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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第679回:短い新路線 - 仙石線・東北本線接続線 -

更新日2019/01/31



仙台着11時56分。上野駅05時10分発の各駅停車に乗って約7時間だ。混雑で立ちっぱなしの列車もあったけれど、最後の列車で座れたから疲労感はない。しかもまだ昼前だ。仙台は各駅停車でも近い。青春18きっぷなら1回分、2,370円で行ける。

昼時だけど、朝昼兼用で駅弁を食べたから早い列車に乗り継ぐ。12時17分発の石巻行き。ただし仙石線ではなく東北本線の2番ホームに行く。2015年5月に走り始めた仙石東北ラインに初乗りするためだ。仙石東北ラインは路線名ではなく、運行系統の名前である。仙台から松島までは東北本線。そこから分岐して、仙石線に合流する連絡線を新設した。仙石線で石巻まで、さらに石巻線に進んで女川に行く列車もある。これが仙石東北ラインの内訳だ。東北本線と仙石線は乗車済だけど、両社を結ぶ連絡線は未乗。この線路が気になって仕方なかった。

01
仙石東北ラインのHB-E210系気動車

2番ホームに列車が来た。車体はステンレスの銀色、腰回りと窓の上に青い帯、扉付近はピンク。さっき乗ってきたE721系電車にそっくりだ。しかし運転席の窓の下に「HYBRID」の文字がある。電車のような顔をして、実はディーゼルエンジンとバッテリーとモーターを使って走る。分類としては気道車だ。エンジンで発電してモーターで走る。ならば発電所を積んだ電車ではないかと思うけれど、エンジンを積んでいる限り気動車だろうか。形式名は「HB-E210系」で、キハやモハではない。

02
車内に津波発生時の注意書きがある

市販の時刻表には列車番号が記載されている。これは鉄道事業者が列車ごとに管理している番号があって、そのまま掲載している。そして、基本的な規則では、列車番号の末尾にMが付けば電車、Dが付けば気動車、記号がなければ客車だ。仙石東北ラインはD。2014年から烏山線で蓄電池電車が走っている。こちらは非電化区間だけど電車扱いだ。烏山線の蓄電池列車はM。列車と動力の分類は悩ましいところだと思う。整備の手間を考えると、エンジンが付いていればDという規則かもしれない。

03
まずは東北本線を進む

走り始めれば、加速は電車のように早い。ただし微かにディーゼル発電機の音はする。これは小海線のハイブリッド車両でも感じたことだけど、意外とエンジン音は出る。クルマのハイブリッド車のように、走り始めはモーターで静かにという仕組みではない。電車のような気動車は4両編成で東北本線を走る。新幹線の高架下を走り、岩切で新幹線と分かれて東へ。ここから東北本線と仙石線が距離を置いて並行する。海寄りが仙石線で、東北本線は陸の奥。東北本線に塩釜駅があり、仙石線に本塩釜駅がある。塩釜から先へ行くにつれて、二つの路線は間隔を狭めていく。

04
松島湾と仙石線の線路

車窓はほぼ市街地、住宅地だ。地図を見ると、ここから先の仙石線は東北本線に絡みつく蔓のようだ。車窓右手に注目すると、仙石線の単線線路が見えた。トンネルをくぐると松島湾沿いになり、仙石線の線路と並んだ。東北本線と仙石線をつなぐ線路はここにできると思っていたけれど違った。実際に乗ってみれば、並んでいても高さが違う。仙石線は坂を下って海沿いの陸前浜田駅に立ち寄り、東北本線の下を通り抜ける。仙石線は東北本線の山側を経由し、こんどは東北本線を超えて海側に戻り、松島海岸駅となる。東北本線の松島駅はここよりずっと先にある。

この不思議な線路配置は、仙石線が東北本線に絡んだわけではない。順序は逆で、仙石線の前身の宮城電気鉄道が先にできた。勾配を緩やかにするためにカーブの連続となったところを、あとから東北本線が串刺しするように通り抜けた。東北本線はもともと利府を通るルートだったけれども、勾配が多く重量貨物列車を長編成にできず、補助機関車が必要だった。そこで現在の迂回ルートを作った。利府経由を山線、新ルートを海線と呼んでいたけれども、次第に海線経由がメインルートとなり、山線の利府以北は廃止された。

松島駅の手前で再び仙石線と東北本線はピタリと寄り添う。この先に連絡線がある。私は運転室の後ろにかぶりついた。列車が速度を下げ始めたときに上り貨物列車とすれ違った。東北本線の下り線から連絡線に入るためには、上り線を横切る必要がある。その前に貨物列車とすれ違う。絶妙なダイヤが組まれている。

05
連絡線手前の信号機

右カーブの途中で信号機が二つ並んでいた。左が東北本線で赤信号。右が仙石線で黄色。第一場内という看板がある。駅の構内という意味だ。徐行しつつ信号機を通過すると、カーブの先に分岐器が見えた。ハイブリッド列車はここで一時停止。自動音声が「パターン開始」と告げる。ここからゆっくりと動いて分岐器を通過。上り線に渡り、すぐに連絡線への分岐に進入した。上り線は交差線路だけでも良いような気がするけれど、分岐器の方が折り返し運転にも使えて便利かもしれない。

06
分岐器の手前で一旦停止

東北本線も仙石線も電化されているけれど、連絡線は非電化だ。なぜなら、東北本線は交流電化され、仙石線は宮城電気鉄道の直流を引き継いでいるから。連絡線を交流か直流で電化した場合、電化方式が異なる線路に入る前に、電車側の電力を切り替える無電化区間が必要になる。連絡線をまるごと無電化区間にしたいところだけど、無電化区間で列車を停めると立ち往生となるから、信号で一時停止などできない。そこで電化区間を問わず走行できるハイブリッド車両を新製したというわけだ。

07
新しい非電化線路

中古の気動車でも良さそうだけど、東北本線も仙石線もすべて電車だし、仙石線の運行間隔も短い。ハイブリッド車両なら電車の加速性能がある。既存の電車ダイヤに組み込みやすい。連絡線を作る構想は昔からあったらしい。しかし電化方式の違いを解決する方法がなく立ち消えになっていた。それが急遽立案され実現した理由のひとつは、東日本大震災の復興支援だ。そして、電車なみの加速と減速ができるハイブリッド気動車の実用化も大きい。

08
仙石線が近づいてきた

09
場内信号機が青に変わる

短い区間で景色の印象は薄い。東北本線側は雑木林、仙石線側は町を見下ろす高さがあって、少しだけど眺望がある。新しく作られた線路は砂利が新しい。そして新型電車。短いけれど立派な新路線だ。わざわざ乗りに来て良かった。仙石線の線路が見えた。赤信号で停止。パターン完了という自動音声を受けてから信号が青色に変わった。

10
仙石線へ!

-…つづく



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


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