだけです。

しかも、演技を採点する審査員の厳しいチェック、不利なと言い切って良いような採点が下り、ロシア人のグメニックの採点に観衆がブーイングを行ったほどです。でも、グメニック本人は「こうして、参加できただけでも十分価値があった」と大人の発言をしています。

日本はロシアのフィギュアスケート界と密接な、良い関係を築き、続けてきました。ユリア・リプニツカヤのファンは日本に多いことでしょう。優れたフィギュアスケーターがハナから除外され、参加できないのは、ファンにとって、彼らの国の人にとってとても悔しいことでしょう。

フィギュアスケートだけでなく、アイスホッケーでもロシアは最強の国ですから、ライバルのいないアメリカが男女とも優勝して当たり前になってしまいます。

これは、例えて言えば、ロシア人が圧倒的に強いチェスの世界選手権でロシア抜きでやろうというようなもんです。

ロシアがウクライナに戦争を仕掛けている…というのなら、イスラエルのガザ地区への侵攻、爆撃はどうなるのでしょう。そして、アメリカのベネズエラ攻撃は完全な戦争行為です。ロシアを除外するならアメリカこそ真っ先にオリンピックに参加させない処置をIOCは取るべきです。

1980年のモスクワ・オリンピックは西側の60ヵ国もが、ソビエトのアフガニスタン侵攻に抗議してボイコットしています。その後、アフガニスタンをアメリカがタリバン撲滅という名目で占拠しましたが、オリンピックには影響がありませんでした。

1984年のロスアンジェルスのオリンピックでは、多分に西側のモスクワ・オリンピックのボイコットに復讐するかのように当時の共産圏国、ソビエト、東ヨーロッパ、キューバなど14ヵ国がボイコットしました。
 
オリンピックはクーベルタン男爵の思惑とはかけ離れ、政治的に、商業主義に利用されっぱなしでした。ドイツのベルリン・オリンピックはヒットラーが最大限にナチスを宣伝し、効果をあげました。レネ・リーフェンシュタインのオリンピック記録映画『民族の祭典』は本当に素晴らしいモノでしたが…。

オリンピックが国境を取り払う、国籍を超えたスポーツの祭典であるという幻想を捨てる時が来ていると思うのです。

まず、優勝者が国旗を派手に振り回し、競技場を回るのを禁止ずべきだと思うのです。
参加者はすべて個人、あるは団体として競技し、国を担ぎ出さないようにすべきです。
IOCは放映権などで懐に大金が入ってくるのですから、冬季ではグリーンランド、アイスランド、ラトビア、エストニアなど、夏季では、アフリカ、アジアのどんな貧乏国でも開催できるよう、取り計らうべきです。 
 
IOCのあり方をみていると、どうにも西欧プラス一部のお金持ち国、日本、韓国、中国などのエリートクラブ的な臭いが鼻につきます。

前任のバッハ会長の任期満了、引退に伴い行われた2024年のIOC総会で、女性でしかも国籍がアフリカのジンバブエという元水泳の選手だったカーティス・コベントリーが会長に選出されました。とは言っても、彼女は全くの金髪の白人で、とても知的な話し方をしますが、大きな改革をするような人物ではなさそうです。

と言うのは、ウクライナのスケルトン(一人乗りのソリ)の選手、ヘラスケビッチがヘルメットにロシア侵略のためウクライナで亡くなった人々の写真ステッカーを貼っていた件で失格になりました。それに対し、コベントリー会長はルールはルールだとし、失格を取り消しませんでした。それに対し、ゼレンスキー大統領はヘラスケビッチ選手に“自由勲章”を贈り、栄誉を讃えました。

この問題がどうにもスッキリしないのは、スキー、スノーボードなどの競技で、選手が使うスキー、スノーボードにはっきりとメーカーの名前が大きく書かれていて、それを見せびらかすように振り回すのが当たり前になっているからです。ゴーグルもゴムの幅広バンドにメーカーの名前が書かれているし、競技用のスーツ、ジャケットに国の名がプリントされています。あれはルール違反にならないのでしょうか。コマーシャリズムに侵されているのを許し、個人の主張は違反とするのは、どうにも納得行きません。
 
これがヘルメットに自分の亡くなった両親の写真を貼るなら、美談として許されたのでしょうか?

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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