第145回:何でも世界一の国、アメリカ
更新日2010/02/04
ギネスブックに載るような記録は、日本とインドがツバ競り合いをしていますが、統計上の世界一はまだまだアメリカがトップです。
衰えたとはいえ、GNPも一番なら、軍事費も一番、一人当たりのエネルギー消費量も群を抜いて一番、ウルトラデブの比率もダントツでトップ、自動車の保有量、国民の銃火器の普及率(所有量)、それに伴う殺人も圧倒的に世界一と、数え上げればきりがありません。
さらにもう一つ、アメリカが他の国々を引き離して一番の地位を守っているのは、幼児虐待による死亡率です。しかも、どんどん数値を伸ばし、他の追従を許さないほどです。
2001年から2007年までに10,440人の子供が家庭内の虐待で死んでいます。2001年からの7年間で倍になっているのです。その中で4歳以下の赤ちゃんが2,000人亡くなっています。
この数字は、親または同居している年長者、兄弟に明確に刑事責任が認められたケースに限られているので、実際にはこの3倍くらいは虐待で死んでいるのではないかと言われています。死には到らなかったけれど、肉体、精神に大きな傷跡を残している子供たちは、そのさらに何倍にもなることでしょう。
どうしてアメリカがこのようなことになってしまったのでしょう。意図的ではないにしろ、なぜ我が子を殺してしまうまで虐待するのでしょうか。一つの傾向として、このような事件は貧しい20歳未満の親に偏って見られる現象だということです。
もう一つ見逃せないのは、ドラッグ・ベイビーの存在でしょう。小学校、中学校から、ドラッグとセックスに溺れた結果できた赤ちゃんのことです。ドラッグ・ベイビーの正確な数字は分りませんが、虐待死した赤ちゃん、子供の半数はドラッグ・ベイビーで、親がドラッグを断ち切れずにいる、麻薬中毒患者だとみられています。
若いカップルの"アラ、赤ちゃん、できちゃった"、そしてやむなく同棲、結婚した若いカップルにも幼児虐待が多く、親の心のどこかに"この子さえ、いなければ、私の人生はもっと豊かに開けていたはずだ"という影を落としているとしか思えません。初めから祝福されずに生まれてくる赤ちゃんの不幸です。
幼児虐待を防ごうと、主に宗教団体が中心なって行っている社会運動があるにはあります。Child help-Hotline(幼児救済110番)を設け24時間体制をとってはいますが、幼子が自分でそこへ電話できるわけがありませんから、近所の人が、「どうも隣の家で、子供が悲鳴をあげている…」と訴えるのを待つよりほかないのが実情です。
これでも教育者の端くれですから、どうも社会悪のあらゆる原因を教育にもとめる傾向が、私にはあるようです。
アメリカでは、貧しさと教育の低さは隣り合わせです。頭脳明晰な天才児を伸ばす教育では、アメリカは良いものをもっているかもしれませんが、底辺の子供たちを社会人として、独り立ちできるように育てる教育はとてもお粗末です。
何でも自分が自分がとエゴを先行させ、自分以外の人間、生き物も自分と同じ生命を持っていること、あらゆる生命を大切にすることが生きる上で基本であることなど、全く分からないまま大人になるのです。自我に覚醒していない大人がなんとアメリカには多いことでしょう。
何でも一番が好きなアメリカですが、不名誉な一番を一つずつ消していかなければ、アメリカに未来はありません。
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