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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第678回:各駅停車で北上 - 東北本線 上野~仙台 -

更新日2019/01/24



東京から各駅停車、片道で行ける範囲の未乗区間は仙台地域と大阪地域くらいだ。東海道方面は名古屋まで各駅停車で行ったから、今回は東北方面としよう。青春18きっぷの4回目と5回目を使って仙台へ行く。昨年(2015年)に開業した仙台市営地下鉄東西線と仙石東北ラインがターゲットだ。仕事場がある大森駅から京浜東北線の始発、04時28分発に乗る。昨日の吾妻線よりも気合いが入っている。もちろん新路線だから。

始発列車は久しぶり。大森駅東側のエスカレーターが動いていて助かった。以前は06時30分から稼働していた。バリアフリーの推進だろうか。空いている車内。ロングシートに座ると、向かいの席に吉田羊に似た美人が座っている。幸先の良い旅だ。上野駅から東北本線の宇都宮行き。先頭車、クロスシートに座る。

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東北本線の旅を上野駅から始める

一人だから前席に足を投げ出す。が、1月である。つま先が寒い。靴を履いて座面に乗せるわけにはいかないから、ダウンジャケットを足に巻いた。それで上半身が寒くなった。未開封の缶コーヒーで手を温める。大宮を過ぎると建物の屋根も低くなった。晴天の朝だ。ようやく昇りだした太陽の光線が建物の隙間から連射してくる。陽が高くなると車内の温度が上がり、今度は眠りに誘われる。

06時51分。宇都宮着。乗り継ぐ列車は06時56分発。同一ホームで乗り換えできると思ったら、階段と跨線橋を通らなくてはいけない。先頭車に乗ってしまったせいで階段が遠い。鞄を背負って競歩。ギリギリ間に合った。JR東日本はもっと気が利く会社だと思っていた。ふだん乗り継ぐ人が少ないのか。息が切れそうだったけれど、女性車掌さんの可愛い声を聞いて落ち着いた。どんな美女かと振り向いたけれども、顔はマスクで覆われていた。

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宇都宮で乗り換えて黒磯着
乗ってきた電車はすぐに折り返し宇都宮行きになった

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黒磯から先は交流電化区間。新型電車だ

205系電車の4両編成、ロングシートは8割ほど埋まっていた。乗客はみなスキーやスノーボードの服装である。ああ、そうか。新幹線で宇都宮まで来て、乗り換えたわけだ。それが普通。東京都内から各駅停車で来る方が異端であった。このウインタースポーツ組は西那須野と那須塩原でほとんど降りていく。那須塩原にも新幹線は停まるはずだけど、時刻表を見ると、始発の新幹線は那須塩原には停まらない。

黒磯駅07時47分着。乗り継ぐ郡山行きは07時54分発である。7分の乗り継ぎ。そしてまた階段経由だ。今度は4両編成だから階段のそばに停まった。それはいいとして、階段経由の乗り継ぎが当たり前かもしれない。杖をつく人、車いすでエレベーターを使う人にはつらい。短距離で乗り継ぐ人は、「次はクルマに」と思うだろう。

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東日本大震災以降に掲出された津波注意

電車はさらに短くなって2両編成。交流電化区間用のE721系だ。セミクロスシートの席はほとんど埋まり、立ち客もいる。ウインタースポーツの装いと、青春18きっぷの装いが半々くらいである。青春18きっぷの装いとはなんだと思うかもしれないけれど、くたびれた肩掛け鞄または小さな背負いバッグで、ポケットの多い上着を着て、ジーパンまたはチノパンである。トレイン・トラディショナル。“トレトラ”という略称を流行らせたい。

私は運転席の真後ろに陣取って前方を眺めている。日曜日だけど各駅で待っているお客さんが多い。1日が始まる時間帯である。振り返ればかなり混雑していた。白河駅。左手に白河小峰城があり、天守閣が見える。明るいときに観ると印象が違う。いままでは夜行列車の車窓から、ライトアップされた姿を観ていた。だから白い天守だと思っていたけれど、壁は黒だ。

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白河城ではなく、白河小峰城が正しい

さらに調べると、正式には天守閣ではなく、三重櫓(やぐら)というそうだ。天守は権威の象徴として立派に作られ、櫓は防衛機能を追求して大きくなっていった。そして、白河駅の隣にあるから白河城、白河城趾と思っていたけれど、ここから南東に3kmほどの場所に南北朝時代の白川城趾があるため、駅から見える城は白河小峰城が正しい。

線路は直線区間が長く、時々ゆるいカーブになる。堂々たる複線区間、長編成の貨物列車がよく似合う。さすがは本線の貫禄だ。2両編成の電車にはもったいない。が、電車は恐縮することなく元気よく走る。須賀川駅のプラットホームには怪獣やウルトラマンの絵が飾られている。ウルトラマンを生んだ円谷英二氏の故郷である。駅前にはウルトラマンの銅像もあるらしい。円谷英二氏の像も作ってあげてほしい。

06
東北本線の貫禄を示す貨物列車

09時01分。郡山着。乗り継ぐ列車は09時24分発の福島行きだ。23分もある。高校生の頃、郡山駅の到着客向け放送は早口で「こりゃまっ、こりゃまっ、こりゃまあ、こおりやま駅です」だった。この特徴的な発音と、駅弁のきじ焼き弁当を覚えている。しかしいまの構内放送はゆっくり発音している。そりゃあ、25年も経てば変わるか。

駅弁屋のおばちゃんに、「きじ焼き弁当はないよね」と言うと、「あったかしらね…」と言う。もう古い話で、なにしろ構内放送が早口だったとマネして聞かせたら、「あら、覚えてるわ。ワタシその頃から駅弁売ってんの」と言う。「それじゃ高校生の頃の僕を覚えてませんか」と言うと、「いたかもね」と笑った。いまのオススメ駅弁は“海苔のりべん”である。これは以前、東京駅の駅弁屋祭かデパートの催事か忘れたけれど、食べたことがあって美味しかった。また買う。

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福島行きは719系電車。国鉄デザインが残る

プラットホームに降りると福島行き電車が待っていた。車内で座り、発車を待つ。貨物列車が通過した。TOYOTAという文字を大きく書いた青いコンテナを連ねている。トヨタロングパストレインだ。名古屋と盛岡を結び自動車部品を運んでいる。貨物列車の通過の2分後にこちらも発車する。トヨタの貨物列車に合わせて作ったようなダイヤである。

東北本線の昼行といえば、中学の修学旅行だ。たいていは京都・奈良に行くところを、幹事が国語の芹田先生だったから奥の細道を巡るコースになった。東北新幹線の開業1週間前で、在来線特急で行った。はつかりか、ひばりだったと思う。東北行きは芹田先生の好みか、あるいは新幹線開業待ちで旅館の集客が減って安かったか。そういえばあの人は高村光太郎も好きだった。車窓の遠くに安達太良山を見て思い出した。あの山は智恵子の本当の空の下にある。

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あれが智恵子の本当の空だという

海苔のりべんは、海苔とごはんが二段重ね。上段の海苔の下はおかか、下段の海苔の下は昆布が敷かれている。おかずはなくても食べられる味。おかずとして大きなだし巻き玉子が入っている。これが大きい。弁当箱の幅で横たわっている。濃い味付けでおかずになる。これで1,000円は悪くない。むしろ良い。

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海苔のりべん。うまし

福島には1分遅れで10時11分に着いた。次の電車は10時40分発。快速「仙台シティラビット3号」だ。仙台行きリレーの最終ランナー。バトン役の私も大役を果たす気分になる。E721系電車の3両編成。窓ガラスが紫外線対策の素材で青みがかっている。景色が早朝のように青い。北野武監督の映画みたいだ。車窓の撮影はあきらめた。

そして……、眠くなってきた。私は紫外線を断たれると眠る生き物だったらしい。

10
アンカーはE721系

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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