第33回:Peking (4)更新日2006/11/02
午後からは、天安門と紫禁城へと向かう。ベルナルド・ベルトリッチ監督の映画『ラストエンペラー』をはじめとして、何度も映画や小説に登場するこの場所は、天安門事件時の混乱の様を、じっとTVのニュースに噛り付いて見た記憶から、いつかは絶対に訪ねてみたいと思っていた場所だった。
門を潜って中に入った時の感動は、とても言葉で言い表せるようなものではなかった。同じ東洋の国でありながら、大陸の中国と島国の日本では、宮殿建築ひとつにしてもこれだけの違いが生まれるのだと素直に教えられる。
とにかくすべてが巨大だった。しかもそれでいてアジアらしいところは、建物の裏にある敷居にまで、細かい彫刻や絵画が散りばめられていることであった。これだけの物を築くのに、いったいどれだけの人員と歳月を要したのだろうか。(噂の紫禁城内にあるスターバックスも、話の種に見学させてもらったが、実際なんでこんなところにスターバックスに開店許可を出したのか理解に苦しむ。そういえば上海の豫園にもスターバックスはあった…。)
これだけの物を観てまわるのに半日ではまったく足りないということで、歩き回るのは断念して、午後のすべてを場内の一角に座り込んで、ただただそこに漂う空気を堪能した。夕暮れ時になると、天安門広場で衛兵の行進を見ることができた。
兵士たちの隊列ぶりというのは、非常にその国の国民性を表しており、東欧や東南アジアなどの兵士たちは、結構いい加減でそれなりなのだが、西欧はもちろんのこと、普段はラフなイメージを持たれているアメリカ人や中華系の人々は、こういう組織の中に組み込まれると、それはもう恐ろしいほどの没個性ぶりを発揮して団体の一部になりきってしまう。
巨大な毛沢東の壁画を前に、夕暮れに映えるこの行進振りを見ていると、何やら北朝鮮のマスゲームを連想してしまった。夕食はライトアップされた天安門を眺めながら食事ができる特等席で、意外にもいける中国のビールを楽しんだ。
北京の夜風を楽しみながら、宿まで歩いて帰る。どういう理由かは分からないが、とにかく中国では本屋を見つけるのに苦労した。長旅を続けていると、どうしても移動時間や気分転換に読書がしたくなるものだ。しかしながらこの中国では肝心の本屋が、そう簡単には見つからないのである。
この日もかなりの距離を歩いて帰ったのだが、やはり道程で一軒も本屋は見かけることができなかった。その代わりといってはなんだが、安物の音楽テープを売っている店に立ち寄った。店の中には中国物はもちろんのこと、洋楽や邦楽の種類も豊富に揃っていて、ここで手に入れた1本1ドルほどの音楽テープが、これから先の旅の間で持て余した時間をかなり楽にしてくれることになった。
ホテルの近くの広場では夜の10時くらいだというのに、40代から60代の男性女性が大勢集まって、安物のスピーカーから流れてくる大音響の割れた曲に合わせてダンス繰り広げていた。翌日の早朝にテンプル・オブ・ヘブンのある天壇公園へ行った時にも、やはり同年代の男性女性がエアロビクスやダンスを繰り広げていた。太極拳というのはよく聞いたが、近頃の流行はどうも80年代の『フラッシュダンス』風らしかった。
-…つづく
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