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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第200回:男性にとって理想の生き方と日本女性の本当の強さ

更新日2011/03/10


とりとめもなく勝手なことを書いてきましたが、これが連載200回目になったのに驚いています。もうかれこれ3年半も続けてきたことになります。どうかこれからもよろしく。

誰が言い出したのでしょうか、男にとって理想の人生は、『西洋の家に住み、中国人のコックを雇い、日本人のお嫁さんを貰うことだ』と言うのです。それに加え、フランス女性の愛人(これはよく変わるらしく、ポーランド女性、スロバキア女性も名を連ねています)を持つことだとも言われています。

西洋の住宅が広さと便利さだけから言えば、アジアやアフリカの家より住みやすいといってもよいでしょうけど、次の中華料理をもって最高とすることに疑問を挟む人は多いことでしょう。とりわけフランス人、イタリア人は、この件に関して自国の料理こそ一番!と、一歩も引かないでしょうね。

第一、中華料理が西欧、その他の国に知れ渡り拡がったのは、ここ30~40年のことですし、それ以前は中国人街でチョップスイ屋などと呼ばれ、ただ安いだけが取り柄の風変わりな食べ物としかみなされていませんでした。広い中国の地方色豊かな様々な料理が紹介され、中国にもこんなに繊細な料理があったのかと紹介され、知れ渡ったのはつい最近のことです。この箴言は中華料理になじみのある、中国周辺の国からきたと想像できます。

次が一番の曲者で、"日本人のお嫁さん"が世界で最高と言うのですから、日本の女性以外の全世界の女性にとって、心穏やかではありません。家の方は実際に住んでみなくても、ハリウッド映画や旅行の先々で覗き見できますから、案外真実に近いでしょう。 食べ物も個人的に好き嫌いはあるにしろ、世界中の色々な料理を食べる機会がありますから、広い選択枝の中から選ぶことができると認めてあげてもいいでしょう。

ところがお嫁さん、妻となると、とっかえひっかえ試してみるわけにいきませんから、どこの国の女性が妻として最高なのかは比較できることではありません。日本の奥さんを持つ日本人の男性が全員、ウチのお嫁さんは最高、あとは家とコックさえ何とかなればと思っているのかどうかは怪しいものです。百歩譲って、他の国の女性は知らないけど、「ウチのかーちゃんは、俺にとって最高だ!」と思い込んでいる幸せな夫には触れないでおくのが礼儀でしょうね。

日本女性が、従順で慎ましく夫に仕えることで定評があるのは事実です。ですが、これはあくまでソトから見た場合に限ったことで、夫婦のことはソトからでは分からないのは世界中どこに行っても同じです。この箴言は、第二次世界大戦や朝鮮戦争帰りのGIが"言い出しっぺ"かと想像していたところ、それ以前から語り次がれていたようです。まして古臭い言い回しですが、『戦後日本で強くなったのは、ナイロンの靴下と女性だ』と、もう40~50年前から固定したイメージになっていますから、いまさら何を思って世界中で一番のお嫁さんは日本女性だとしたのか、ますます分からなくなります。

こう言っても、決して日本女性の恥にはならないと思うのですが、日本人の奥さんたちは実に強いと思います。それも、とても利口なやり方でダンナさんを操り、主導権を握っているのです。ダンナさんには、亭主関白とまでいかなくても、まさか自分が妻の想い通りに動かされているとは全く気付かれないよう、上手にダンナさんを立て、前面に押し出し、しかしコントロールしているのは、後ろにいる奥さんという図式が見えてくる夫婦が多いように思います。

数年前、この町に住む日系人の新年会に出かけたところ、戦争花嫁(今は孫のいるお婆さんになっていますが)がアメリカ人のダンナさんを連れて大勢来ていました。マー、その叔母さん、お婆さんたちの元気のいいことといったらありません。体が大きいだけのアメリカ人のダンナさんたちは見る影もなく、体積でいくと半分以下の日系オバタリアンの尻に敷かれているのです。

こちらに住んでいる日本人の若い奥さんたち(アメリカ人と結婚している日本女性の方が、アメリカ人女性と結婚している日本男児より圧倒的に多いのはどうしたことでしょう?)や、日本に行った時に垣間見る夫婦でも、日本女性が強いというのか、引くところは引き、自分を殺し、押すところは強く押し、しかし、最終的には自分の意思を通す巧みさで勝ちを納めているように見受けられます。要はとても賢いのです。

これがアメリカなら、一挙に派手な口喧嘩から相手を中傷し合い、離婚までツッ走る事態になりかねないシーンも何度も見ましたが、何事もなかったように流しているのです。 人様の目の前では争わず、二人だけになった時に、奥さんが逆襲しているのかもしれませんね。

私は日本女性に謙虚で慎ましい一面があることを認めるのにヤブサカではありませんが、とても強いという印象を拭い去ることができません。花嫁衣裳で冠る白い頭巾のことを確か『角隠し』と言うのではなかったかしら。

 

 

第201回:天災の国

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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