第892回:美味しい水、美味しい空気
2ヵ月間スキー場近くの町サライダで過ごし、それから私の父親が住んでいた老人向けのコンドミニアムの後片付けに2週間、カンサスシティーの東30キロにあるブルースプリングから帰ってきたところです。
いつものことですが、高原台地の森の中にある我が家に帰ってくると、その静かさに驚かされます。
スキー場の町、サライダは小さな、古く、落ち着いた町なのですが、それでも常に車の音が通奏低音のように響いていますし、お父さんの老人ホーム自体はかなり広い独立した居住地区になってはいるのですが、300~400メートル離れたところにI-70(インターステイト70号)というアメリカ大陸を東西に横切る幹線ハイウェイが走っているので、24時間絶え間なく超大型トイレラーのディーゼルエンジンの音が聞こえてきます。
この程度の騒音は街の郊外に住む以上当たり前のことで、すぐにも慣れてしまうのかもしれませんね。もっとも、老人ホームの人たちは多かれ少なかれ皆耳が遠いので、全く気にならないのかもしれませんが…。
スキー場近くの町サライダでは、町の中心近く、メインストリートまで歩いて3~5分ほどのアパートを借りていました。もう何年も同じアパートです。もちろん家賃が安いことが一番の理由ですが、ここの大家さんボビーがとても良い人で、しかも気楽、おおらかなタイプなので、私たちもとてもリラックスできるからです。
ボビーは今年看護婦さんを引退したばかりの、アウトドアタイプの人で、この町サライダをとても気に入っています。その大きな理由は水と空気が良いことだと言うのです。
サライダは高い山嶺に挟まれた細長い谷にあり、周囲何百キロに大きな工場などがないところなので、空気がとても澄んでいるのです。ここの気象ですが、バナナベルトと呼ぶくらい狭く、長い谷は晴天日が多く、15分離れたスキー場で猛吹雪でも、この谷に降りてくると不思議なくらい晴れているのです。それでいて、空気は山のものなのです。もっとも、標高は2,000メートルほどありますが…。そして、ウチのダンナさんのセオリー、その町から雪山が見えるところは、水が良い水道水があり、味も美味しいのです。
一方のブルースプリングは、全米水道水コンクールで常に上位にランクされているくらいですから、水道から高級なミネラルウォーターが出てくるようなところです。しかし、空気の方はそうはいきません。遥か西にある大都会のカンサスシティーの方はいつもベージュ、あるいは灰色の空気が覆っていますし、それが西風に乗ってブルースプリングへと流れてくる日が多いのです。
空の色は、そこに住んでいると当たり前のことのようにその地域の空に慣れてしまいますが、車で我が家に向かい、ロッキー山脈に差し掛かるとエェッ、空ってこんなに青かったんだと感動します。それだけ空気が澄んでいるのでしょうね。
そして、我が家から見る空は絶品です。昼間はあくまでも青く、ほとんど深い、濃い青で、とりわけ夜空の星は見事です。まるで満天がグンと近づいてきたかのように、天の河が大空を横切って見えるのです。ただ、カリフォルニアの火事、ユタ州、アリゾナ州で大砂嵐があると、翌日ここにその余燼(よじん)が押し寄せてくるので、その期間はどんよりとした嫌な空気が大気を覆い尽くします。
それと春、秋の2回、山に放してあった牛を集めこの大地の牧場に降ろす時、その逆に牛を山に追い込む時、ホンの1週間足らずの期間ですが、牛が垂れ流すウンコ、オシッコの香りがこの台地を覆います。でもまあ~、それは田舎に住むための小さな税金のようなものでしょう。
さて、水のことですが、ここには水道がきていませんから、この台地の住人、牧場は、すべて地下水に頼っています。美味しい水なのですが、硬水も硬水で薪ストーブの上に乗せている蒸発皿の内側は石灰が見事にへばり付き、それも白くガチガチに固まり、ダンナさんは年に何度か、ノミで削り取っています。「オイ、こんなモノがお腹の中に溜まり、くっ付いていたら、敵わんな…」と言っています。
マアー、気休めのため、水のサンプルを市の保健所に持って行き、検査して貰っています。飲むのに全く問題なしのお墨付きを貰っています。
澄んだ空気と美味しい水は生きていく上で当然のモノだと思っていたところ、この両方がある地域は案外少なく、むしろ見つけるのが難しいくらい希少価値が出てきたようなのです。
こんなに地球を汚してしまったことを嘆かずにはいられませんが、同時に、まだ澄んだ空気とまあまあ美味しい水のあるところに住めるだけ幸運だと思っています。それも、こんな幸運を味わえるのは、いつまでのことやら分からないのですが…。
第893回:アメリカを滅ぼす私兵軍団
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