第589回:四国をやっつける - 全日空589便 羽田~松山 -
四国に行きたい。行かねばならぬ。2014年が終わる前に。
大きな仕事がようやく手を放れた。今がチャンスだ。
2014年11月23日。徹夜明けの仕事を終えて自宅に戻り、鞄に着替えなどを放り込んで家を出た。この習慣はいつからだろう。かつては旅への期待を高めつつ、出発前日までに丁寧な荷造りをしていた。しかし最近は「とりあえず詰め込んで、いずれ、列車内かホテルで整えよう」と思う。結局、旅先でも整理せず、中身をひっくり返しては詰め込んで、を繰り返す。帰りは土産の紙袋に荷物があふれる。きっと今回もそうだ。
全日空589便で松山へ
京急電鉄の羽田空港行き急行電車は平日の昼も混んでいる。私の周りは大きな鞄を持った旅行者たち。二人から数人のグループばかりだ。一人旅は少ない。はやくも私の孤独感が募っていく。ひとり暮らしの部屋では何も感じない。見知らぬ人に囲まれると寂しくなる。もう旅は始まっている。
国内線ターミナル駅から第2ターミナルの出発ロビーのカウンターへ。今回は株主優待料金で手配したから、手荷物検査場に直行できない。自動チェックイン機で予約番号と株主優待券を登録し、搭乗券を発行してもらう。株主優待券を持っているからと言って株主とは限らない。航空会社も心得ていて、カウンターへ行っても恭しく振る舞ってくれるわけではない。わざわざ自動チェックイン機の手間が増えるだけだ。本物の株主なら、この扱いは残念に思うだろう。
秋の青空へ離陸
私の株主優待券はチケットショップで購入した。株主優待料金は正規運賃の半額で、株主ではなくても、チケットショップで優待券を購入できる。だいたい3,000円から5,000円が相場らしい。それを合わせても、7日前割引運賃より少し安い。今回は旅立ちの決定が遅かった。少しでも安く乗ろうとしてこうなった。
搭乗ロビーのテレビでニュースを観る。昨夜、長野県白馬村で震度6の地震があった。夜に起きた災害は、明るくなるまで被害の詳細がわからない。住居の全半壊多数という。信州は私の第二の故郷である。11月はもう寒いだろう。ここで案じても仕方ないが、遊びに出かけていいものかと思う。しかし、災害は世界中で起きている。気にしていたら身動きが取れない。
富士山は雪化粧
全日空589便。12時ちょうど出発の松山空港行きである。予約時のシートマップはほぼ満席だった。搭乗口のアナウンスではプレミアムシートも満席で、アップグレードはできないと言っていた。人気のある路線だ。定刻に離陸。晴天の空へ舞い上がる。松山空港到着予定は13時35分。座席番号37Aの機窓から地上がよく見える。富士山は真っ白だ。
なぜ四国に行かねばならぬか。第一に悔しさである。昨年末、2014年の旅行ブームを占うという記事を書いた。今年は四国ブームだと予測した。2014年は四国八十八ヵ所霊場の開創1200年である。ところが、これが全国的に盛り上がっていない。2013年は伊勢神宮の式年遷宮と、出雲大社の60年ぶりの大遷宮があって、どちらも観光客でにぎわった。霊場開創1200年は、遷宮に匹敵するイベントであった。
四国はなにをやっているのか、マスコミはもっと煽っても良いのではないか、という思いがある。神道と仏教の扱いの差なのだろうか。世の中が四国に冷たいような気がする。ならば、私が四国へ行き、楽しんでやろうかと意地になっている。
瀬戸内海が広がる
第二に私の事情であった。今度の旅で四国の鉄道を踏破できる。2013年の春に九州の鉄道を完乗した。その直前の旅で高松に立ち寄り、琴電を完乗している。残すは予土線、高徳線、伊予鉄道、土佐電鉄であった。予讃線には観光列車“伊予灘ものがたり”が誕生した。この列車は向井原と伊予大洲の区間で下灘経由だ。私にとって未乗区間の海線を通る。九州に続く完乗の区切りとして、四国をやっつけてしまいたい。この達成感は大きい。
589便が降下を始めた。やがて機窓に瀬戸内海が現れる。松山空港は松山市街から北西の海へ突き出す位置にある。しかし飛行機は海からそのまま降りず、右手に松山空港を見渡して旋回し、市街地側から着陸した。飛行機は向かい風で降りるから、今日は北風、または西風というわけだ。機内アナウンスによると10分遅れで到着。上空も西風が強かったようである。
松山空港をいったん通り過ぎて……
松山市上空で旋回
前方の滑走路へ進路を向ける
空港から松山市へ向かうバスは13時55分発だ。荷物を預けていないから、ギリギリで間に合いそうだ。しかしトイレに行きたくなった。次の便にするか、いや、それでは松山駅発の列車に間に合わないかもしれない。バスの所要時間は15分。まだ緊急事態ではない。よし、乗ってしまえ。
松山空港に着陸
空港連絡バスに乗る。バスの外観を撮る余裕なし
伊予鉄道の路面電車。松山に来たぞ
松山駅。高架化計画がある
松山駅着は14時09分。途中からバスの車窓を楽しむ余裕はなかったけれど、いろんな意味で間に合った。トイレに駆け込み、しばし放心し、旅の始まりを実感する。四国よ、私は三度やってきた。そして、今回で決着をつけてやる。
-…つづく
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